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†ジェイラスの幸福(1)
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やはり、シアはアリシアだった。その事実にジェイラスは歓喜した。
間違っていなかった。ひと目でアリシアだとわかったその感覚。全身の血液が滾るように、心臓が震えたのだ。
だがそれでもランドルフは、シアがアリシアだと結論づけるのは早急過ぎると言い続けていた。ジェイラスよりも、もっと彼女に近い人間の確信が欲しいと。
だから彼女の両親、ガネル子爵夫妻が王城に呼び出された。家族だからこそ知るアリシアの特徴。
――アリシアは右耳の後ろに黒子があります。二つ並んでいて……。
彼女の身体の至るところに余すことなく口づけたのに、耳の後ろの黒子には気がつかなかったのが悔しい。
ガネル子爵夫妻は、今すぐにでもアリシアとヘリオスを連れて帰りたがっていたが、今の状態のアリシアを手放すのは危険だと判断したのはランドルフだ。
第二騎士団。伝令や雑用をこなすところだと思われているが、第二騎士団の一部は諜報活動を担っている。それは第二騎士団に所属する者すべてが知る事実ではなく、それに従事する一部の者しか知らない。
アリシアは伝令として各地を飛び回っていたが、彼女が伝える情報が狙われたと考えれば、腑に落ちるものがある。アリシア本人は自覚していないだろうが、彼女が伝えていた情報の中には、機密事項だって数多く含まれているのだ。それを伝令係には気づかれぬよう伝令を頼む。
その伝達事項の記憶のみを相手が奪いたいと考えるのが無難だろう、というのがランドルフの意見であり、ジェイラスもそれに同意した。
だから記憶のないアリシアを、王城から出すわけにはいかないのだ。
ガネル子爵夫妻には悪いとは思いつつも、記憶解析のためだと理由をつけて、アリシアを王城へとどめた。そして彼女を守るためだという理由で、時間を共に過ごしている。だが、ジェイラスもいい加減、騎士団の仕事に戻らなければならなかった。
彼女を一人にはできないため、ランドルフの計らいで見張りの侍女を配置させているが、それでもジェイラスは気になって気になって仕方ない。そんなふうにそわそわしていれば、ランドルフから突っ込みは入るし、チェスターもニヤニヤとした生温かな視線を向けてくる。さらに「人間に戻ってよかったな」と、わからぬ言葉までかけてくる。
しかし、そんな言葉に惑わされるほど、器量の狭いジェイラスではなかった。とにかく、アリシアが側にいてくれる事実。これをジェイラスの世界に輝きを与えていた。
なんとか魔法師長の予定が確保でき、アリシアの記憶解析を行える目途がついた。
「監察終わったばかりで、疲れてるの。でも、ジェイの頼みじゃ仕方ないわね」
できるだけかかわりたくなかったエイミだが、彼女、いや彼以外に記憶解析を行える者がいないのであればそこにすがるしかなかった。
その結果、アリシアは魔法によって記憶を操作されているとのこと。しかもヘバーリア国の術式の一つ、呪詛となれば、狙いは彼女が持つ情報に違いない。
どこでその呪詛を受けたのかわからないが、ボブたちの話から推測するに、王都からサバドへの移動中と考えるのが無難だ。アリシアがサバドに向かうことを知ったヘバーリアの人間が、彼女を狙ったのだろう。
しかもその術式の解除には、エイミでさえ五日を要するらしい。彼でなければそれ以上、いや解除などできなかっただろう。ホーガンではお手上げだと言う。
その五日間、アリシアにはできるだけ部屋から出ないようにと言ってはみたが、元気な二歳児を抱えて引きこもりは大変なようだ。
それを見越していたのか、ランドルフは庭であれば外に出る許可を出した。そこには王族専用の庭園も含まれ、子ども用の遊具もおいてある。これはアンドリュー王子のために作られた場所だが、すっかりと王子と仲良くなったヘリオスもそこへの立ち入りが許されていた。
ジェイラスには密かな夢があった。
それは自分の子が、自分と同じように王族の護衛につくこと。むしろランドルフの子だ。というのも、当時、死んだ魚の目とか精気が宿らぬ人間とか散々言われたジェイラスにとって、ランドルフの存在が唯一の生きる意味だったから。
ジェイラスはランドルフに感謝をしている。
そういった存在が、自分の子どもにいればいいなという、ささやかな理想でもあった。
間違っていなかった。ひと目でアリシアだとわかったその感覚。全身の血液が滾るように、心臓が震えたのだ。
だがそれでもランドルフは、シアがアリシアだと結論づけるのは早急過ぎると言い続けていた。ジェイラスよりも、もっと彼女に近い人間の確信が欲しいと。
だから彼女の両親、ガネル子爵夫妻が王城に呼び出された。家族だからこそ知るアリシアの特徴。
――アリシアは右耳の後ろに黒子があります。二つ並んでいて……。
彼女の身体の至るところに余すことなく口づけたのに、耳の後ろの黒子には気がつかなかったのが悔しい。
ガネル子爵夫妻は、今すぐにでもアリシアとヘリオスを連れて帰りたがっていたが、今の状態のアリシアを手放すのは危険だと判断したのはランドルフだ。
第二騎士団。伝令や雑用をこなすところだと思われているが、第二騎士団の一部は諜報活動を担っている。それは第二騎士団に所属する者すべてが知る事実ではなく、それに従事する一部の者しか知らない。
アリシアは伝令として各地を飛び回っていたが、彼女が伝える情報が狙われたと考えれば、腑に落ちるものがある。アリシア本人は自覚していないだろうが、彼女が伝えていた情報の中には、機密事項だって数多く含まれているのだ。それを伝令係には気づかれぬよう伝令を頼む。
その伝達事項の記憶のみを相手が奪いたいと考えるのが無難だろう、というのがランドルフの意見であり、ジェイラスもそれに同意した。
だから記憶のないアリシアを、王城から出すわけにはいかないのだ。
ガネル子爵夫妻には悪いとは思いつつも、記憶解析のためだと理由をつけて、アリシアを王城へとどめた。そして彼女を守るためだという理由で、時間を共に過ごしている。だが、ジェイラスもいい加減、騎士団の仕事に戻らなければならなかった。
彼女を一人にはできないため、ランドルフの計らいで見張りの侍女を配置させているが、それでもジェイラスは気になって気になって仕方ない。そんなふうにそわそわしていれば、ランドルフから突っ込みは入るし、チェスターもニヤニヤとした生温かな視線を向けてくる。さらに「人間に戻ってよかったな」と、わからぬ言葉までかけてくる。
しかし、そんな言葉に惑わされるほど、器量の狭いジェイラスではなかった。とにかく、アリシアが側にいてくれる事実。これをジェイラスの世界に輝きを与えていた。
なんとか魔法師長の予定が確保でき、アリシアの記憶解析を行える目途がついた。
「監察終わったばかりで、疲れてるの。でも、ジェイの頼みじゃ仕方ないわね」
できるだけかかわりたくなかったエイミだが、彼女、いや彼以外に記憶解析を行える者がいないのであればそこにすがるしかなかった。
その結果、アリシアは魔法によって記憶を操作されているとのこと。しかもヘバーリア国の術式の一つ、呪詛となれば、狙いは彼女が持つ情報に違いない。
どこでその呪詛を受けたのかわからないが、ボブたちの話から推測するに、王都からサバドへの移動中と考えるのが無難だ。アリシアがサバドに向かうことを知ったヘバーリアの人間が、彼女を狙ったのだろう。
しかもその術式の解除には、エイミでさえ五日を要するらしい。彼でなければそれ以上、いや解除などできなかっただろう。ホーガンではお手上げだと言う。
その五日間、アリシアにはできるだけ部屋から出ないようにと言ってはみたが、元気な二歳児を抱えて引きこもりは大変なようだ。
それを見越していたのか、ランドルフは庭であれば外に出る許可を出した。そこには王族専用の庭園も含まれ、子ども用の遊具もおいてある。これはアンドリュー王子のために作られた場所だが、すっかりと王子と仲良くなったヘリオスもそこへの立ち入りが許されていた。
ジェイラスには密かな夢があった。
それは自分の子が、自分と同じように王族の護衛につくこと。むしろランドルフの子だ。というのも、当時、死んだ魚の目とか精気が宿らぬ人間とか散々言われたジェイラスにとって、ランドルフの存在が唯一の生きる意味だったから。
ジェイラスはランドルフに感謝をしている。
そういった存在が、自分の子どもにいればいいなという、ささやかな理想でもあった。
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