竜の卵を宿すお仕事

サクラギ

文字の大きさ
2 / 68
竜管制塔

1

しおりを挟む
 渓谷を一望出来る管制塔の監視室から広大な風景を眺めてぼんやりとしている。本来なら気を抜いていられる場所ではない。なぜなら目の前を行き来する飛来物も遠くに見える点のような集合体も、全てが伝説とされる竜なのだから。

 カレンは、竜を監視する施設に配属されて10年目である。可憐を連想する名が少しも似合わない今年35歳の男だ。無精髭を生やし、制服である土色のツナギをいつも着ている。中肉中背、ビール好き。特別な使命を与えられている割には、ごくごく普通のオッサンだ。

 ただひとつ、職員から特別視されていることがある。それは、容姿とか性格、職業などではない。ただ生まれ、生きていたら出会った運命のようなものだ。

 だからと言って羨ましいがられるものではない。一目は置かれる。だが珍獣のように見られる。同じ人間なのにまるで別物に見られる。よく生きていられるねと侮蔑されるような、特別な使命だ。

「またため息ですか?」

 交代に来たレイルがノンアルコールビールを手渡して来る。受け取ったそれはいい具合に冷えている。

「レイルは3年目だっけ?」

「そうですよ。来年は配置換えになります。といっても公の機関じゃありませんから移動場所も限られますけど、研究機関の警備兵だけは避けたいくらいですかね」

 ああ、とカレンはため息混じりに言う。

「どこへ行ってもここよりはマシだと思うよ」

 カレンは10歳からここにいる。といっても職に就いたのは25歳からだ。研究機関の警備兵という部署がここよりも暇で退屈というのは、10年勤めている間にいた同僚達の意見だ。

「そうだと良いんですけどね」

 レイルはノンアルコールビールのキャップをネジ開け、ビンから直に飲んでいる。ガラスのビン、缶、ビニールなど、この管制塔の先へと持ち出せない物がたくさんある。もっとも持ち出した所で、劣化して消えるという実験結果があるのだが。

 言語も持ち出せない物のひとつだ。この管制塔内では竜語が使われている。初めて人と竜が交流を持ち、竜が覚えた最初の言語が竜語だ。他言語を竜に使うことが禁じられている。竜施設に配属した職員の人種を明かさない為に、基地内では竜語を使う決まりがある。だが人同士、言葉を縛った所で、その容姿や会話の内容から、おおよその人種を推測出来てしまうのだが。

 レイルは米国人だ。金髪にブルーの瞳、背が高く筋肉質。男性職員には気安くされ、女性職員にはモテている。昼食時の食堂では、レイルを囲み輪が出来ているのを良く見かける。ビール好きはカレンと同じだが、ファストフードを好み、金髪のグラマラスな女性を好む。だが言語は竜語で国と宗教の話はしない。暗黙のルールである。

 竜は成体だと象1頭ぶんから3頭ぶんの個体差がある。鱗の色によって様々な種族がある。あとは子を産む竜と産まない竜の個体差もある。この谷に生息する竜は飛竜で、背中に蝙蝠に似た翼がある。色は地に馴染む色で緑や土、赤土、黒がいて、唯一、風景に馴染みにくい白銀がいる。けれども白銀は空の日の光に溶け込む。美しく光に馴染み、神々しい。

 その白銀の竜は竜の中で特別な存在である。しかし、人の中ではあまり知られていない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

処理中です...