竜の卵を宿すお仕事

サクラギ

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双子島

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 カレンの腹の傷は表面から見た感じでは大したことはない。出血も腫れもないし、傷も塞がっている。普通であれば傷が塞がるのにひと月はかかるだろうが、竜と交わった時から、体の造りが変わったようだ。しかも現代にいる時よりも、異世界にいる方がより治りが早い。それでも体力はかわらないようで、カレンは心労もあるのか、双子島に着いて、部屋を用意してもらってから、ベッドの上から起き上がれないでいた。

 ハクとシロは竜の死骸を運ぶ仕事がある。カレンとミコトを部屋に案内してから、一度も来ていない。そのうちナギが見に来るだろうと言い残して行ったのに、あれからもう3日が経っている。

「カレン、大丈夫か?」

 ミコトはカレンの看病をしている。看病と言っても水を飲ませたり、食事を運んだり、その程度だ。カレンがどうしてベッドから起き上がれないのか、見ただけではわからない。熱があるのかと額を触っても良くわからない。わからないということは、熱はないということか。腹の傷は治っている。元々、監視という動かない仕事をしていたし、実際は35歳だ。体力の衰えはあるのかと思うのだが、見た目が可愛らしく若い。体も見た目と同じく若返っていると思える。それなのに顔色が悪いし、食事も喉を通らないらしく、おかゆを作っても数口しか食べない。そう、米がある。双子島には田んぼがある。しかも人工太陽と季節を創り出す部屋がある。さらには全自動という徹底ぶり。その施設は、案内された部屋の建物から出てすぐのところにあり、ミコトが散策している時に見つけた。カレンの状態が良くなったら、絶対に見せてやりたいと思っている場所のひとつだ。

「本当にどうしたんだ? 来た時より悪くなってる。ここの環境が合わないのか?」

「ん、何だろう? 体が重いっていうのか。どこが悪い訳でもないから、そんなに心配するな」

 ミコトを気遣って、カレンは布団の中だけど明るく笑って見せる。でも顔色が悪いから、ミコトはカレンの言葉を信じられないでいた。

 ここには朝昼夜がない。ずっと雲が厚く空を覆っていて、たまに光が落ちて来るくらいだ。だから時間がわかりにくい。時計が部屋に置いてあるから時間がわかる。時計も現代と同じ造りで、24時間刻みだ。

 3日目の夕方、部屋のドアがノックされる。
 ミコトが警戒して開けると、知らない男がふたりいた。

 黒尽くめの身長の高い男と、細くて繊細そうな男。こちらは白衣を着ている。これもまた現代と同じ、研究者が着る膝上丈の白衣だ。

「遅くなってすまない、具合を診させてもらえるかい?」

「ナギってひと?」

「ハクとシロが戻るまでまだ数日掛かる。一緒に来た方が気安かったかもしれないけど、ごめんね」

 ナギの手には黒いカバンがある。それもまた、医者が良く持っているタイプの物で、どこまで現代の技術が持ち込まれているのか不思議に思う。

「いえ、ありがとうございます。ずっとベッドから起き上がれないみたいで、心配だったから」

 ミコトは体をずらしてドアを大きく開け、二人を部屋に通した。さほど広い部屋ではない。二人が入ると圧迫感がある。

「アイは外で待ってて、用があったら呼ぶから」

 ナギがそう言うと、何も言わずに外に出て行き、ドアを閉めた。

「カレン、ナギさんが来てくれたよ。起きてる?」

 ミコトがそう言うと、カレンは目を開けて、ミコトを見て、反対側にいるナギを見た。

「医者なのか?」

 カレンが言う。

「いいえ、私の師匠が医師でしたので、多少の知識がある程度ですが、この島に医者はいませんし、あなたの体は普通の医師では診られないのではありませんか?」

 ナギはカレンの額に手を置きながら、少し笑みを見せた。

「熱はないようですが、顔色が悪いですね。お腹を見せて頂いても?」

 ナギがそう言うと、カレンは自分で服をめくりあげた。
 塞がっているがまだ赤い痕を残している傷がある。

「ミコトさん、すみませんが、あなたも外にいて頂けますか?」

 ナギが優しくそう言うと、ミコトは不安げにカレンを見たが、カレンがそうしろという視線を送って来たので、ミコトはおとなしく外に出た。外にはアイがいる。壁に背を預け、腕を組んでうつむいていたが、ミコトが出て行くと、少し顔を上げて視線を向けた。視線が合ったミコトは内心で焦る。彼は黒竜だ。ミコトの知っている黒竜の先祖かもしれないと思うと緊張した。

 ナギはカレンの傷の具合を見て、お腹を指で軽く押して様子を確かめていた。

「カレンさん、お尻の中を触診してもよろしいですか?」

「ああ、別に良いよ」

 カレンにとっては慣れたものだ。もう10年もの間、かわるがわる来る医師に見られ続けた場所だ。特に何の感慨もない。

「では横になって体から力を抜いていて下さいね。痛かったりしたら教えて下さい」

 ゴムの手袋をして、とろりとした液体を塗った指先を中へもぐり込ませて行く。くるくると入り口をほぐすのも手馴れたものだ。性的ではなく、患部を検める手つき。どこへ行っても検体であることに変わりはないのだとカレンは思った。
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