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1:大好きなお姉さまが婚約破棄されました(11)
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両親は王城へと向かった。それは国王からの呼び出しに応えるためだ。
屋敷に残されたエレノアとセシリアは、砂糖事業計画についてを考えていた。まだフェルトンの街が正式にケアード公爵のものになったわけではないが、それだって時間の問題だろう。王城に向かう前の父親の自信に満ち足りた顔を見たら、幼いセシリアだってそう思ったのだ。
「こういう草が、白くてさらさらで甘い粉になるってことね?」
セシリアは字もきれいに書くが、絵も上手だ。イラストと呼べるような、デフォルメしたものを砂糖の作り方と称したページにさらりと描いている。字だけよりも絵もあったほうがわかりやすい。
「そうです、そうです。こういう背のたかぁい草が、白い粉になるんです。すごいですよね。信じられません」
きっとこの話を初めて耳にした者はセシリアと同じような感想を持つだろう。つまり、信じられないと。
信じられない気持ちを持つ人たちにどうやって興味を持たせるかが問題だ。
「草ぼうぼうだから切ります、って言えばいいのではありませんか?」
セシリアがぽつりと呟くと、エレノアは「なるほど」と頷く。
「フェルトンの街をこの目で見たわけではないから、また想像になってしまうけれども……。今まで使われていなかったということは、たくさん生えていてそのまま放置されているってことよね?」
「はい」
セシリアは力強く頷くが、フェルトンの街にさとうきびがあるのは『こどいや』クリエーターの遊び心が理由だ。だから、周辺の街並みがどうたらとか、気候がこうだとかは、恐らく無視されている。つまり、ご都合主義と呼ばれるもの。
とにかくフェルトンの街にはさとうきびが生えていて、まるで沖縄のとある場所のように見えると。そんな噂が立ったくらい。
そのご都合主義が今のケアード公爵家にとってはいい方向に転がっている。
「多分、そのままにしておいてもいいのですが。整備されていないのに、ぼうぼうと草が生えていたら知らない人が見たら驚きますよね。だから、まずは景観を整えるためという理由で切ってみるとかはどうですか?」
さとうきび畑だってさとうきび畑として手入れされ、周知されているからこそ、心をざわわと落ち着かせてくれる。
だが、何も知らぬフェルトンの街の者からすれば、ただの草に見えるかもしれない。それを、景観を整えるという理由により領主権限で切って収穫し、砂糖を作ってしまえばいのだ。
そしてできあがった砂糖をフェルトンの街で振るまい、彼らが興味を持ってくれたら砂糖事業として提案する。となれば、やはり砂糖の魅力を訴える相手としては、街の代表となるだろう。
フェルトンの街は代表と呼ばれる国から派遣されている役員、商会長らによってまとめられているようだが、代表と商会長の仲がいいとは言えないようだ。街の人も、代表にはいい印象を持ってはいない。なによりも国から派遣されている人間。義務的に税を取り立てるだけ。
「そうね。お父様がフェルトンの街の領主という形になるわね……。まずは商会長を説得して、さとうきびを切ることを周知させたほうがいいわね。いくら景観を整えるためという理由があっても、新参者がいきなり動き出すと反感を買いやすいわ」
フェルトンの商会長と仲良くするという過程も追加された。
そうやって姉妹で睦まじく砂糖事業の計画について話し合っていたら、慌てた様子で両親が帰ってきた。
「おかえりなさい、お父様、お母様」
「おかりなさい」
セシリアがエレノアと二人でエントランスホールに向かうと、両親は満ち足りた笑顔を向ける。
「ただいま、エレノア、セシリア」
父親は愛娘二人を抱き寄せ、頬ずりをする。
「お父様……うっ……」
「お父さま、苦しいです……」
「あなた。セシリアはまだしもエレノアは成人を迎えたのです。いくら娘でも、もう少し節度をもって接してください」
母親の冷静な声で、興奮しきっている父親も我に返る。
「す、すまない。おまえたちの顔を見たら安心してしまった。エレノア、おめでとう。というのも変だが……無事、ジェラルド殿下との婚約解消が認められた」
「本当ですか?」
「ああ。本当に少ない慰謝料を提示してきやがったから『娘にはこれしか価値がないのかと思って、憤っていたところです』とまで言ってきた。ついでに、外交大臣も辞めてきた」
ははははは……とケアード公爵は豪快に笑う。
「お姉さま。大臣とはそんな簡単に辞められるものなんですか?」
セシリアがこっそりと尋ねてみたが、エレノアもよくわからないとでも言うかのように、ゆるりと首を横に振るだけだった。
屋敷に残されたエレノアとセシリアは、砂糖事業計画についてを考えていた。まだフェルトンの街が正式にケアード公爵のものになったわけではないが、それだって時間の問題だろう。王城に向かう前の父親の自信に満ち足りた顔を見たら、幼いセシリアだってそう思ったのだ。
「こういう草が、白くてさらさらで甘い粉になるってことね?」
セシリアは字もきれいに書くが、絵も上手だ。イラストと呼べるような、デフォルメしたものを砂糖の作り方と称したページにさらりと描いている。字だけよりも絵もあったほうがわかりやすい。
「そうです、そうです。こういう背のたかぁい草が、白い粉になるんです。すごいですよね。信じられません」
きっとこの話を初めて耳にした者はセシリアと同じような感想を持つだろう。つまり、信じられないと。
信じられない気持ちを持つ人たちにどうやって興味を持たせるかが問題だ。
「草ぼうぼうだから切ります、って言えばいいのではありませんか?」
セシリアがぽつりと呟くと、エレノアは「なるほど」と頷く。
「フェルトンの街をこの目で見たわけではないから、また想像になってしまうけれども……。今まで使われていなかったということは、たくさん生えていてそのまま放置されているってことよね?」
「はい」
セシリアは力強く頷くが、フェルトンの街にさとうきびがあるのは『こどいや』クリエーターの遊び心が理由だ。だから、周辺の街並みがどうたらとか、気候がこうだとかは、恐らく無視されている。つまり、ご都合主義と呼ばれるもの。
とにかくフェルトンの街にはさとうきびが生えていて、まるで沖縄のとある場所のように見えると。そんな噂が立ったくらい。
そのご都合主義が今のケアード公爵家にとってはいい方向に転がっている。
「多分、そのままにしておいてもいいのですが。整備されていないのに、ぼうぼうと草が生えていたら知らない人が見たら驚きますよね。だから、まずは景観を整えるためという理由で切ってみるとかはどうですか?」
さとうきび畑だってさとうきび畑として手入れされ、周知されているからこそ、心をざわわと落ち着かせてくれる。
だが、何も知らぬフェルトンの街の者からすれば、ただの草に見えるかもしれない。それを、景観を整えるという理由により領主権限で切って収穫し、砂糖を作ってしまえばいのだ。
そしてできあがった砂糖をフェルトンの街で振るまい、彼らが興味を持ってくれたら砂糖事業として提案する。となれば、やはり砂糖の魅力を訴える相手としては、街の代表となるだろう。
フェルトンの街は代表と呼ばれる国から派遣されている役員、商会長らによってまとめられているようだが、代表と商会長の仲がいいとは言えないようだ。街の人も、代表にはいい印象を持ってはいない。なによりも国から派遣されている人間。義務的に税を取り立てるだけ。
「そうね。お父様がフェルトンの街の領主という形になるわね……。まずは商会長を説得して、さとうきびを切ることを周知させたほうがいいわね。いくら景観を整えるためという理由があっても、新参者がいきなり動き出すと反感を買いやすいわ」
フェルトンの商会長と仲良くするという過程も追加された。
そうやって姉妹で睦まじく砂糖事業の計画について話し合っていたら、慌てた様子で両親が帰ってきた。
「おかえりなさい、お父様、お母様」
「おかりなさい」
セシリアがエレノアと二人でエントランスホールに向かうと、両親は満ち足りた笑顔を向ける。
「ただいま、エレノア、セシリア」
父親は愛娘二人を抱き寄せ、頬ずりをする。
「お父様……うっ……」
「お父さま、苦しいです……」
「あなた。セシリアはまだしもエレノアは成人を迎えたのです。いくら娘でも、もう少し節度をもって接してください」
母親の冷静な声で、興奮しきっている父親も我に返る。
「す、すまない。おまえたちの顔を見たら安心してしまった。エレノア、おめでとう。というのも変だが……無事、ジェラルド殿下との婚約解消が認められた」
「本当ですか?」
「ああ。本当に少ない慰謝料を提示してきやがったから『娘にはこれしか価値がないのかと思って、憤っていたところです』とまで言ってきた。ついでに、外交大臣も辞めてきた」
ははははは……とケアード公爵は豪快に笑う。
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