43 / 68
双子島
9
しおりを挟む
お腹の中の卵が、完全に大きくなる前に取り出すとナギが決めた。お腹の中に卵があると発見してから30日目のことで、大陸の竜殲滅は終了しており、傍には他の竜たちも戻って来ていたが、ナギは彼らに卵のことは告げていない。
指定された日、施設の中の診察室にナギが、カレンはナギがいる診察室から階をひとつ上にした部屋にいる。まだアイは来ていない。別の竜たちは施設に寄るなとアイから命令がされている。ミコトは施設とは別の住処として与えられた家にいた。
カレンは緊張していた。おへその下辺りがふっくらしている。でも硬さはない。ナギが言うには直径10センチくらいの楕円形をしていて、殻が柔らかい状態らしい。だからさほど負担なく生まれるだろうと言っていたが、カレンは柔らかい方が怖い。産道って言われても要はひとつしかない道だ。自分で力を入れてしまえる場所ということになる。そこを生きた存在が通る。そんな怖い話はない。相手がシアだったら……そう何度も思う。でもそれはありえない。シアの子ではない。仮にシアの傍にいたとしても、シアの子ではないのに、シアに補助を頼むことはできなかっただろう。だから仕方がない。むしろ手伝ってくれるアイに感謝しなければならない。それなのに、怖い。
部屋にアイが入って来る。
アイは黒竜だ。身長はシアと同じくらいだろうか。シアがとても輝いて見えたのは、髪が白銀で色白だったからだろうか。もうすでに遠い記憶になってしまっている。アイは静かだ。表情も変わらないし、声もめったに聞けない。それはシアも同じかと思う。シアの声は二度しか聞いたことがない。
ベッドに座って膝を抱えているカレンの傍に来たアイは、ゆっくりとした動作でベッドに座った。
「怖いか?」
アイにしては優しい声だと思った。伸ばされた手がカレンの頬に触れる。カレンは震えそうになる体を、膝を抱えた腕を強くすることで耐えた。そうしたらアイがフッと笑った。目を細め、カレンを見ている。
「ナギを慰めてくれたんだな、ありがとう」
スッと距離を詰めたアイは、カレンのつむじにキスをする。そうして匂いを嗅ぐ。その行動はシアを思い出させ、心に触れる何かを感じた。
「ナギは自分を責めすぎる。私はナギを困らせる為にこの姿になったのではない。だが、私が何を言おうが、ナギは落ち込むばかりだった。だが同じ人のおまえの言葉は違う。ナギが久しぶりに笑った」
「……やっぱりナギさんのこと、好きなんだろ?」
カレンは今からアイにしてもらうことに罪悪感を覚える。好きな人がいるのに頼むことじゃない。そう断ろうとしたら、アイはカレンの頬に手を当て、顔を近づけて来た。
「それは今問うことではない」
唇に唇が重ねられた。思わずカレンは目を見開く。だってシアにもされたことがない。ずっと考えていた愛のあるセックスが頭に浮かんだ。
「今だけだから、良い?」
軽く唇を合わせ、離れて行った唇を追い、カレンはアイの肩に腕を回し、引き寄せて誘った。
「あのさ、もうきっとこんなこと、しないと思う。シアが好きだけど、シアには会えない。会えないんだったら、もうセックスしない。だからごめん、アイが最後だと思うから、愛のあるセックス、してくれないかな?」
アイと愛あるセックスをする。どんなダジャレだと思いながら、本心は切実だ。知らぬ間に涙が流れていた。シアを想い報われない涙が流れる。
指定された日、施設の中の診察室にナギが、カレンはナギがいる診察室から階をひとつ上にした部屋にいる。まだアイは来ていない。別の竜たちは施設に寄るなとアイから命令がされている。ミコトは施設とは別の住処として与えられた家にいた。
カレンは緊張していた。おへその下辺りがふっくらしている。でも硬さはない。ナギが言うには直径10センチくらいの楕円形をしていて、殻が柔らかい状態らしい。だからさほど負担なく生まれるだろうと言っていたが、カレンは柔らかい方が怖い。産道って言われても要はひとつしかない道だ。自分で力を入れてしまえる場所ということになる。そこを生きた存在が通る。そんな怖い話はない。相手がシアだったら……そう何度も思う。でもそれはありえない。シアの子ではない。仮にシアの傍にいたとしても、シアの子ではないのに、シアに補助を頼むことはできなかっただろう。だから仕方がない。むしろ手伝ってくれるアイに感謝しなければならない。それなのに、怖い。
部屋にアイが入って来る。
アイは黒竜だ。身長はシアと同じくらいだろうか。シアがとても輝いて見えたのは、髪が白銀で色白だったからだろうか。もうすでに遠い記憶になってしまっている。アイは静かだ。表情も変わらないし、声もめったに聞けない。それはシアも同じかと思う。シアの声は二度しか聞いたことがない。
ベッドに座って膝を抱えているカレンの傍に来たアイは、ゆっくりとした動作でベッドに座った。
「怖いか?」
アイにしては優しい声だと思った。伸ばされた手がカレンの頬に触れる。カレンは震えそうになる体を、膝を抱えた腕を強くすることで耐えた。そうしたらアイがフッと笑った。目を細め、カレンを見ている。
「ナギを慰めてくれたんだな、ありがとう」
スッと距離を詰めたアイは、カレンのつむじにキスをする。そうして匂いを嗅ぐ。その行動はシアを思い出させ、心に触れる何かを感じた。
「ナギは自分を責めすぎる。私はナギを困らせる為にこの姿になったのではない。だが、私が何を言おうが、ナギは落ち込むばかりだった。だが同じ人のおまえの言葉は違う。ナギが久しぶりに笑った」
「……やっぱりナギさんのこと、好きなんだろ?」
カレンは今からアイにしてもらうことに罪悪感を覚える。好きな人がいるのに頼むことじゃない。そう断ろうとしたら、アイはカレンの頬に手を当て、顔を近づけて来た。
「それは今問うことではない」
唇に唇が重ねられた。思わずカレンは目を見開く。だってシアにもされたことがない。ずっと考えていた愛のあるセックスが頭に浮かんだ。
「今だけだから、良い?」
軽く唇を合わせ、離れて行った唇を追い、カレンはアイの肩に腕を回し、引き寄せて誘った。
「あのさ、もうきっとこんなこと、しないと思う。シアが好きだけど、シアには会えない。会えないんだったら、もうセックスしない。だからごめん、アイが最後だと思うから、愛のあるセックス、してくれないかな?」
アイと愛あるセックスをする。どんなダジャレだと思いながら、本心は切実だ。知らぬ間に涙が流れていた。シアを想い報われない涙が流れる。
10
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる