聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!

澤谷弥(さわたに わたる)

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「メルリラさん、私たちだけでは不安です」

 顔を見合わせてうなずき合うのは、聖女のリンダとベスだ。二人とも二十歳で、任期満了まであと二年ある。一方、サアラは今日まで聖女見習いだったが、明日から正式な聖女となる。十八歳の彼女は、この中では最年少で、ピンクの髪がひときわ目立つ。聖女候補の間、私は彼女の教育を担当してきた。

 サアラが悪い子ではないのはわかっている。ただ、リンダやベスとは少し気質が異なるため、そこが心配だった。

「ウィリーが言うように、あなたは聖女としての教育をすべて終えているわ。だから、自信を持って」
「メルリラさぁあああん」

 子犬のようにはしゃぎながら、サアラが私に抱きついてきた。

「リンダとベスも、サアラのことをよろしくね。あなたたちも」

 ウィリーとは異なり控えめに立つ彼女たちの専属聖騎士たちにも声をかけた。

「それよりも、メルリラさんの聖騎士はどこに行ったんですかぁ? 聖女を辞めたら、専属聖騎士と結婚するんですよね? それが慣例だって。だったら、サアラの聖騎士がウィリーでよかったなぁ、なんて?」

 サアラの無邪気な言葉が、痛いところを突いた。私は彼女の頭をそっとなでた。

「慣例と言っても、絶対じゃないわ。聖女の百人中九十八人くらいが、任期満了後に専属聖騎士と結婚したってだけよ」
「ですよねぇ? だって、メルリラさんとあの人が結婚するとは思えないですしぃ、なんでメルリラさんの聖騎士はあの人なんですかぁ?」

 そう言ったサアラは、唇の下に人差し指を当て「なんで? なんで?」と目で訴えてくる。

 それは私自身も聞きたいことだ。だが、神殿長によると、私と彼の聖力の相性が抜群に良いからだという。

 聖女の専属聖騎士を選ぶ方法は二つある。一つは聖女が聖騎士の中から指名する方法、もう一つは神殿長が選ぶ方法だ。前者の場合、聖女が聖騎士に好意を抱いていることがほとんどだ。リンダとベス、そしてサアラは自分で聖騎士を選んだ。リンダとベスは幼なじみの相手を選んだようだが、サアラは「顔で選んだ」と笑いながら言っていた。

 だが、私は自分で選べなかった。数多くの聖騎士の中で顔見知りの者はいなかったし、直感も働かなかった。その結果、私の専属聖騎士となったのはフェイビアンという男だ。彼は少々どころか、かなり厄介な性格の持ち主で、聖力の相性は良いかもしれないが、性格の相性は最悪だった。

 そのことは、サアラが心配するほど。 「私がフェイを選んだのではなく、神殿長が選んだから、かしら?」
 その言葉に、サアラは納得したようだった。

「ですよねぇ? だってぇ、少し話しただけでわかりますもん。あの人、『邪魔だ』とか『退け』とかしか言わないじゃないですか! メルリラさんがよく耐えてるなぁって、ずっと思ってましたぁ!」

 サアラの語尾を伸ばしたり、調子を上げたりする話し方は、彼女の癖なのだろう。それでも、フェイビアンの口調を真似する様子は、笑いをこらえるのが難しいほどそっくりだった。

 彼女の話し方については、気づいたときに直すようと伝えている。それでも「だってぇ~」と語尾を伸ばしながら言い訳されたのは、記憶に新しい。

「私が聖女じゃなくなるんだから、フェイもきっとせいせいするわ。たぶん、彼は聖騎士として残ると思うから、これからもよろしくね」

 そう言いながらサアラのピンクの髪をなでたが、彼女は少し不満げな顔をしていた。

「メルリラさんが辞めるなら、あの人も聖騎士を辞めればいいのにぃ……」
「聖騎士は聖女と違って任期がないのよ。自分で辞めたいときに辞められるわ」
「だってぇ、あの人、聖騎士じゃなくてもいい家柄だって聞いてますよぉ? サアラなんて平民ですしぃ? それに、あの人、けっこういい年ですよねぇ?」

 聖力は誰に発現するかわからない。サアラのような平民の娘もいれば、フェイビアンのような名門の出身者もいるし、発現する年齢も人それぞれだ。

 だが、神殿に入れば身分は関係なくなる。それどころか、聖女は王族に次ぐ地位となり、聖騎士は貴族に準じる。これは、聖女の聖力だけが魔獣を寄せ付けない結界を張ることができ、怪我を癒す治癒能力を持つためだ。

「いい年……そうね、たぶん二十八歳くらいだったかしら?」
「サアラと十歳も離れてる! もう恋愛対象じゃないですよぅ。それで、メルリラさんは聖女を辞めたらどうするんですかぁ? 結婚しないんですよねぇ?」
「うーん、フェイとは結婚しないけど、私もそこそこいい歳だし、結婚はしたいなと思ってるの」
「え、え? 誰ですかぁ? 誰と結婚するんですかぁ?」

 さすがに他人の恋愛話には興味津々な年頃なのだろう。
 リンダとベスもさりげなく聞き耳を立てているし、彼女たちの聖騎士たちもだ。

「そうね、残念ながら相手がいないのよ。だから、婚活しようと思ってるの。」

 私のその宣言に、そこにいた六人はきょとんとした顔をしていた。

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