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第五章(14)
シアが記憶解析を行っている間、ヘリオスはアンドリューと遊んで待つことになった。
解析が行われる部屋は王城の奥深く、石壁に囲まれた静かな空間。魔石ランプが青白い光を放ち、冷たく重い空気が漂う。
この場には、シアとジェイラス、そしてランドルフ。魔法師として師長のエイミと副師長のホーガンの五人が集まった。
「ほんと、ルフィとジェイの頼みだから引き受けたって感じなんだけど……なんなの、この子……」
シアが引くくらいに顔をずいっと近づけてきたのが魔法師長エイミである。腰まで届く闇のような黒い髪、切れ長の黒い目に、艶やかな唇が異様な存在感を放つ。ドレスの上に白衣を羽織っているが、強調された胸元がシアの目を引いた。彼女の強烈な雰囲気に、シアは思わずたじろいだ。
「どうだ? できそうか?」
ジェイラスがむすっとしたままエイミに問いかける。
「そのできそうって、どういう意味のできそうかしら? 記憶解析はするまでもないけど……それはできる。だけど、この魔法を解除しろというのは、今すぐには無理ね。いえ、これは魔法というよりは……」
エイミはシアに向かって人差し指を突きつけた。黒く塗られた長い爪が、目の前に迫る。そのまま指で宙に五角形を描くと、対角線が光を放ち、星型を形成した。星型の光はシアの額にひゅっと吸い込まれる。
「えっ?」
シアの頭の中に白いもやがかかった。もう少しで何かが思い出せそうなのに、そのもやが邪魔をして見えてこない。
「何か、思い出したかしら?」
「あ、いいえ……」
エイミに声をかけられ、シアは戸惑いをみせた。思い出したかと問われても、頭の中はもやに覆われていて何も見えない。
「うん。間違いないわ。この子、呪詛によって記憶を操作されているわね。今、記憶回路を刺激したんだけれど、反応がまったくない」
両手を腰に当て「どうだ」と言わんばかりに、エイミは胸を張る。だからつい、シアは強調された胸元に視線がいってしまう。
「偽物だ」
ランドルフがぼそりと呟き、シアは思わず彼を見た。
「エイミのそれは偽物だ。そしてこいつは、こう見えても男だから、騙されるな。エイミとはこいつが自分で勝手に決めた名前だ。本当の名は――」
「ちょっとルフィ。これはあたしのアイデンティティ。見た目と性別と名前なんて、今は関係がないでしょ」
「そうだな。だが、何も知らないシア嬢がかわいそうだ。それにそのうち君は、ジェイにべたべたと触れまくるんだろ? パーティーのたびに、君はジェイにちょっかいを出している」
「だって、ジェイったらいい男よね? いい男がいたら、触りたくなるでしょ? 残念ながらルフィは好みじゃないの。もしかして嫉妬?」
エイミが片目をつぶってジェイラスとランドルフにアピールするが、二人は「ふん」と鼻を鳴らし、顔をそむけた。
「話がずれている。本題に戻せ」
ジェイラスはエイミに顔すら向けずにそう言った。
「ごめんごめん」
顔の前で両手を合わせるエイミは、わざとらしい。
「ジェイの恋人ちゃんの記憶なんだけど。呪詛の干渉を受けて、記憶の一部がいじられている」
「てことは、やはり彼女の記憶喪失は魔法によるもので間違いないな?」
ジェイラスの言葉にエイミは頷き、言葉の先を奪う。
「そうね、魔法の一種の呪詛。だけどこの術式ね。あたしの知っているものとはずいぶん異なっているのよね」
「ユグリで一番の魔法師が弱気だな」
ランドルフが茶化せば、エイミは毛並みを逆立てた猫のように目を吊り上げる。
「はぁ? あたしが知ってるものとは違うって言っただけ。これは、隣のヘバーリアで流行ってる術式。ま、大天才なあたしであれば、できないこともないですけど?」
「ヘバーリアだと?」
ジェイラスが眉間にしわを寄せる。
シアもヘバーリア国には聞き覚えがある。ランドルフがサバドに視察にきたとき、モンクトン商会の屋敷に押し入ったのがヘバーリア国の刺客だ。
「そ、間抜けなホーガンが尋問しようとして、さくっと殺されちゃったアレ。アレと術式が似てるのよ。あれも呪詛で殺されたでしょ?」
話を振られたホーガンの顔色が、さぁっと変わった。急に寒くなったのか、自身で身体を抱きしめる。
「う~ん、今すぐは無理だけど。前のアレで術式解析を行っているところだし、少し時間をもらえればなんとかなる。あたしに解析できない術式なんて、この世に存在しないもの」
今にも高笑いしそうなエイミをすぐにランドルフが制した。
「それで、どのくらい時間は必要だ?」
「やだ、ルフィ。人使い、荒い」
「彼女は第二騎士団の伝令の人間だ。このままにしておくわけにはいかないだろう?」
「第二騎士団? 諜報……ヘバーリア……なるほどね」
そこでエイミはきれいな指をパチンと鳴らし、そのまま開いて手のひらを見せつけた。
「五日。五日でなんとかしてみるわ」
「五日もかかるのか? ユグリ一番の魔法師が落ちたものだな」
ランドルフが何かとエイミを挑発する。
「ルフィのその手にはのらないわ。あたしもね、ちょっと年を取ったから、魔力の回復に時間がかかるのよ。脳みそもね」
年を取ったという言葉で、シアは彼女の年齢が気になった。
解析が行われる部屋は王城の奥深く、石壁に囲まれた静かな空間。魔石ランプが青白い光を放ち、冷たく重い空気が漂う。
この場には、シアとジェイラス、そしてランドルフ。魔法師として師長のエイミと副師長のホーガンの五人が集まった。
「ほんと、ルフィとジェイの頼みだから引き受けたって感じなんだけど……なんなの、この子……」
シアが引くくらいに顔をずいっと近づけてきたのが魔法師長エイミである。腰まで届く闇のような黒い髪、切れ長の黒い目に、艶やかな唇が異様な存在感を放つ。ドレスの上に白衣を羽織っているが、強調された胸元がシアの目を引いた。彼女の強烈な雰囲気に、シアは思わずたじろいだ。
「どうだ? できそうか?」
ジェイラスがむすっとしたままエイミに問いかける。
「そのできそうって、どういう意味のできそうかしら? 記憶解析はするまでもないけど……それはできる。だけど、この魔法を解除しろというのは、今すぐには無理ね。いえ、これは魔法というよりは……」
エイミはシアに向かって人差し指を突きつけた。黒く塗られた長い爪が、目の前に迫る。そのまま指で宙に五角形を描くと、対角線が光を放ち、星型を形成した。星型の光はシアの額にひゅっと吸い込まれる。
「えっ?」
シアの頭の中に白いもやがかかった。もう少しで何かが思い出せそうなのに、そのもやが邪魔をして見えてこない。
「何か、思い出したかしら?」
「あ、いいえ……」
エイミに声をかけられ、シアは戸惑いをみせた。思い出したかと問われても、頭の中はもやに覆われていて何も見えない。
「うん。間違いないわ。この子、呪詛によって記憶を操作されているわね。今、記憶回路を刺激したんだけれど、反応がまったくない」
両手を腰に当て「どうだ」と言わんばかりに、エイミは胸を張る。だからつい、シアは強調された胸元に視線がいってしまう。
「偽物だ」
ランドルフがぼそりと呟き、シアは思わず彼を見た。
「エイミのそれは偽物だ。そしてこいつは、こう見えても男だから、騙されるな。エイミとはこいつが自分で勝手に決めた名前だ。本当の名は――」
「ちょっとルフィ。これはあたしのアイデンティティ。見た目と性別と名前なんて、今は関係がないでしょ」
「そうだな。だが、何も知らないシア嬢がかわいそうだ。それにそのうち君は、ジェイにべたべたと触れまくるんだろ? パーティーのたびに、君はジェイにちょっかいを出している」
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「ごめんごめん」
顔の前で両手を合わせるエイミは、わざとらしい。
「ジェイの恋人ちゃんの記憶なんだけど。呪詛の干渉を受けて、記憶の一部がいじられている」
「てことは、やはり彼女の記憶喪失は魔法によるもので間違いないな?」
ジェイラスの言葉にエイミは頷き、言葉の先を奪う。
「そうね、魔法の一種の呪詛。だけどこの術式ね。あたしの知っているものとはずいぶん異なっているのよね」
「ユグリで一番の魔法師が弱気だな」
ランドルフが茶化せば、エイミは毛並みを逆立てた猫のように目を吊り上げる。
「はぁ? あたしが知ってるものとは違うって言っただけ。これは、隣のヘバーリアで流行ってる術式。ま、大天才なあたしであれば、できないこともないですけど?」
「ヘバーリアだと?」
ジェイラスが眉間にしわを寄せる。
シアもヘバーリア国には聞き覚えがある。ランドルフがサバドに視察にきたとき、モンクトン商会の屋敷に押し入ったのがヘバーリア国の刺客だ。
「そ、間抜けなホーガンが尋問しようとして、さくっと殺されちゃったアレ。アレと術式が似てるのよ。あれも呪詛で殺されたでしょ?」
話を振られたホーガンの顔色が、さぁっと変わった。急に寒くなったのか、自身で身体を抱きしめる。
「う~ん、今すぐは無理だけど。前のアレで術式解析を行っているところだし、少し時間をもらえればなんとかなる。あたしに解析できない術式なんて、この世に存在しないもの」
今にも高笑いしそうなエイミをすぐにランドルフが制した。
「それで、どのくらい時間は必要だ?」
「やだ、ルフィ。人使い、荒い」
「彼女は第二騎士団の伝令の人間だ。このままにしておくわけにはいかないだろう?」
「第二騎士団? 諜報……ヘバーリア……なるほどね」
そこでエイミはきれいな指をパチンと鳴らし、そのまま開いて手のひらを見せつけた。
「五日。五日でなんとかしてみるわ」
「五日もかかるのか? ユグリ一番の魔法師が落ちたものだな」
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