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7 俺ってどういうのがタイプなの

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 金曜日。お約束の日。最低、三千円の出費を覚悟でLillyへ行く。

 昭和なドアを開けると英国ロックが聞こえる。

「いらっしゃい」

 ってカレンに呼ばれてカウンターへ座るなり、友人にバレた話をした。

「1週間も経たずにバレるって、気の緩みかしらねえ」

 って、今日はワインレッドの薄手のドレスを着ている。相変わらずまつ毛バサバサの派手なメイクで素顔は皆無だ。

「好きなヤツにもバレて、友人紹介されそうになったんだけど?」

 泣けて来る。気の緩みと言うのなら、今が一番気が緩んでいる。カレンなら分かってくれる。そういう信用がある。百戦錬磨な歳上のお姉兄さんだ。経験も豊富だろうし、その手の話は幾万と聞いていそうだ。

「一杯目サービスするわ。思いっきり泣きなさい。泣き終わったら周りを見るのよ。きっとお気に入りの人が見つかるはずよ」

 ウイスキーロックを差し出されて、ありがとうと飲み干す。千円浮いた。もう一杯を貰ってちびちび飲んでいると、隣におとこが座った。下げた視線の中にスキニー黒パンツが見える。ロックっぽい感じの上下黒い服装と茶髪。歳は同じくらいに見える。視線をカレンに向けてフルッと視線を揺らせば、カレンの視線が店内を向いて、俺と客の間にナナが来る。ナナが機転を利かせて男を別の席に誘導してくれる。こういうの慣れていないけど、カレンは慣れてる。視線ひとつで真意を読み取ってくれるのは、さすがプロだと思う。

「ああいう玄人タイプは無理よねえ」

 ってカレンにため息を吐かれた。正にそう。俺って気軽にヤれそうに見える? 獲物を狙うような視線とか、男をアピールするような服装とか、話す以前に引いてしまう。

「俺ってネコに見えてます?」

 そこがもうわからない。今の相手だってタチだろうと判断したけど、実はどうかわからない。ナナくらい分かりやすい見た目と態度じゃないと無理だ。今日のナナは黒い革のショートパンツにふわふわの白いパーカーでフードにウサ耳、長い丈のお尻の位置に丸い尾が付いている。ガータベルトと長いソックスと革の靴。可愛いけどセクシーだ。

「ヘテロに見えてると思うわ」

 不思議だ。ノーマルなヤツらの中では女を避けているゲイに見えて、ゲイの間ではノーマルに見えている。どっちつかずの中途半端ってこと?

「だから余計に目を惹くのよ。だってどう見ても初モノでしょ。そういうのが好きなタチも多いのよ」

 それは何となくわかる。男が処女を好むのと同じ条件だ。けど面倒だと避ける人もいる。性癖はそれぞれだと思うと同時に、自分の性癖も許されたら良いと思う。

「こんばんは」

 隣に来た男が声を掛けて来る。ふわふわな感じの髪と爽やかな笑顔。こんばんはと返してカレンを見れば、ニコッと笑まれて、オススメなのだと悟った。
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