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6 着信

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 借りた部屋は、月4万円の共同アパートだ。見た目は四角い一軒家だけど、大家が改装して、一階を共同スペース、二階に個室を6部屋設けた下宿のような造りになっている。

 俺の部屋は階段を上がって左右に3つドアがあるうちの西側奥だ。朝は暗くて夕方眩しい暮らしにくい部屋だけど、家賃が1万円安いから、そのぶん生活費に当てられる。と言いながら仕送りに頼っているすねかじりなので大きくは言えないけれど。

 すりガラスの入った木製のドアには懐かしい真鍮の鍵で開ける鍵穴がある。見るからに昭和な造りで今ではレトロと呼んで人気らしいが実際に住むのは珍しいのだろう。現にプライバシーが守りきれない部屋は人気がなく、現在、俺と3年の先輩と大家の親戚がひとり暮らしているだけで、真ん中ふた部屋と向かいの部屋が空いている。

 ドアを開けると12畳の部屋があって、奥に洗濯物が干せる狭いベランダに続く大窓があり、右側にトイレとお風呂が一緒になっている部屋と押入れがある。それで間取りは全てだ。

 左手前に冷蔵庫を置き、その横にパソコン用のデスクを置いている。ベッドを置くと部屋が狭くなるから、床に布団を敷いて寝ているのだけど、生活1週間もしたら布団を畳まなくなってしまった。恋人どころか友達さえ呼べない部屋だ。

 部屋に入ってバストイレの横にある小さな洗面台で手を洗い、冷蔵庫へ向かって行き、冷蔵庫から水を出し、湯沸かしポットに水を入れる。カバンからノートパソコンを取り出し起動させながら椅子に座り、わきに積んであるカップ麺を取ってフィルムを剥がし、蓋を空ける。この一連の流れが帰ってからの俺の行動だ。

 パソコンで予定を確認してメールをチェックして閉じる。沸いたお湯をカップ麺に注いで、待ち時間で部屋着に着替える。次はスマホの確認だ。

 昼間に来ていたアプリ通知の履歴をゆっくり見る。見ながらカップ麺を食べていると、何回か見た記憶のある人がいた。ケイ23歳タチ。上半身裸の後ろ姿。上腕二頭筋と背筋が素晴らしい。でも髪型もよくある感じで特別な特徴もないので、仮に同じ大学の人だったとしても特定は難しい。

 そう思っていたらスマホが震えて画面に「賢吾」と表示された。

 驚きすぎてスマホを落としそうになった。玲から連絡があったかと聞かれたけど、本当にあるとは思っていない。一瞬で鼓動が早鳴る。出るか出ないか迷いながら、深呼吸してから通話を押す。

「はい」

 思わず背筋を正してしまった。最後に話したのは卒業式の日だ。体育館やグラウンドで写真撮影会になっているのを尻目に、早々に帰ろうとしている所を賢吾に引き止められ、「もう帰るのか」と問われ、「そう」と答えると、「また連絡するから」と言われた。でも社交辞令だと思っていた。だってやっと離れられるだろ? こんな陰気な俺が3年も付きまとっていて、いい加減面倒じゃなかったのか? 自分から帰ると言っておいて、その後の打ち上げに呼ばれなかった事をウジウジと引きずっている。

 わかっている。それは当日の別れ際に流れで決まった事で、最初から俺を呼ばなかった訳じゃない。人付き合いの苦手な俺が悪いだけなのだ。
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