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19 フードと仮面
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ティアを待つ神官の中には、ティアの知っている神官もいる。でもティアの容姿が変わっているから、誰一人気づかないだろうと思っていたが、ティアはフードを深く被らされ、面を付けさせられている。本当に誰にも見られないようにするのだとわかる。
「こちらの部屋でお待ちください」
大神官に送られ、部屋に入る。
そこはティアが兄に会いに来た部屋だ。
当時はわからなかった。兄に会えるとそればかりを思っていて、部屋のドアが外側から施錠されるなんて気づきもしなかった。
椅子の上に着て来た衣装が置いてある。アシュのマントも。
それだけが外の世界を示すもので、あとは色のない白一色の世界だ。
本当に全然わかっていなかったのだとわかる。兄はずっとこの部屋でひとり。ティアが来た時だけ、普通に話すことが出来たのかもしれない。
コツコツとドアがノックされる。
「フードと仮面を」
ドアの外から指示があり、ティアはすぐに仮面をつけた。
ドアが開き、神官が入って来る。
水と白いお菓子のようなものが、朱塗りのお盆の上に乗っている。
彼らがそれを机に置くと、入れ替わるように大神官が室内に来た。
大神官はティアの座るカウチの向かいに位置する、それも2mほど離れた位置の、椅子に座った。
「まずは神よりのご啓示、おめでとうございます。これより私が神子様をご案内いたします。まずはお食事をお取りください」
「食事ですか?」
ティアが思わず声を出すと、大神官は咳払いをした。話してはダメだったのかもしれない。
「神子というものは人とは違う存在です。まだ即位式を行っておりませんので、わからないかと思いますが、即位式を終え、神との対面を果たしますと、体が神子のものへと変化致します。そうすれば食すことも、排せつなど、人として必要なものとは遠い存在になられます。ですので即位式まで、体の毒を抜く作業が行われる。それがこのお食事になります」
朱塗りのお盆に乗っているのは、白い紙のようなものが3枚だけだ。これが食事かと思いながら、一枚を取って口に運ぶ。ほんのりと甘い味が舌に広がり、消えるように無くなってしまった。次に隣の器を手にする。口に含むと強い酒だとわかる。思わずむせる。ティアはこれが初の酒となる。
「成人されたばかりでしたか。おめでとうございます」
大神官の声は静かだ。空気を揺らさないような、一定の口調で、感情が見えない。
あと2枚も口に入れ、酒も全部飲み干した。頭がくらくらした。そのうちズキズキと痛む。今すぐに寝転んでしまいたいけど、大神官の前でそれはできない。
「今期は神子不在が長く続いておりましたので、異例ではありますが、3日後、即位式となります。式典は神官の指示通りに動いて頂ければ。その後、神の聖域に入って頂きます。無事に神子として認められれば、身受け候補と対面となる流れです。……今日はここまでに致しましょう」
ティアは今にも寝てしまいそうだった。目を開けていたいけど、酔いで目が閉じて行ってしまう。
大神官が部屋から出て行くのを見て、仮面を取り、フードを下げて、カウチに寝そべった。
お腹が鳴る。
中途半端な食事はより空腹を感じさせた。お酒では腹は膨れない。
この2年間、食事は大事だと言われ、たくさん食べて、たくさん訓練する生活をしていた。だからこそ体が健康的になった。骨と皮しかなかった昔のティアはもういない。でもまた戻るのだろうかという予感がした。
「こちらの部屋でお待ちください」
大神官に送られ、部屋に入る。
そこはティアが兄に会いに来た部屋だ。
当時はわからなかった。兄に会えるとそればかりを思っていて、部屋のドアが外側から施錠されるなんて気づきもしなかった。
椅子の上に着て来た衣装が置いてある。アシュのマントも。
それだけが外の世界を示すもので、あとは色のない白一色の世界だ。
本当に全然わかっていなかったのだとわかる。兄はずっとこの部屋でひとり。ティアが来た時だけ、普通に話すことが出来たのかもしれない。
コツコツとドアがノックされる。
「フードと仮面を」
ドアの外から指示があり、ティアはすぐに仮面をつけた。
ドアが開き、神官が入って来る。
水と白いお菓子のようなものが、朱塗りのお盆の上に乗っている。
彼らがそれを机に置くと、入れ替わるように大神官が室内に来た。
大神官はティアの座るカウチの向かいに位置する、それも2mほど離れた位置の、椅子に座った。
「まずは神よりのご啓示、おめでとうございます。これより私が神子様をご案内いたします。まずはお食事をお取りください」
「食事ですか?」
ティアが思わず声を出すと、大神官は咳払いをした。話してはダメだったのかもしれない。
「神子というものは人とは違う存在です。まだ即位式を行っておりませんので、わからないかと思いますが、即位式を終え、神との対面を果たしますと、体が神子のものへと変化致します。そうすれば食すことも、排せつなど、人として必要なものとは遠い存在になられます。ですので即位式まで、体の毒を抜く作業が行われる。それがこのお食事になります」
朱塗りのお盆に乗っているのは、白い紙のようなものが3枚だけだ。これが食事かと思いながら、一枚を取って口に運ぶ。ほんのりと甘い味が舌に広がり、消えるように無くなってしまった。次に隣の器を手にする。口に含むと強い酒だとわかる。思わずむせる。ティアはこれが初の酒となる。
「成人されたばかりでしたか。おめでとうございます」
大神官の声は静かだ。空気を揺らさないような、一定の口調で、感情が見えない。
あと2枚も口に入れ、酒も全部飲み干した。頭がくらくらした。そのうちズキズキと痛む。今すぐに寝転んでしまいたいけど、大神官の前でそれはできない。
「今期は神子不在が長く続いておりましたので、異例ではありますが、3日後、即位式となります。式典は神官の指示通りに動いて頂ければ。その後、神の聖域に入って頂きます。無事に神子として認められれば、身受け候補と対面となる流れです。……今日はここまでに致しましょう」
ティアは今にも寝てしまいそうだった。目を開けていたいけど、酔いで目が閉じて行ってしまう。
大神官が部屋から出て行くのを見て、仮面を取り、フードを下げて、カウチに寝そべった。
お腹が鳴る。
中途半端な食事はより空腹を感じさせた。お酒では腹は膨れない。
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