聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!

澤谷弥(さわたに わたる)

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 聖女を終了した私は、実家へと戻った。姉は他家へ嫁いでしまったが、ここには両親と兄夫婦がいる。小姑が戻ってきてしまってごめんなさいという気持ちはあったけれど、義姉のヘンリエッタはそんな私にもやさしかった。

 というのも、婚活をしているのにさっぱりと相手が見つからないからだ。

「どうやらね。聖女だったというのが、マイナスのイメージになっているみたいなのよね」

 兄夫婦とサロンでお茶を飲みながら婚活状況について報告したところ、義姉からそんなことを言われた。

「ええ? どうしてですか?」
「聖女だったってことは、その……聖騎士とそういう関係にあったってことでしょ?」
「そういう関係?」
「男女の関係よ。一線を超えた、みたいな? 身体を重ね合わせたみたいな?」

 言い方を濁しているが、つまり性交渉をしていたと言いたいようだ。

「な、何を言ってるんですか。私、こう見えてもぴっかぴかのしょ……」
「はい、はい、はい! お兄ちゃんは妹のそんな赤裸々な話は聞きたくないなぁ?」

 兄が止めてくれなければ、私は自分の性事情を赤裸々に話してしまうところだった。

「まぁね? あなたを見ていれば男を知らないだろうなというのはわかるけれど、世間はそう思ってはいないのよね。だって聖女様ですもの。聖女は聖騎士のもの。聖女の任を解かれれば聖騎士と結婚する」
「だ~か~ら~。それだって絶対っていうわけではないんですって。そりゃ、長年、あんな閉鎖的なところでもっとも側にいる異性が専属の聖騎士ですから、そこから男女の関係に発展したっておかしくはありませんし、私以外の聖女たちは、そんな関係でしたし? だけど私の聖騎士は、そんなんじゃないんですって。もう、冷たいなんてもんじゃないです。凍える? 冷凍? あ、冷酷か?」
「なんか、あれよね。聖女になったってだけで、傷もの的扱い、みたいな?」

 ヘンリエッタのその言葉はある意味間違ってはいない。

「おい、メル。誰に穢されたんだ? お兄ちゃんが敵を討ってやる」
「だから、お兄ちゃんが話しに入ってくると、わけがわからない」
「ちょっと、あなたは黙っていてください」

 私とヘンリエッタから邪険に扱われた兄は、いじけてクッキーをばくばくと食べ始めた。

「一応ね。私たちの伝手でいろいろ情報は仕入れているし、あなたも積極的に社交の場には参加しているようだけれども……」

 そこで言葉を濁すということは、言いにくい結果であると推測できる。

「まぁ、縁談もないってわけじゃないの。あるのはある。だけどお義父さまよりも年上の男性との縁談とか後妻とか……」
「ですよねぇ? そんなうまくいくはずないですよねぇ?」

 はははは……と渇いた笑いで誤魔化す。

「でも、酷くないですか? 聖力があるからって勝手に人を聖女にしておいて、それが終われば傷もの扱いって。なんなの、この制度! 私も結婚したいんですけどぉ?」

 兄に負けじと、私もクッキーを頬張った。

「責任をとってもらえ」

 突然、兄がそんなことを言う。

「へきにん? だへに?」
「おまえの聖騎士だ。そいつに結婚を迫ればいい。あなたのせいで傷ものにされました。結婚してくださいって。おまえが言いにくいなら、お兄ちゃんから言ってやろうか?」
「いやいやいや。だから、お兄ちゃんは余計なことをしないでって。フェイと結婚したら、精神が凍えます」

 魔獣討伐で結界を張ろうとしたら「そこにいられたら邪魔だ」と言い、勝手に人を持ち上げて別の場所におろすし、怪我をした聖騎士に治癒能力を使おうとしたら「こいつらに使う必要はない。かすり傷だ」とか言って、仲間にも冷たかったし。

 フェイビアンとの思い出なんてそんなもの。でも、悪い人ではない。悪い人だったら五年間も一緒にいない。よく耐えたと思う、お互いに。

 特に私が聖女の中で最年長となってからは、フェイビアンに対して八つ当たりすることも多かったかもしれない。それは悪いとは思うけれど、私の文句も彼は左から右に聞き流していたから、さほどダメージはないはず。

「若旦那様、お客様が来ているのですが……旦那様が不在でして……」

 執事がやってきて、兄に耳打ちした。

「わかった。部屋に通してくれ」

 兄が真面目な顔で答えた。

「メル。どうやら君に客人のようだ。君の婚活を知って、ここに来たらしい。だが安心したまえ。相手は父さんよりも若い男だ」

 先ほどのヘンリエッタが紹介しようとした縁談に対抗してそう言ったに違いない。

「え?」

 私は義姉と顔を見合わせた。きっと神様が頑張った私にご褒美をくれたのだ。

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