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第二章(6)
モンクトン家の屋敷を後にし、庭園を抜けようとしたそのとき、ふいに声がかかった。
「シア。待ってくれ」
ボブが大きな身体を上下に揺らしながら走ってくる。だが、ヘリオスはお腹が空いて不機嫌そうだ。仕方なく息子を抱き上げた。
「ボブ、何かありましたか?」
「あぁ。六日後に王太子殿下を招いて晩餐会を開くのだが、料理に使う香辛料が足りなくて。王都の支店から運んでもらいたいんだ。それから演出に使うための魔石も足りなかった」
魔石とは魔力が込められた石のこと。魔力を持つ人間はゼロではないが数少ない。たいていは魔石が持つ魔力を使って、灯りにしたり火をつけたりしている。今回は王太子をもてなすことから、魔石の力で光の演出をしようとしていた。
貴重な魔石ではあるが、モンクトン商会はいくつか鉱山を所有しているため、安価で質のよい魔石が比較的楽に手に入る。
「在庫は確認していたはずなのに。実際に今日、準備を始めたらどちらも在庫が足りないことに気づいてね」
そこでボブはシアに手紙を渡す。
「この手紙を明日の朝、王都まで運んでもらえないか? 定期便に追加で送るよう書いてある」
シアは鳩を飼っている。どうやら記憶を失う前から飼っていた鳩で名前はぽっぽちゃんという。それを教えてくれたのはシェリーだった。
そしてぽっぽちゃんは通信文をやりとりできる伝書鳩でもある。サバドと王都間を今までも何度も往復していた。
さすがにこれからの時間にぽっぽちゃんを飛ばすのは気が引けたので、明日の朝と言ってもらえたのはありがたい。ボブだって急いでいるだろうに。
彼に別れを告げて家路を急ごうとすれば、また声をかけられる。
「シアさん。家まで送りますよ」
モンクトン商会の従業員のフランクだ。赤茶の髪を短く清潔に刈り上げている彼は、女性従業員からも客からも評判がよい。
シアを追いかけるボブについてきたのだろう。ボブは屋敷へと戻っていったが、フランクはそこにとどまってシアに声をかけてきたのだ。
「え? でも、すぐそこですし……」
借りているアパートメントはモンクトン商会と養護院の間にあって、その三点を線で結べば三角形になり、歩いて行き来できる距離。
「ええ、ですが今日は人の出が多いでしょう? おいで、ヘリオス。肩に乗せてあげる」
魅力的な言葉を聞いたヘリオスは、フランクに向かって腕を伸ばす。お腹が空いたとぐずっていたのに現金なものだ。
ヘリオスはモンクトン商会に育ててもらっているといっても過言ではない。その従業員のフランクだからこそ、ヘリオスも喜んで彼の肩に乗る。
「たかいね~」
「暴れるなよ、落ちるぞ」
フランクもヘリオスが落ちないようにと、小さな足をしっかりと握っているが、子どもの動きとは予想などできないもの。暴れて頭から落ちることだってじゅうぶんにあり得るのだ。
「あい」
元気よく返事をしたヘリオスは、フランクの頭をぎゅっと掴んだ。
「実は、会長夫人から言われたんです」
家路を急ぐなか、フランクがふと口を開いた。
「思いを寄せる相手がいるなら、他人を頼らず自分でいけって」
それは先日、コリンナから好みの男性を聞かれた話と通ずるものがある。
「でも、僕は臆病だから……。こうやって、少しずつ僕を知ってもらう作戦に出ました」
それではまるで、遠回しに好きだと言われているような気もするのだが、自惚れだろうか。
「シアさんも仕事があるし。僕も会長の下でいろいろと学ばせてもらっている時期ですけど。送ることくらいはできるかなって」
ほんのりと彼の頬が赤くなっているのは、沈みかけの太陽のせいだろうか。
「シア。待ってくれ」
ボブが大きな身体を上下に揺らしながら走ってくる。だが、ヘリオスはお腹が空いて不機嫌そうだ。仕方なく息子を抱き上げた。
「ボブ、何かありましたか?」
「あぁ。六日後に王太子殿下を招いて晩餐会を開くのだが、料理に使う香辛料が足りなくて。王都の支店から運んでもらいたいんだ。それから演出に使うための魔石も足りなかった」
魔石とは魔力が込められた石のこと。魔力を持つ人間はゼロではないが数少ない。たいていは魔石が持つ魔力を使って、灯りにしたり火をつけたりしている。今回は王太子をもてなすことから、魔石の力で光の演出をしようとしていた。
貴重な魔石ではあるが、モンクトン商会はいくつか鉱山を所有しているため、安価で質のよい魔石が比較的楽に手に入る。
「在庫は確認していたはずなのに。実際に今日、準備を始めたらどちらも在庫が足りないことに気づいてね」
そこでボブはシアに手紙を渡す。
「この手紙を明日の朝、王都まで運んでもらえないか? 定期便に追加で送るよう書いてある」
シアは鳩を飼っている。どうやら記憶を失う前から飼っていた鳩で名前はぽっぽちゃんという。それを教えてくれたのはシェリーだった。
そしてぽっぽちゃんは通信文をやりとりできる伝書鳩でもある。サバドと王都間を今までも何度も往復していた。
さすがにこれからの時間にぽっぽちゃんを飛ばすのは気が引けたので、明日の朝と言ってもらえたのはありがたい。ボブだって急いでいるだろうに。
彼に別れを告げて家路を急ごうとすれば、また声をかけられる。
「シアさん。家まで送りますよ」
モンクトン商会の従業員のフランクだ。赤茶の髪を短く清潔に刈り上げている彼は、女性従業員からも客からも評判がよい。
シアを追いかけるボブについてきたのだろう。ボブは屋敷へと戻っていったが、フランクはそこにとどまってシアに声をかけてきたのだ。
「え? でも、すぐそこですし……」
借りているアパートメントはモンクトン商会と養護院の間にあって、その三点を線で結べば三角形になり、歩いて行き来できる距離。
「ええ、ですが今日は人の出が多いでしょう? おいで、ヘリオス。肩に乗せてあげる」
魅力的な言葉を聞いたヘリオスは、フランクに向かって腕を伸ばす。お腹が空いたとぐずっていたのに現金なものだ。
ヘリオスはモンクトン商会に育ててもらっているといっても過言ではない。その従業員のフランクだからこそ、ヘリオスも喜んで彼の肩に乗る。
「たかいね~」
「暴れるなよ、落ちるぞ」
フランクもヘリオスが落ちないようにと、小さな足をしっかりと握っているが、子どもの動きとは予想などできないもの。暴れて頭から落ちることだってじゅうぶんにあり得るのだ。
「あい」
元気よく返事をしたヘリオスは、フランクの頭をぎゅっと掴んだ。
「実は、会長夫人から言われたんです」
家路を急ぐなか、フランクがふと口を開いた。
「思いを寄せる相手がいるなら、他人を頼らず自分でいけって」
それは先日、コリンナから好みの男性を聞かれた話と通ずるものがある。
「でも、僕は臆病だから……。こうやって、少しずつ僕を知ってもらう作戦に出ました」
それではまるで、遠回しに好きだと言われているような気もするのだが、自惚れだろうか。
「シアさんも仕事があるし。僕も会長の下でいろいろと学ばせてもらっている時期ですけど。送ることくらいはできるかなって」
ほんのりと彼の頬が赤くなっているのは、沈みかけの太陽のせいだろうか。
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