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しおりを挟む「外出とは珍しいですね。シスター・エマ」
突然、背後から聞こえた声。
驚きのあまり高価な大輪の百合を手折りそうになったのは北の礼拝堂でのことだったーー。
週番の仕事は主に塔の見廻りだけど、やるべき事は無限にある。
掃除や備品の補充、祭壇の花のお世話。
夕飯もそこそこに、また見廻りを続けるなんてことは日常だ。
けど今日は初めての申し出をした。
「用事があるので明日まで週番作業を休みたい」
と。
嫌な顔をされ渋られると思いきや、打ち明けた修道士は快く受け入れてくれた。
その上、大神殿に行くと知ったら拍手して大喜びするほどだった。
(なんだか拍子抜けしちゃった。私が間違ってたのかしら。週番の仕事を真面目にすることが、私に求められてる事だと思っていたのに)
そう思いつつ、習慣で足は礼拝室に向かっていた。
外出許可は貰ったのに約束の時間まで何をすればいいのかも判らず、時間も体も持て余した私は、つい花の水換えに来てしまっていた。
「どんな方なのかしら……」
祭壇の女神像が見守る下で、昨日生けたばかりの百合の香りに、うっとりと目を閉じる。
こんな自分を気にかけてくれる人がいるなんて信じられない。
不安の方が大きいのはもちろんだけど時間が近付くにつれ胸が高鳴るのも本当だった。
「敬虔な貴女がどうしたことか。外出とは珍しいですね。シスター・エマ」
声がしたのは、その時だった。
驚いたけれど体は動かない。背後に寄り沿うように男が立っていたからだ。
「まさか盛りのついた雌犬のように男を漁りに行くつもりじゃないだろうな」
含みのある独特な話し方で、そこにいるのが誰かわかる。
私の実習を担当したヒゲの修道士ーーたしか名前はルーメンだったはずだ。
「い、犬だなんて……騎士様方の無事の帰還を、大神殿の女神様に感謝申し上げに行くだけです」
「わざわざ大神殿まで? 塔での奉仕に明け暮れていたような女が……少し、悦くし過ぎたか」
両側から忍び寄る手が腰を撫でていく。
左手は布地を這い上がり、胸の膨らみを捕らえた。
そして右手は布地の上をすべり下腹部へーー。
「やめてください」の一言すら体が震えて出てこない。
髪の匂いを嗅ぐ男の吐息を感じながら、私は身を固くすることしか出来なかった。
子宮のあたりを撫でまわした手は、さらに下へと忍び寄る。
男の指が股に食い込み、筋をゆっくりとなぞりはじめた。
「や………」
「悦い、とそう言うようにと教えただろう」
「う、うぅ」
「ここに男の硬いものを欲しいと、あんなによがっても咥えさせてもらえないのだから……体が疼くのも仕方がないか」
上も下も敏感な突起を指で押し込まれ、思わず湿った声を漏らしてしまう。
「本心では私のマラがここに欲しいと願っているのに……寂しい思いをさせているな。可哀想な私のエマ……」
女陰を辿る指は、何度も筋を擦り上げ、軽く指で叩いて中を刺激する。
後ろから体を抱きすくめ、男は腰を押し付けるように揺らす。
なぜか塔の修道士にあってはならない、陰茎が脈打つ感触が腰に伝わる。
(まさか……禁制を受けた修道士なのにありえない。勘違いだわ)
ルーメンはさらに強く抱きしめ、うわ言のように繰り返す。
「もうすぐだ。もうすぐ寂しい思いをさせずにすむ……もうすぐだエマ……」
耳元で囁き、さらに腰を強く押し付けた。
すると、ガタンッと音がして、奥の準備室から人の気配がする。
男の力がゆるんだ隙に、
「わ、私、約束があるので、失礼します……っ」
腕からすり抜けた私は、そのまま足早に出口にむかう。
「門限までに必ず戻るように。いいですね、シスター・エマ」
背中にルーメンの声を聞きながら、私は礼拝室をあとにした。
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