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竜管制塔
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二日目の朝、懐かしい人が部屋に迎えに来てくれた。
「カレン、久しぶりだね。お勤めご苦労様でした」
「黒曜(こくよう)先生、お久しぶりです」
昨日、挨拶したかった一番の相手が来てくれた。懐かしくて抱き着いてしまった。黒曜の記憶は出会った頃の印象が強くて、身長が彼の胸辺りだったことを思い出したから、黒曜がとても小さく感じてしまった。それもそうか。カレンは35歳だ。そうすると黒曜は55歳くらいだろう。
「カレンは変わらないね、それはそうか、体の年齢は25歳から進まないんだったね」
「え?」
黒曜の背中を追って部屋から出た。廊下を歩みながら、黒曜の言ったことを頭の中で反芻して、声を上げる。いったいどういうことかわからない。
「ああ、伝えてなかったかい? シアのお好みの年齢で体の成長を止められているんだよ、君は」
「えっと、俺、オッサンになってますよね? 見た目。25って……」
黒曜の開けたドアを一緒に潜って奥へと進んで行く。研究施設内の、一度も入ったことのない場所だ。
「それはカレンが知らないから、年齢相応に老けて行っているという思い込みから来るものだよ。本来ならシアが説明しなければならないのだが、どうやらうまく行っていなかったのかい?」
「黒曜先生はシアと話をしたんですか? 研究者はシアと、竜と、交流を持っているのですか?」
もう2個ほどセキュリティーの付けられたドアを潜り抜け、ひとつの部屋の中に入った。問診の為の机と椅子、その先にパーテーションで仕切られた向こう側にベッドと手術道具が置かれたガラス棚やワゴンがある。
黒曜と机を挟んで椅子に座った。机の上にはノートくらいの大きさのモバイル端末がある。
「それはまあ、竜との交流が無ければ、向こう側の要望がわからないからね、それなりに、と答えておこうか」
黒曜は笑ってそう言うと、モバイル端末の画面を操作する。
「異世界側の情報は入って来ないからね、地球側の異世界口は、この太平洋上の島だけだけどね、交流を持っているのは我が国だけではないんだよ。シアのお好みの相手がカレンだったから、日本人限定がされているだけで、シア以外の竜のお相手は他国の者が務めている。現在は、5名が地球上から竜に接触を果たしているところだ。だが、どこも子を成すには至っていない」
「俺にそんな話を聞かせても大丈夫なのですか?」
「ああ、問題ないよ。君はシアのお相手だったからね。いずれは記憶の操作をされるかもしれないし、このままだったとしても、実験体になるのだから、竜のことは知っていても問題ないからね」
黒曜は笑っている。人好きのする表情は過去の記憶と一致する。とても優しく、温かな人物で、父親がいたらこんな人なんじゃないかと思っていた。でも今日は違う。黒曜は施設側の人間だ。カレンを実験体としか見ていない。とても貴重な実験体。それが彼の表情の奥に見え隠れしている。
「だけどシアは本当に口下手なんだね。年齢のことも知らないとすると、カレンっていう名前の由来も聞いていないだろう?」
「えっと、はい。カレンって名前は本名じゃないのですか?」
ずっと幼い頃から呼ばれていたから、10歳前の記憶はないけど、カレンという呼び名に違和感はない。
「そうだよ、知らないとは可哀想に。カレンという名はシアが付けたんだよ。当時君は東京で小学校に通う、ごく普通の子どもだったんだけどね、君はその頃、シアに会っているんだよ。記憶はないかもしれないね。なにせ一度、消されてしまっているのだから」
衝撃を受ける。どうりで10歳以前の記憶がないはずだ。すでに記憶の操作を受けさせられている。とても寒く感じて震えが来た。
「その時、シアが言ったんだ。竜語で“カレン”と。それを君の母国語、日本語で言うと“可憐”といって小さくて可愛いっていう意味だと教えると、それからシアが君をカレンと呼び始めた。それが君の名の由来さ。ただ竜語の“カレン”が何を指すのかは我々にはわからない。竜語でも古の言葉らしいからね。そこはシアに聞くべきだったね」
「……そうですか」
今更どうでも良い話だ。
ただ思うのは、すでに記憶を消された状態で、さらに記憶を消した場合、やはり廃人になるのではないかということだ。廃人になるのは嫌だ。知らないうちに体を実験動物にされるのだろう。シアにもらった授精の為の器官を好き勝手にいじられる。もしかしてと思うのは、勝手に別の竜の精子を入れられて、シア以外の竜の子を孕むことだ。ありえないことではない。それが怖い。
「カレン、久しぶりだね。お勤めご苦労様でした」
「黒曜(こくよう)先生、お久しぶりです」
昨日、挨拶したかった一番の相手が来てくれた。懐かしくて抱き着いてしまった。黒曜の記憶は出会った頃の印象が強くて、身長が彼の胸辺りだったことを思い出したから、黒曜がとても小さく感じてしまった。それもそうか。カレンは35歳だ。そうすると黒曜は55歳くらいだろう。
「カレンは変わらないね、それはそうか、体の年齢は25歳から進まないんだったね」
「え?」
黒曜の背中を追って部屋から出た。廊下を歩みながら、黒曜の言ったことを頭の中で反芻して、声を上げる。いったいどういうことかわからない。
「ああ、伝えてなかったかい? シアのお好みの年齢で体の成長を止められているんだよ、君は」
「えっと、俺、オッサンになってますよね? 見た目。25って……」
黒曜の開けたドアを一緒に潜って奥へと進んで行く。研究施設内の、一度も入ったことのない場所だ。
「それはカレンが知らないから、年齢相応に老けて行っているという思い込みから来るものだよ。本来ならシアが説明しなければならないのだが、どうやらうまく行っていなかったのかい?」
「黒曜先生はシアと話をしたんですか? 研究者はシアと、竜と、交流を持っているのですか?」
もう2個ほどセキュリティーの付けられたドアを潜り抜け、ひとつの部屋の中に入った。問診の為の机と椅子、その先にパーテーションで仕切られた向こう側にベッドと手術道具が置かれたガラス棚やワゴンがある。
黒曜と机を挟んで椅子に座った。机の上にはノートくらいの大きさのモバイル端末がある。
「それはまあ、竜との交流が無ければ、向こう側の要望がわからないからね、それなりに、と答えておこうか」
黒曜は笑ってそう言うと、モバイル端末の画面を操作する。
「異世界側の情報は入って来ないからね、地球側の異世界口は、この太平洋上の島だけだけどね、交流を持っているのは我が国だけではないんだよ。シアのお好みの相手がカレンだったから、日本人限定がされているだけで、シア以外の竜のお相手は他国の者が務めている。現在は、5名が地球上から竜に接触を果たしているところだ。だが、どこも子を成すには至っていない」
「俺にそんな話を聞かせても大丈夫なのですか?」
「ああ、問題ないよ。君はシアのお相手だったからね。いずれは記憶の操作をされるかもしれないし、このままだったとしても、実験体になるのだから、竜のことは知っていても問題ないからね」
黒曜は笑っている。人好きのする表情は過去の記憶と一致する。とても優しく、温かな人物で、父親がいたらこんな人なんじゃないかと思っていた。でも今日は違う。黒曜は施設側の人間だ。カレンを実験体としか見ていない。とても貴重な実験体。それが彼の表情の奥に見え隠れしている。
「だけどシアは本当に口下手なんだね。年齢のことも知らないとすると、カレンっていう名前の由来も聞いていないだろう?」
「えっと、はい。カレンって名前は本名じゃないのですか?」
ずっと幼い頃から呼ばれていたから、10歳前の記憶はないけど、カレンという呼び名に違和感はない。
「そうだよ、知らないとは可哀想に。カレンという名はシアが付けたんだよ。当時君は東京で小学校に通う、ごく普通の子どもだったんだけどね、君はその頃、シアに会っているんだよ。記憶はないかもしれないね。なにせ一度、消されてしまっているのだから」
衝撃を受ける。どうりで10歳以前の記憶がないはずだ。すでに記憶の操作を受けさせられている。とても寒く感じて震えが来た。
「その時、シアが言ったんだ。竜語で“カレン”と。それを君の母国語、日本語で言うと“可憐”といって小さくて可愛いっていう意味だと教えると、それからシアが君をカレンと呼び始めた。それが君の名の由来さ。ただ竜語の“カレン”が何を指すのかは我々にはわからない。竜語でも古の言葉らしいからね。そこはシアに聞くべきだったね」
「……そうですか」
今更どうでも良い話だ。
ただ思うのは、すでに記憶を消された状態で、さらに記憶を消した場合、やはり廃人になるのではないかということだ。廃人になるのは嫌だ。知らないうちに体を実験動物にされるのだろう。シアにもらった授精の為の器官を好き勝手にいじられる。もしかしてと思うのは、勝手に別の竜の精子を入れられて、シア以外の竜の子を孕むことだ。ありえないことではない。それが怖い。
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