このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)

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第七章:新しいお仕事にはまだ慣れません(3)

「そうではなくて、ですね。マリーが、ほら。また、眼鏡をつかんで投げますよ? そのうち、マリーが眼鏡を壊すと思うんですよね」

 そう言ったところで、またクライブが眼鏡を外した。たったそれだけなのに、彼の雰囲気ががらりと異なる。

「う~」

 マリアンヌは眼鏡のないクライブに不満な様子。

 そうやってクライブの眼鏡で盛り上がっていると、王城に着いた。
 クライブは眼鏡を上着の内側にしまい込み、マリアンヌを片手で抱き上げた。空いている手をイリヤに差し出す。
 イリヤはためらわずにその手を取る。

 これから相手をするのは、クライブもエーヴァルトも口うるさい奴らと幾度となく愚痴っていた相手である。
 召喚の儀のときにイリヤもちらっと目にしたが、顔を見ただけでも一癖も二癖もありそうな人たちであった。

 王城に入ると、すぐさま控え室に案内される。そこには幾人もの侍女たちが待ち構えていた。

「あ~だ~だ~」

 マリアンヌが手足をばたつかせながら、おろせと騒いだ。

 クライブも困ったように顔をしかめたものの、マリアンヌに弱い彼は、すぐさまその主張を受け入れる。
 ソファの上におろされたマリアンヌは一人でおすわりをした。

「聖女様、お召し替えを。閣下とお嬢様は、こちらでお待ちください」
「クライブ様。マリーをお願いしますね」

 イリヤはこれからパーティー用のドレスに着替えるのだ。その話を聞いたときは、うへぇと思ったものの、これも周囲に聖女の存在を知らしめるためなので、仕方ないとわりきっている。

「まんま~まんま~」

 マリアンヌがソファの上で暴れ始めた。
 これはもしかして、後追いというようなそんな感じなのではないだろうか。

 クライブがすかさず眼鏡を取り出す。眼鏡をかけたクライブが、早く行けとでも言うかのように首を振る。

「では、聖女様」

 侍女の言葉に従い、隣の部屋へと移動する。

 先ほどまでの白いドレスを脱がされ、今度はコルセットをつけた。今度は、深い緑色のドレスを身につける。
 マホガニーの髪も結い上げられ、先ほどまでの清楚なイメージががらりとかわった。

「お美しいです、聖女様」

 姿見にうつる自分を見て、イリヤ自身もほぅとため息をついた。
 さすが、毒婦とか悪女とか、悪意ある噂が立っただけのことはあった。このようにきっちりとコルセットをつけてドレスを着たのは、いつ以来だろう。

 先ほどの部屋へと戻ると、マリアンヌはクライブに抱っこされてお菓子を食べていた。どうやら、もので釣ったらしい。

「まんま……?」

 さすがのマリアンヌもイリヤの変身ぶりには戸惑いを見せた。それよりも、クライブだ。人をじっと見つめたまま、口を開けて呆けている。そして、眼鏡はかけていない。

「クライブ様?」
「す、すまない……」

 眼鏡がないせいか、彼の顔がみるみるうちに赤く染まっていく様子がよくわかる。

「では、閣下も」
「は?」

 侍女に立つように促されたクライブは、何も知らないというように首を振る。

「陛下からは、閣下もとうかがっておりますが?」

 してやられたと、クライブの顔は言っていた。

「聖女様がこのようにお美しいのですよ? お嬢様も」
「だぁ?」

 にかっとマリアンヌが笑顔を向け、クライブはしぶしぶと席を立った。
 イリヤのドレスは、色は華やかであるが、胸元の飾り付けは派手ではない。だから、マリアンヌを抱き上げることもできる。

「お嬢様も、少しだけお直ししましょうね」

 マリアンヌも、イリヤのドレスの色と同じ深緑のリボンで髪が結ばれた。

「あ~う~」
「マリー、かわいいわね。よく似合っているわ」

 褒められてマリアンヌも悪い気はしないのだろう。さらに愛嬌を振りまいている。
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