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82 エルのこと
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エルは夕ご飯も果物と野菜だ。竜って肉食だと思っていたがエルは肉を好まない。モデルという職業がら、エルの儚い容姿からも、草食主義ですの方が似合っている。ただダイエットに敏感な若者が真似するのを嫌う大人たちのウケは悪いのだが、ここはもう無視するしかない。
エルは家に帰って来ると紘伊にベッタリだ。身長は紘伊と再会した時から、紘伊よりも10センチは高く、紘伊の後頭部に頬を寄せて肩に腕を回している格好が当たり前になっている。鬱陶しいほどのひっつきっぷりだが、竜の子は成人を迎えるまで生みの親に寄り添うのが生態らしく、紘伊は生みの親代わりだから受け入れなければならないそうだ。
成人は15歳。こんな大きくて紘伊に似てもいない美しい生物に巻き付かれる行為を、紘伊が45歳になるまで続けないといけないらしい。
「国にはいつ戻るの?」
寝る前の微睡む時間はエルの横で本を読む事が多い。その時、エルは毎日の様にこの質問をして来る。
「ハーツが連絡をくれるまで待つんだよ」
獣人国では今、新たな王を選ぶ為の話し合いが行われている。
獅子族は王を失脚させた事もあり、領内でも話し合いが繰り返されていると聞く。その場にはハーツも呼ばれていて、王弟という立場ではなくなったのだけど、領民からの支持率の高さもあり、何らかの役職に就けられそうな所らしい。
「エルは戻りたい?」
この質問も毎回する。そうするとエルの答えもいつも同じだった。
「ヒロイのそばにいる」
「ごめんねエル。俺が向こうに戻ると、また争いごとに巻き込まれてしまうから、ハーツが落ち着くまで戻れない。もう少し我慢して欲しい」
エルは竜だ。広い空を飛びたいに決まっている。紘伊だってエルの本来の姿を見たいし、自由にさせてあげたいと思う。ただエルのこのモデルの仕事にも意味がある。エルが広告塔をしている企業がハーツのこちらの世界の事業で、それは獣人国を繋ぐ場ともなっているからだ。
「エルのおかげで市場が広がったって褒めてたよ。エルが褒められると俺も嬉しい」
エルが紘伊の腰に手を回し、脇腹にギュッとひっついて来る。
「もう少し?」
「次の王様が決まって、ウェルズ領が落ち着いたらだよ」
紘伊はエルの髪を梳くように撫でる。嬉しそうに目をつむるエルは満足げな息をついている。
「明日は俺と一緒に会社に行こう?」
「うん」
エルの機嫌がなおった。紘伊と一緒にいられる時間が短いと、エルは機嫌どころか体調を崩す。ただ注意しないといけないのは、エルにはマスコミが張り付いている事だ。
紘伊が言うのも何だが、人の社会の流れは早い。この世界から獣人が姿を消して1年弱でもう世間から獣人の存在が忘れられている。20年前のギルベスター事件など、そんな事もあったよね、本当の事だったのかな? レベルだ。
もちろんそれは一般民の間での事だ。政府的には違う。水面下で行っていた獣人の人体実験や遺伝子操作などの施設はギルベスターにより破壊され、様々なものが破棄されたのだが、未だに残しているものもある。それがハーツの裏の事業で、ギルベスターとの企みでもあった。
エルは家に帰って来ると紘伊にベッタリだ。身長は紘伊と再会した時から、紘伊よりも10センチは高く、紘伊の後頭部に頬を寄せて肩に腕を回している格好が当たり前になっている。鬱陶しいほどのひっつきっぷりだが、竜の子は成人を迎えるまで生みの親に寄り添うのが生態らしく、紘伊は生みの親代わりだから受け入れなければならないそうだ。
成人は15歳。こんな大きくて紘伊に似てもいない美しい生物に巻き付かれる行為を、紘伊が45歳になるまで続けないといけないらしい。
「国にはいつ戻るの?」
寝る前の微睡む時間はエルの横で本を読む事が多い。その時、エルは毎日の様にこの質問をして来る。
「ハーツが連絡をくれるまで待つんだよ」
獣人国では今、新たな王を選ぶ為の話し合いが行われている。
獅子族は王を失脚させた事もあり、領内でも話し合いが繰り返されていると聞く。その場にはハーツも呼ばれていて、王弟という立場ではなくなったのだけど、領民からの支持率の高さもあり、何らかの役職に就けられそうな所らしい。
「エルは戻りたい?」
この質問も毎回する。そうするとエルの答えもいつも同じだった。
「ヒロイのそばにいる」
「ごめんねエル。俺が向こうに戻ると、また争いごとに巻き込まれてしまうから、ハーツが落ち着くまで戻れない。もう少し我慢して欲しい」
エルは竜だ。広い空を飛びたいに決まっている。紘伊だってエルの本来の姿を見たいし、自由にさせてあげたいと思う。ただエルのこのモデルの仕事にも意味がある。エルが広告塔をしている企業がハーツのこちらの世界の事業で、それは獣人国を繋ぐ場ともなっているからだ。
「エルのおかげで市場が広がったって褒めてたよ。エルが褒められると俺も嬉しい」
エルが紘伊の腰に手を回し、脇腹にギュッとひっついて来る。
「もう少し?」
「次の王様が決まって、ウェルズ領が落ち着いたらだよ」
紘伊はエルの髪を梳くように撫でる。嬉しそうに目をつむるエルは満足げな息をついている。
「明日は俺と一緒に会社に行こう?」
「うん」
エルの機嫌がなおった。紘伊と一緒にいられる時間が短いと、エルは機嫌どころか体調を崩す。ただ注意しないといけないのは、エルにはマスコミが張り付いている事だ。
紘伊が言うのも何だが、人の社会の流れは早い。この世界から獣人が姿を消して1年弱でもう世間から獣人の存在が忘れられている。20年前のギルベスター事件など、そんな事もあったよね、本当の事だったのかな? レベルだ。
もちろんそれは一般民の間での事だ。政府的には違う。水面下で行っていた獣人の人体実験や遺伝子操作などの施設はギルベスターにより破壊され、様々なものが破棄されたのだが、未だに残しているものもある。それがハーツの裏の事業で、ギルベスターとの企みでもあった。
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