現実に獣人がいるって異世界転移して来たんだろ?だったら俺もいつか行ける?

サクラギ

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3章

10 言葉ではない繋がり

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 翠は隣に志津木を迎え、半身を横たえた姿勢から胡座になったが、横に置く給仕に酒を注がせ、横柄な態度を続けている。

「マティアスはどうだった?」

 低い声だ。声の中に嘲りが窺える。その態度を目にしただけで、志津木は席を立ってこの場を去りたい衝動をかろうじて堪えた。このマティアスというのは国を表すのか、異世界の人物を指すのか。そういえばニアと共に来た者は聖気を得ていた筈だ。それはヴォルフだと聞いた。それなのになぜ翠が聞いて来るのか。不快は強まるばかりだ。

「マティアス国の主というのは、王という意味ですか」

 翠は人だ。耳も尾もない。志津木に気配を読む事はできないが、人の世界と繋ぐ為に、トップは人だろうという推測も大きい。

「俺はただのお飾りだ。古(いにしえ)の王族の血を引いている。ヴォルフに見出され、据えられた。ただそれだけだ」

「豊かな国ですね」

「まぁな」

 酒を飲み、薄ら笑いを浮かべる翠を、志津木は好きになれない。元々お金持ちなのだろう。そういう雰囲気がある。怠惰だが品格はあり、人を見る目もあるのだろう。些細な所作で様々な事を推測している。そういう落ち着かなさを与えられている。

「国内を見学させて貰っても?」

 まるで久しぶりに会った親友と話し込んでいる様な、正にそうなのだが、志津木の向かいで楽しそうに笑い合う二人を遠巻きに眺め、志津木はこの場を去ろうと決めた。

「刃(じん)に案内させよう」

「いえ、友人がいますので、許可だけをお願いします」

 翠が思考を巡らせたのが分かる。

「ああ、日本の役人か。好きにすれば良い」

「ありがとうございます」

 礼を述べ、席を立つ。
 ニアが不安げに見上げて来るから、バトラーに、クリスの所へ行くと伝言を頼み、元来た道を戻る。
 バトラーが一階まで送ってくれて、エントランスを出ると、ホテル前にリムジンが待っている。運転手にドアを開けてもらい、クリスが泊まっているというホテルへ向かって貰った。
 車内でひとりになった志津木はやっと深い息を吐き、緊張を解いた。
 クリスにもらったタブレットへ連絡を入れる。コール3回で出たクリスは、志津木が逃げ出す事を予想していたのだろう。

「良いのか?」

「良い」

 たったこれだけの会話でクリスには伝わる。敵なのか味方なのか、志津木の中で答えは出ていないが、長く付き合って来た時間の繋がりは確かにある。それが良いのか悪いのかも別の話だ。
 ただ救われた気分を志津木は得た。それが現状だ。
 クリスはきっと志津木の意図を汲み、日本へ戻る手筈を整えている事だろう。
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