12 / 22
12・エンディング
しおりを挟む
イシュが本気でセント・ハヴィエル国の王子を奪って来たと、ドールの戦場でテントを張る、獣人国イルバーンの兵たちは大きく湧いた。
イシュは自分専用のテントにユグを住まわせ、夜になれば一緒にドール狩りに出かけた。ユグには専用の身の回りの世話をする獣人の従者をひとり付け、イシュはユグを大切にしている。聖域にふたりの姿が見られることはなく、いらぬ噂が立つこともない。はずなのだが……。
「隊長、噂知ってます?」
ハイエナの獣人が用事ついでにイシュに尋ねた。イシュが報告書を作成する後ろで、ユグは静かに酒を飲んでいる。
イシュは報告書から顔を上げ、ハイエナの獣人を見る。近くには酒のつまみを運んで来たウサギの獣人、ユグの従者がいる。
「ドールと化したセント・ハヴィエルの王子が夜な夜な現れる、って言われてますけど」
ユグは現在、国で婚姻し、王城の敷地内にある宮で新婚生活を送り、幸せな姿を見せている。
だが、ユグと同じ姿をした者がドールと戦っているとなれば、セント・ハヴィエルの兵は混乱するのだろう。
ユグは、祖国からドールの地へ赴く間に、イシュに言葉を教えてもらい、獣人の言葉を扱えるようになっている。難しい言葉はまだ使えないが、軽い冗談くらいは言えるようになっていた。
「言わせておけば良い」
ユグは顔色ひとつ変えずにそう言い、ウサギから干し肉を貰うと、ウサギの耳を引き寄せ、キスをしている。
ウサギは頬を染め、イシュの反応をこわごわと見ながら、静かにテントを出て行った。
「これが本当にドールであるなら、俺が一太刀で薙ぎ払ってやるんだがな」
「まあ、別段、隊長が良いなら、それで良いですがね、それ、俺にも味見させてもらえますか?」
ウサギがお酒のお代わりを持ってテントに入って来ると、ハイエナの言葉にビクッと毛を逆立てた。
「味見もなにも、これの意志しだいだろうな。ここに来て自由にやっているのはお前も知っているだろう」
「ああ、聞きましたよ。エメを乗せながら抱くのが良いとか、バジルの奴が言っていましたが、本当ですか?」
ウサギの従者、エメが泣きそうな顔でユグの杯に酒を注いでいる。
バジルというのは狼の獣人で、イシュとは別の部隊を率いる隊長である。
「バジルは良い。バジルとするとイシュが嫉妬してくれるからな、エメはかわいい」
ユグがそう言うと、ハイエナは顔を顰めた。
「隊長位を全部落として楽しもうって魂胆っすか。マジで最悪っすね」
「お前とはやらない」
ユグはエメを可愛がりながら、ハイエナを毛嫌いする。
「わがままだが、仕方がないだろう。なにせ王族出身だ。これを従わせるのは並大抵ではないと言うことだ」
「まあ、隊長がそれで良いって言うなら、別に」
ハイエナはため息を残して去って行く。
ユグはエメを膝に乗せ、毛並みを楽しむように撫でながら、きわどい手つきになり、エメに泣かれている。
「あまり派手な行動は慎め、でなければそのうち縛る」
イシュがそう言うと、ユグはイシュに視線を向けた。視線に熱が籠る。舌なめずりをする姿は、唯一の人であるのに獣じみている。
「縛ってくれるのか?」
ユグが熱を持つとイシュの感情が揺れる。それでもすぐに夜が来る。
「生きて朝を迎えられたらな」
ユグはエメを抱えたまま立ち上がり、イシュにキスをせがむように頬を寄せる。
イシュは、エメと戯れるユグの頬に手を添え、愛しむような視線を向け、緩く唇を奪った。
エメの視線の上で重なるふたりを、エメはとても温かな気持ちで見つめていた。
おわり
次はエメ目線の番外編です。
ありがとうございました。
イシュは自分専用のテントにユグを住まわせ、夜になれば一緒にドール狩りに出かけた。ユグには専用の身の回りの世話をする獣人の従者をひとり付け、イシュはユグを大切にしている。聖域にふたりの姿が見られることはなく、いらぬ噂が立つこともない。はずなのだが……。
「隊長、噂知ってます?」
ハイエナの獣人が用事ついでにイシュに尋ねた。イシュが報告書を作成する後ろで、ユグは静かに酒を飲んでいる。
イシュは報告書から顔を上げ、ハイエナの獣人を見る。近くには酒のつまみを運んで来たウサギの獣人、ユグの従者がいる。
「ドールと化したセント・ハヴィエルの王子が夜な夜な現れる、って言われてますけど」
ユグは現在、国で婚姻し、王城の敷地内にある宮で新婚生活を送り、幸せな姿を見せている。
だが、ユグと同じ姿をした者がドールと戦っているとなれば、セント・ハヴィエルの兵は混乱するのだろう。
ユグは、祖国からドールの地へ赴く間に、イシュに言葉を教えてもらい、獣人の言葉を扱えるようになっている。難しい言葉はまだ使えないが、軽い冗談くらいは言えるようになっていた。
「言わせておけば良い」
ユグは顔色ひとつ変えずにそう言い、ウサギから干し肉を貰うと、ウサギの耳を引き寄せ、キスをしている。
ウサギは頬を染め、イシュの反応をこわごわと見ながら、静かにテントを出て行った。
「これが本当にドールであるなら、俺が一太刀で薙ぎ払ってやるんだがな」
「まあ、別段、隊長が良いなら、それで良いですがね、それ、俺にも味見させてもらえますか?」
ウサギがお酒のお代わりを持ってテントに入って来ると、ハイエナの言葉にビクッと毛を逆立てた。
「味見もなにも、これの意志しだいだろうな。ここに来て自由にやっているのはお前も知っているだろう」
「ああ、聞きましたよ。エメを乗せながら抱くのが良いとか、バジルの奴が言っていましたが、本当ですか?」
ウサギの従者、エメが泣きそうな顔でユグの杯に酒を注いでいる。
バジルというのは狼の獣人で、イシュとは別の部隊を率いる隊長である。
「バジルは良い。バジルとするとイシュが嫉妬してくれるからな、エメはかわいい」
ユグがそう言うと、ハイエナは顔を顰めた。
「隊長位を全部落として楽しもうって魂胆っすか。マジで最悪っすね」
「お前とはやらない」
ユグはエメを可愛がりながら、ハイエナを毛嫌いする。
「わがままだが、仕方がないだろう。なにせ王族出身だ。これを従わせるのは並大抵ではないと言うことだ」
「まあ、隊長がそれで良いって言うなら、別に」
ハイエナはため息を残して去って行く。
ユグはエメを膝に乗せ、毛並みを楽しむように撫でながら、きわどい手つきになり、エメに泣かれている。
「あまり派手な行動は慎め、でなければそのうち縛る」
イシュがそう言うと、ユグはイシュに視線を向けた。視線に熱が籠る。舌なめずりをする姿は、唯一の人であるのに獣じみている。
「縛ってくれるのか?」
ユグが熱を持つとイシュの感情が揺れる。それでもすぐに夜が来る。
「生きて朝を迎えられたらな」
ユグはエメを抱えたまま立ち上がり、イシュにキスをせがむように頬を寄せる。
イシュは、エメと戯れるユグの頬に手を添え、愛しむような視線を向け、緩く唇を奪った。
エメの視線の上で重なるふたりを、エメはとても温かな気持ちで見つめていた。
おわり
次はエメ目線の番外編です。
ありがとうございました。
8
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
オークとなった俺はスローライフを送りたい
モト
BL
転生したらオークでした。豚の顔とかマジないわ~とか思ったけど、力も強くてイージーモードじゃん。イージーイージー!ははは。俺、これからスローライフを満喫するよ!
そう思っていたら、住んでいる山が火事になりました。人間の子供を助けたら、一緒に暮らすことになりました。
子供、俺のこと、好きすぎるのやめろ。
前半ファンタジーっぽいですが、攻めの思考がヤバめです。オークが受けでも別に大丈夫という方のみお読みください。
不憫オークですが、前向きすぎるので不憫さは全くありません。
ムーンライトノベルズでも投稿しております。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
見捨てられ勇者はオーガに溺愛されて新妻になりました
おく
BL
目を覚ましたアーネストがいたのは自分たちパーティを壊滅に追い込んだ恐ろしいオーガの家だった。アーネストはなぜか白いエプロンに身を包んだオーガに朝食をふるまわれる。
皇帝に追放された騎士団長の試される忠義
大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。
帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか?
国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。
オメガな王子は孕みたい。
紫藤なゆ
BL
産む性オメガであるクリス王子は王家の一員として期待されず、離宮で明るく愉快に暮らしている。
ほとんど同居の獣人ヴィーは護衛と言いつついい仲で、今日も寝起きから一緒である。
王子らしからぬ彼の仕事は町の案内。今回も満足して帰ってもらえるよう全力を尽くすクリス王子だが、急なヒートを妻帯者のアルファに気づかれてしまった。まあそれはそれでしょうがないので抑制剤を飲み、ヴィーには気づかれないよう仕事を続けるクリス王子である。
「禍の刻印」で生贄にされた俺を、最強の銀狼王は「ようやく見つけた、俺の運命の番だ」と過保護なほど愛し尽くす
水凪しおん
BL
体に災いを呼ぶ「禍の刻印」を持つがゆえに、生まれた村で虐げられてきた青年アキ。彼はある日、不作に苦しむ村人たちの手によって、伝説の獣人「銀狼王」への贄として森の奥深くに置き去りにされてしまう。
死を覚悟したアキの前に現れたのは、人の姿でありながら圧倒的な威圧感を放つ、銀髪の美しい獣人・カイだった。カイはアキの「禍の刻印」が、実は強大な魔力を秘めた希少な「聖なる刻印」であることを見抜く。そして、自らの魂を安定させるための運命の「番(つがい)」として、アキを己の城へと迎え入れた。
贄としてではなく、唯一無二の存在として注がれる初めての優しさ、温もり、そして底知れぬ独占欲。これまで汚れた存在として扱われてきたアキは、戸惑いながらもその絶対的な愛情に少しずつ心を開いていく。
「お前は、俺だけのものだ」
孤独だった青年が、絶対的支配者に見出され、その身も魂も愛し尽くされる。これは、絶望の淵から始まった、二人の永遠の愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる