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2:大好きなお姉さまとひきこもります(1)
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エレノアとジェラルドの婚約は解消された。その話は人から人へと伝えられ、魔法貴族たちの間に広がっていく。さらにそこを超えて貴族ら、街の人々、国中へと広まっていった。
また、ケアード公爵が外交大臣を辞したという話も。
これによりケアード公爵が王家の後ろ盾を失ったと思う者と、ケアード公爵が王家を見限ったと思う者と、大きく二つに分かれた。
しかし、当のケアード公爵はそのような噂を聞いても聞かぬ振りをしているし、公爵邸に関わる者たちもそういった話には口を閉ざす。
だが一部の人間は知っている。
ケアード公爵が国王に向かって啖呵を切ったことを。
『てっきり、王家側にとっては我が娘にはあれだけの価値しかないのかと、そう思いましたよ』
その場にいた者は、ケアード公爵のその言葉に震え上がるほどだったらしい。凍てついたような表情と棘のある声。それがそのまま形になって国王に刺さったかのように、国王も青ざめた顔をしていたとか。
国王としては「婚約解消について考え直してほしい」というケアード公爵の言葉を待っていたようだ。しかし公爵本人が『まさか、この婚約解消をなかったことにしてほしいと、私が言い出すのを待っているわけではないでしょうね』と冷たく言い放ったときは、突然の猛吹雪に襲われたかのように周囲が凍り付いたとのこと。
そこから国王は平謝りで『愚息が勝手にしでかしたこと』と慌てたようだが、ケアード公爵は婚約解消を見直すつもりはなかった。娘は深く傷ついているため、領地に戻る。だから、自分も外交大臣を辞めて一緒に領地についていくと。それを認めてもらえないのであれば、ケアード公爵の名にかけて娘の名誉を守るまで。
つまりそれとなくケアード公爵家の騎士団の存在をにおわせ、アッシュクロフ王国から独立してやるぞ、と。言葉巧みに威圧したのである。
そうなれば国王もたじたじだった――。
と、この話をセシリアとエレノアに伝えたのは、母親だ。
「もう、あのときのお父様ったら、本当にすごかったのよ? 王城内に吹雪を呼び寄せるんじゃないかって、魔力がうねっていてね。私がそれをなんとか押さえ込んでいたけれども」
ふふっと母親は可愛らしく笑ったが、その現場を想像したら可愛らしいものではないだろう。
今にも魔力を暴走させそうな父親。それを涼しい顔で見守り、夫の魔力を押さえ込む母親。
「もしかして……その場で一番強いのは、お母さま……?」
セシリアが言いかけたとき、エレノアには「しっ」と制された。
そんな両親も、なぜかフェルトンへ向かう馬車に、一緒に乗っていた。セシリアはエレノアと並んで座り、向かい側には両親がいる。
「ですが、お父様までフェルトンの街に向かうとは、思ってもおりませんでしたわ」
エレノアが言うように、セシリアも両親は王都セッテに残るものだと思っていた。そして領地と王都を行き来し、その間にフェルトンの街に顔を出すのだろうと。
しかし父親が言うには、王都にいたのは外交大臣の職があったためで、それだってエレノアがジェラルドと婚約したから引き受けただけであり、そこの繋がりがなくなったのだから無理して大臣職に就いている必要もないとのこと。
父親としてはそこのポジションに執着はないようだ。それに、他にもなりたそうな人がたくさんいたようで、すぐ後任が決まったと豪快に笑っていた。
ただ父親まで領地に戻るとなれば、王都の別邸から引き上げる形となる。そのため、そこで雇っていた使用人たちからはそれぞれ希望を聞き、希望の場所へと配属した。もちろん、フェルトンの街にも何人かにはついてきてもらう必要がある。新しい場所に不安を覚える者もいるだろう。
それでもエレノアたちが考えていたよりも多くの使用人がついてきてくれるというのは、彼女の人徳のおかげでもある。
「一応、私が新しい領主になるわけだからね。挨拶くらいは必要だろう? それにエレノアが考えた砂糖の事業案。あれは、なかなかよかった。そのためにも商会長と繋がりはもっておきたい」
「お父様が側にいてくださるなら、心強いです」
「フェルトンの街。私も実際に足を運んだことはないんだ。報告書などで名前を見たことはあったが……。もっと早く、他の場所も気にかけておくべきだった」
それは、慰謝料として提示された場所を気にかけているからだ。外交大臣として国外には目を光らせていた父親だが、国内は必要最小限の情報だけ。
「お父さま。まずはフェルトンの街を立て直して、うまくいったら他の場所にも砂糖事業を展開すればいいのです。砂糖を使った加工品とか……」
セシリアの言葉に父親は目を丸くしたが「そうだな」と頷いた。
そんな父親は、エレノアをフェルトンの街の領主代理として任命した。
「フェルトンの街……どのようなところかしら?」
セシリアだってフェルトンの街に詳しいわけではない。さとうきびが風に吹かれてゆらゆらしている場所という記憶だけ。
(だってオープニングにしか登場しない、いわゆるモブ街……。いえ、本文にもちょっとだけ記載はあった。フェルトンの街がうんたらかんたら、って。でも、その肝心の内容を思い出せない)
また、ケアード公爵が外交大臣を辞したという話も。
これによりケアード公爵が王家の後ろ盾を失ったと思う者と、ケアード公爵が王家を見限ったと思う者と、大きく二つに分かれた。
しかし、当のケアード公爵はそのような噂を聞いても聞かぬ振りをしているし、公爵邸に関わる者たちもそういった話には口を閉ざす。
だが一部の人間は知っている。
ケアード公爵が国王に向かって啖呵を切ったことを。
『てっきり、王家側にとっては我が娘にはあれだけの価値しかないのかと、そう思いましたよ』
その場にいた者は、ケアード公爵のその言葉に震え上がるほどだったらしい。凍てついたような表情と棘のある声。それがそのまま形になって国王に刺さったかのように、国王も青ざめた顔をしていたとか。
国王としては「婚約解消について考え直してほしい」というケアード公爵の言葉を待っていたようだ。しかし公爵本人が『まさか、この婚約解消をなかったことにしてほしいと、私が言い出すのを待っているわけではないでしょうね』と冷たく言い放ったときは、突然の猛吹雪に襲われたかのように周囲が凍り付いたとのこと。
そこから国王は平謝りで『愚息が勝手にしでかしたこと』と慌てたようだが、ケアード公爵は婚約解消を見直すつもりはなかった。娘は深く傷ついているため、領地に戻る。だから、自分も外交大臣を辞めて一緒に領地についていくと。それを認めてもらえないのであれば、ケアード公爵の名にかけて娘の名誉を守るまで。
つまりそれとなくケアード公爵家の騎士団の存在をにおわせ、アッシュクロフ王国から独立してやるぞ、と。言葉巧みに威圧したのである。
そうなれば国王もたじたじだった――。
と、この話をセシリアとエレノアに伝えたのは、母親だ。
「もう、あのときのお父様ったら、本当にすごかったのよ? 王城内に吹雪を呼び寄せるんじゃないかって、魔力がうねっていてね。私がそれをなんとか押さえ込んでいたけれども」
ふふっと母親は可愛らしく笑ったが、その現場を想像したら可愛らしいものではないだろう。
今にも魔力を暴走させそうな父親。それを涼しい顔で見守り、夫の魔力を押さえ込む母親。
「もしかして……その場で一番強いのは、お母さま……?」
セシリアが言いかけたとき、エレノアには「しっ」と制された。
そんな両親も、なぜかフェルトンへ向かう馬車に、一緒に乗っていた。セシリアはエレノアと並んで座り、向かい側には両親がいる。
「ですが、お父様までフェルトンの街に向かうとは、思ってもおりませんでしたわ」
エレノアが言うように、セシリアも両親は王都セッテに残るものだと思っていた。そして領地と王都を行き来し、その間にフェルトンの街に顔を出すのだろうと。
しかし父親が言うには、王都にいたのは外交大臣の職があったためで、それだってエレノアがジェラルドと婚約したから引き受けただけであり、そこの繋がりがなくなったのだから無理して大臣職に就いている必要もないとのこと。
父親としてはそこのポジションに執着はないようだ。それに、他にもなりたそうな人がたくさんいたようで、すぐ後任が決まったと豪快に笑っていた。
ただ父親まで領地に戻るとなれば、王都の別邸から引き上げる形となる。そのため、そこで雇っていた使用人たちからはそれぞれ希望を聞き、希望の場所へと配属した。もちろん、フェルトンの街にも何人かにはついてきてもらう必要がある。新しい場所に不安を覚える者もいるだろう。
それでもエレノアたちが考えていたよりも多くの使用人がついてきてくれるというのは、彼女の人徳のおかげでもある。
「一応、私が新しい領主になるわけだからね。挨拶くらいは必要だろう? それにエレノアが考えた砂糖の事業案。あれは、なかなかよかった。そのためにも商会長と繋がりはもっておきたい」
「お父様が側にいてくださるなら、心強いです」
「フェルトンの街。私も実際に足を運んだことはないんだ。報告書などで名前を見たことはあったが……。もっと早く、他の場所も気にかけておくべきだった」
それは、慰謝料として提示された場所を気にかけているからだ。外交大臣として国外には目を光らせていた父親だが、国内は必要最小限の情報だけ。
「お父さま。まずはフェルトンの街を立て直して、うまくいったら他の場所にも砂糖事業を展開すればいいのです。砂糖を使った加工品とか……」
セシリアの言葉に父親は目を丸くしたが「そうだな」と頷いた。
そんな父親は、エレノアをフェルトンの街の領主代理として任命した。
「フェルトンの街……どのようなところかしら?」
セシリアだってフェルトンの街に詳しいわけではない。さとうきびが風に吹かれてゆらゆらしている場所という記憶だけ。
(だってオープニングにしか登場しない、いわゆるモブ街……。いえ、本文にもちょっとだけ記載はあった。フェルトンの街がうんたらかんたら、って。でも、その肝心の内容を思い出せない)
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