34 / 50
034 後宮での暮らし
しおりを挟む
初めて王宮を訪れた日、私は義父のドット子爵と一緒だった。オルターさんやマクレガーさんがご挨拶の仕方を教えてくれた。
「とにかくお教えした通りにして下さい。後は陛下にお任せ下さい」
「わかりました」
「緊張なさらなくても、大丈夫ですよ」
マクレガーさんはいつも気遣ってくれる。
実は私は緊張はしていない。別に来たくて来た訳ではないし、陛下が私に会いたくて連れて来たのだ。陛下のおかげで少しはお金も貯まったので、一人で薬草を扱う店の商いをしてもいいと思っている。だから、最近は陛下に捨てられる心配はしていない。
「あなたを歓迎します」
きれいな王妃様がそう言った。こんなにきれいな女の人は見た事がない。私も美しいと言われるし、自分でもそう思うが、こんなお姫様のような美しさとは違う。村を焼かれて逃げて、娼館で男に買われた私は、美しくても、この王妃様とは違うのだ。
ちょっと、心がピリッとした。
(王妃様は、そんな思いをした事はないものね……)
ご挨拶は簡単だった。後は陛下が後宮に連れて行ってくれた。とても嬉しそうだった。
「フローリア、これでそなたは私の正式な妻だ」
私の部屋は領主様のお邸よりも、さらにずっと豪華で美しかった。
同じ後宮に、あと二人の奥さんがいるそうだ。だけど、挨拶はしなくていいと、陛下もマクレガーさんも言っていた。
私の侍女になった人は、貴族のご令嬢と未亡人らしい。そんな高貴な方たちが私にフローリア様と言って、お世話をしてくれるのは不思議な感じがした。こんな生活がこれから続くのかと思うと、陛下は本当に私が好きなんだろう。
たまに私の宮に、他のご側室の女性が姿が見える時がある。ご挨拶はしなくていいと言われたので、こちらからは声をかけない。でもあちらも何も言って来ない。茶色いサラサラの髪の、私と同じくらいの年の人だ。あの人がアリアドネ様だろう。
きっと私が気になって仕方がないのだろう。
そんな時、お手紙が届いた。お茶会に来てくださいと。
王妃様とご側室さんが、私に何の用があるのだろう?
「行かないといけないですか?」
「フローリア様、これはお断りできません」
侍女のレント子爵夫人が言った。陛下は、面倒な事はしなくていいと言ったので、少し不満だったが一度くらいは顔を合わせてもいいのかもしれない。
でもやはり、無駄な時間だった。豪華な衣装の貴婦人たちが、何やらお話をしているけど何を言っているのかよく分からなかった。ぼうっとしていると思われたらしく、レント子爵夫人がしょっちゅう肘でつついてくるのが煩わしい。
あんまり退屈なので、思い切ってわざと意地悪な事を言ってみた。
「王妃様が怖いと聞いていたけど、皆さんお優しいんですね」
と。叱られたらどうしようかとも思ったが、言ってしまったものは仕方ない。
皆が驚いた顔をするので、私の方がびっくりした。これくらいの事で驚いていては、娼館ではとてもやって行けない。最初は偉い貴婦人たちに気後れしたけれど、「なあんだ」と思った。
そう思ったら、何だかこの貴婦人たちに気を遣うのが、馬鹿馬鹿しくなってしまった。
お茶会の事を聞かれて、陛下には、こう言った。
「王妃様や皆さんが怖かったです……」
「フローリア、可哀そうに……」
お茶会でも貴婦人たちが陛下に気を使っていたけれど、一体何をそんなに気にしているのだろう。どうせ、陛下は嘘を言っても、本当の事を言っても区別がつかないのだ。こんな人の事をいちいち気にかけて、本当に馬鹿みたいだと思った。
ここの生活に慣れてくると、色んな事がどうでもよくなった。皆小さな事を気にして生きている人たちなのだ。ご飯が食べられないとか、村が焼かれるとか、娼館に売られる事を思えば何でもないではないか。
お茶会の後、陛下がお姉様を紹介してくれた。伯爵夫人だそうだ。私が社交界で上手くやっていくのを、助けてくれるらしい。この方も美しいけど……ちょっと他の貴婦人とは違う感じがした。気品があるので全く同じではないが、娼館の意地悪なお姐さんみたいな雰囲気がある。
誰かを虐めたくて仕方がない人が持つ雰囲気だと、私は知っている。
でも、王妃様よりは怖くないかもしれない。王妃様は表面は優しいけれど、きっととても怖い人だと思う。
ある時、このガーランド伯爵夫人が言った。
「ドット子爵とは懇意にしているの。私の亡くなった妹の恋人だったのよ」
「お義父様の?陛下のお母様に結婚を反対されたんですよね?」
「そう。あの人のお陰で、母や私たち姉妹は田舎の領地に引っ込んで、好きでもない人との縁談を持ち込まれたの」
「伯爵夫人も結婚したくなかったのですか?」
「……私は誰とも結婚なんかしたくなかったわ」
私と同じだと思った。私も陛下にどうしてもと言われて王都に来た。王都に憧れていた訳ではない。だけど娼館の主人の言う事を聞くしかないし、この結婚を断る権利はなかったのだ。
「フローリアきっと大切にする。側で支えて欲しい」
陛下は優しくそう言ったが、私の気持ちを聞いてくれたりはしない。自分で決めて、部下のマクレガーさんたちに言って私を自由に扱うだけだ。
私と陛下のお姉様は、どこか似ているのかもしれない。私は、この王宮に来てから初めて話が合いそうな人を見つけた。
「フローリアさん、いい事を考えたの。王妃様がいない間にお披露目の夜会をしましょう」
「王妃様に叱られませんか?」
「構わないわ。面白いじゃないの」
「夜会なんて……私、出来るでしょうか?」
「あなたは、ウィリアムとダンスをしていればいいのよ。ふふふ。万事私にお任せなさいな」
(やっぱりこの人は、私の思った通りの人みたいだわ)
「とにかくお教えした通りにして下さい。後は陛下にお任せ下さい」
「わかりました」
「緊張なさらなくても、大丈夫ですよ」
マクレガーさんはいつも気遣ってくれる。
実は私は緊張はしていない。別に来たくて来た訳ではないし、陛下が私に会いたくて連れて来たのだ。陛下のおかげで少しはお金も貯まったので、一人で薬草を扱う店の商いをしてもいいと思っている。だから、最近は陛下に捨てられる心配はしていない。
「あなたを歓迎します」
きれいな王妃様がそう言った。こんなにきれいな女の人は見た事がない。私も美しいと言われるし、自分でもそう思うが、こんなお姫様のような美しさとは違う。村を焼かれて逃げて、娼館で男に買われた私は、美しくても、この王妃様とは違うのだ。
ちょっと、心がピリッとした。
(王妃様は、そんな思いをした事はないものね……)
ご挨拶は簡単だった。後は陛下が後宮に連れて行ってくれた。とても嬉しそうだった。
「フローリア、これでそなたは私の正式な妻だ」
私の部屋は領主様のお邸よりも、さらにずっと豪華で美しかった。
同じ後宮に、あと二人の奥さんがいるそうだ。だけど、挨拶はしなくていいと、陛下もマクレガーさんも言っていた。
私の侍女になった人は、貴族のご令嬢と未亡人らしい。そんな高貴な方たちが私にフローリア様と言って、お世話をしてくれるのは不思議な感じがした。こんな生活がこれから続くのかと思うと、陛下は本当に私が好きなんだろう。
たまに私の宮に、他のご側室の女性が姿が見える時がある。ご挨拶はしなくていいと言われたので、こちらからは声をかけない。でもあちらも何も言って来ない。茶色いサラサラの髪の、私と同じくらいの年の人だ。あの人がアリアドネ様だろう。
きっと私が気になって仕方がないのだろう。
そんな時、お手紙が届いた。お茶会に来てくださいと。
王妃様とご側室さんが、私に何の用があるのだろう?
「行かないといけないですか?」
「フローリア様、これはお断りできません」
侍女のレント子爵夫人が言った。陛下は、面倒な事はしなくていいと言ったので、少し不満だったが一度くらいは顔を合わせてもいいのかもしれない。
でもやはり、無駄な時間だった。豪華な衣装の貴婦人たちが、何やらお話をしているけど何を言っているのかよく分からなかった。ぼうっとしていると思われたらしく、レント子爵夫人がしょっちゅう肘でつついてくるのが煩わしい。
あんまり退屈なので、思い切ってわざと意地悪な事を言ってみた。
「王妃様が怖いと聞いていたけど、皆さんお優しいんですね」
と。叱られたらどうしようかとも思ったが、言ってしまったものは仕方ない。
皆が驚いた顔をするので、私の方がびっくりした。これくらいの事で驚いていては、娼館ではとてもやって行けない。最初は偉い貴婦人たちに気後れしたけれど、「なあんだ」と思った。
そう思ったら、何だかこの貴婦人たちに気を遣うのが、馬鹿馬鹿しくなってしまった。
お茶会の事を聞かれて、陛下には、こう言った。
「王妃様や皆さんが怖かったです……」
「フローリア、可哀そうに……」
お茶会でも貴婦人たちが陛下に気を使っていたけれど、一体何をそんなに気にしているのだろう。どうせ、陛下は嘘を言っても、本当の事を言っても区別がつかないのだ。こんな人の事をいちいち気にかけて、本当に馬鹿みたいだと思った。
ここの生活に慣れてくると、色んな事がどうでもよくなった。皆小さな事を気にして生きている人たちなのだ。ご飯が食べられないとか、村が焼かれるとか、娼館に売られる事を思えば何でもないではないか。
お茶会の後、陛下がお姉様を紹介してくれた。伯爵夫人だそうだ。私が社交界で上手くやっていくのを、助けてくれるらしい。この方も美しいけど……ちょっと他の貴婦人とは違う感じがした。気品があるので全く同じではないが、娼館の意地悪なお姐さんみたいな雰囲気がある。
誰かを虐めたくて仕方がない人が持つ雰囲気だと、私は知っている。
でも、王妃様よりは怖くないかもしれない。王妃様は表面は優しいけれど、きっととても怖い人だと思う。
ある時、このガーランド伯爵夫人が言った。
「ドット子爵とは懇意にしているの。私の亡くなった妹の恋人だったのよ」
「お義父様の?陛下のお母様に結婚を反対されたんですよね?」
「そう。あの人のお陰で、母や私たち姉妹は田舎の領地に引っ込んで、好きでもない人との縁談を持ち込まれたの」
「伯爵夫人も結婚したくなかったのですか?」
「……私は誰とも結婚なんかしたくなかったわ」
私と同じだと思った。私も陛下にどうしてもと言われて王都に来た。王都に憧れていた訳ではない。だけど娼館の主人の言う事を聞くしかないし、この結婚を断る権利はなかったのだ。
「フローリアきっと大切にする。側で支えて欲しい」
陛下は優しくそう言ったが、私の気持ちを聞いてくれたりはしない。自分で決めて、部下のマクレガーさんたちに言って私を自由に扱うだけだ。
私と陛下のお姉様は、どこか似ているのかもしれない。私は、この王宮に来てから初めて話が合いそうな人を見つけた。
「フローリアさん、いい事を考えたの。王妃様がいない間にお披露目の夜会をしましょう」
「王妃様に叱られませんか?」
「構わないわ。面白いじゃないの」
「夜会なんて……私、出来るでしょうか?」
「あなたは、ウィリアムとダンスをしていればいいのよ。ふふふ。万事私にお任せなさいな」
(やっぱりこの人は、私の思った通りの人みたいだわ)
8
あなたにおすすめの小説
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
未来で処刑さけれるはずだった令嬢は、氷の王子を選びました~ 巻き戻り令嬢の婚約から始まる逆転人生〜
あんこ
恋愛
男爵令嬢リズは、第一王子――セシル・アーデルリヒと正式に婚約していたが、聖女が現れると、セシルの心は聖女へと傾き、ついには「聖女への嫌がらせ」という濡れ衣を着せられ、処刑される運命にあった。
だが目を覚ますと、すべてが始まる十年前――王宮主催の夜会で、同盟国第一王子の来訪と、若き貴族たちのお披露目を兼ねた未来を決めるための宴の日――だった。
未来の元婚約者である第一王子に見つかれば、同じ運命を辿る。
そう察したリズが咄嗟に選んだ“逃げ道”は、同盟国の第一王子――リヒト・ヴァイスハイム、感情を見せない「氷の王子」への突然の婚約申し込みだった――。
これは、定められた未来を覆し、新しい人生を掴み取ろうとする少女の逆転ロマンスファンタジー。
婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―
鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。
泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。
まだ八歳。
それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。
並ぶのは、かわいい雑貨。
そして、かわいい魔法の雑貨。
お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、
冷めないティーカップ、
時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。
静かに広がる評判の裏で、
かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。
ざまぁは控えめ、日常はやさしく。
かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。
---
この文面は
✔ アルファポリス向け文字数
✔ 女子読者に刺さるワード配置
✔ ネタバレしすぎない
✔ ほのぼの感キープ
を全部満たしています。
次は
👉 タグ案
👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字)
どちらにしますか?
恋詠花
舘野寧依
恋愛
アイシャは大国トゥルティエールの王妹で可憐な姫君。だが兄王にただならぬ憎しみを向けられて、王宮で非常に肩身の狭い思いをしていた。
そんな折、兄王から小国ハーメイの王に嫁げと命じられたアイシャはおとなしくそれに従う。しかし、そんな彼女を待っていたのは、手つかずのお飾りの王妃という屈辱的な仕打ちだった。それは彼女の出自にも関係していて……?
──これは後の世で吟遊詩人に詠われる二人の王と一人の姫君の恋物語。
職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
二度目の初恋は、穏やかな伯爵と
柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。
冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう
ムラサメ
恋愛
漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。
死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。
しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。
向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。
一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる