竜の卵を宿すお仕事

サクラギ

文字の大きさ
33 / 68
竜殱滅

12

しおりを挟む
 軍艦には潜水能力まであった。
 廃棄島で竜の死骸を降ろすと、軍艦は海に潜ってしまった。外からはわからない。深い海の底へ。
 廃棄島も良く出来ている。滑り台と滑車方式で荷物が流されて行き、廃棄島の巨大な穴の中へ納められて行く。元々ある山型の島の洞窟で、中を掘り下げて深くしているらしい。島全体が墓地だった。

 廃棄島から小舟で海を渡る。見る感じでは荒い海のように見えるが、小舟なのに転覆することなく海を渡って行く。船に乗ったのはシロとハク、カレンとミコトだ。他の3体は竜化して飛んで行った。懐かしくも思える竜の姿に、カレンは光に溶け込む竜を見えなくなるまで見守った。

「竜が好き?」

 シロが可愛く小首を傾げる。

「どうかな、ずっと見て来たからね、見ない方が変な感じなんだ」

 カレンは苦い表情をする。

「ふうん、ずっと見られたんだね。僕たちはもうこれだけしかいないから、寂しいよ」

「たくさん殺されてしまった」

 シロが言うのは、廃棄島にある竜たちのことを偲んでかと思った。

「違うよ、僕たちの仲間はもっと前に殺されたんだよ。もっと、ずっと前。双子島に来るずっと前だよ」

 双子島が見えて来る。それは一方方向から見える姿だから、双子と呼ばれる所以の形には見えなかった。ただ巨大な山を有した島だ。鬱蒼と茂る木々が連なっているから、島の内情はわからない。この中に竜の渓谷があるのかどうかも、わからなかった。

「俺らと国にいる害獣とされる竜とは種族が違う。どちらも別次元からこの地に来たのは変わりないが、来た時間が違う。俺らはかなり昔から大陸に生息していた竜種の生き残りだ。だから人との付き合いも長い。決して人を傷つける者ではないのだが、人には種族を見分ける目がない。だから俺らは大陸を離れ、この島に来た。だから竜殲滅の竜は同種ではない。人の愚かさには辟易するがな」

 うん、とカレンは頷く。
 カレンは竜の違いを見抜いていた。竜と竜人となる新たな種族との違い。ミコトには同じに見える。ミコトの目は大陸の人の目と同じ。見分けがつかないという理由だけで、それ以外はまるで違うのだが。

「ここに渓谷と呼べる場所はある? 俺は実際に竜のいる場所に行ったことがないんだ。ただ見ていただけだから、一方方向からの景色しか知らないし」

「行ったことないの?」

 シロが不思議顔だ。

「うん、ないよ。人の姿で会いに来てくれていた一人しか知らないんだ。あとは遠くから風景を眺めていたんだよ」

「ふうん、良くわからないけど、仲が良い竜がいたんだね」

「俺もひとりしか知らねえ。しかも人の姿しか見たことねえし」

 ミコトが悪態をつく。どうやらこちらの環境に慣れて来たのだろう。カレンとふたりだけという状況から脱し、周りに敵がいないと判断したからかもしれない。普段のミコトに戻りつつあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

処理中です...