聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!

澤谷弥(さわたに わたる)

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「聖女メルリラ、本日をもって聖女の任を解く。聖女として魔獣と対峙し、この国の平穏に貢献したことに感謝の意を表す」

 白く長い顎髭を持つ神殿長が、しわくちゃな声でそう告げた。

「はい、ありがとうございます」

 そう言って深く頭を下げると、滑らかな銀色の髪が肩を流れる。
 これにより、私は聖女メルリラからただのメルリラ・ジーニに戻った。いや、正確には今日が終わるまではまだ聖女だ。ゆえに、あと十二時間と少しは聖女を名乗ってもよいだろう。

 そもそも私は、ジーニ男爵の娘、いや、商人の娘である。父の商売が成功して財を成し、男爵位を授かったのだ。昔からの知人には、ジーニ男爵よりも「ジーニ会長」という呼び名のほうが馴染み深い。

 そんな私が聖女に任命されたのは、今から五年前、十七歳のときだ。魔獣の魔力に対抗できる聖力に目覚めたのがきっかけだった。両親も兄も姉も、そんな力は持ち合わせていなかった。顔はよく似ており、宝石のような紫の瞳はジーニ家三兄弟の共通の特徴だ。
それなのに、私だけが突如として聖力を発現したのだ。

 聖力とはその名のとおり聖なる力であり、魔獣が放つ魔の力――魔力に対抗できる唯一の力とされている。

 聖力に目覚めた者は、聖女や聖騎士と呼ばれ、神殿に仕えることになる。なお、男性に比べて女性が聖力に目覚める確率は低く、聖騎士十人に対して聖女は一人いるかいないかという割合だ。

 現在、神殿には聖女が三人、聖騎士が五十人ほど所属している。その三人の聖女のうちの一人が私だったが、明日、二十三歳を迎えるため、聖女の任期満了を迎える。

 これは、聖女の任期が二十二歳までと定められているためだ。この決まりは、聖女も一人の 人間であるという考えに基づいている。神殿に一生縛られるのではなく、一定期間聖女としての役目を果たした後は、自由に人生を歩んでほしいという意味が込められていると聞く。  昔は聖力が続くかぎり聖女を続けていたらしいけれど、何年か前の聖女がそんなふうに決まりを変えたとか。

 だから二十三歳になる私は、今日をもって聖女の役目を終えるのだ。

「お世話になりました」

 聖女は神殿内の聖女宮と呼ばれる場所で暮らしている。一人一部屋が与えられるが、共有の広間もあり、今そこには私以外の聖女二人と、明日から聖女となるサアラがいる。彼女たちの後ろには聖騎士たちが控えている。

 聖女には必ず専属の聖騎士が一人つく。専属は、聖女の聖力と相性の良い者、または聖女が望んだ者の中から選ばれる。

 聖騎士の役目は、聖女が結界を張るのを補佐したり、魔獣の攻撃から守ったりと、聖女を支えることだ。専属聖騎士と一般の聖騎士の違いは、聖女の聖力を回復できる点にある。

 聖女の聖力は無限ではない。結界を張って魔獣を封じるには相当な聖力を消費するし、負傷した聖騎士のために治癒能力を使えばさらに消耗する。夢中になりすぎて聖力の制御を誤り、聖力枯渇状態に陥ることもある。そのまま放置すれば命に関わるため、専属聖騎士が聖女の聖力を回復させるのだ。もちろん、聖女が聖騎士の聖力を回復することも可能だ。

 聖力の回復方法には、聖騎士が自身の聖力を分け与える方法や、聖女自身の残存聖力を練って高める方法がある。ただし、具体的な手法は個人によって異なり、聖女と専属聖騎士だけがその詳細を知る。これは、過去に聖力回復を悪用した事件が起きたためだとされているが、事件の具体的な内容は伏せられている。
 要するに、聖女と専属聖騎士がいれば、互いに聖力を回復し合えるのだ。

「メルリラさん。いなくなっちゃうんですね。サアラ、メルリラさんがいなくて大丈夫かなぁ?」

 聖女見習いのサアラが不安そうに顔を曇らせると、聖騎士のウィリーが彼女の腰に手を回しながら声をかける。

「サアラなら大丈夫だよ」

 二人の間には、見るからに一線どころか二線、三線を超えたような親密な空気が漂っている。

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