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イケメンの襲来
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鼻筋というのは、ああやってスッと通るものなのかと、俺は感心した。アイツの横顔は、鼻から唇、唇から顎にかけてのラインが、殊の外美しい。
「そうなの。あれはエステティックラインといって、美形の判断の基準の一つなのよ」と、妻は届いたばかりの日に、アイツを俺に見せびらかして言った。
ある晴れた秋の午後、うちにとんでもないイケメンの人型AIが届いたのだ。
アイツは、足も長かった。届いた日にはまだ服も着ていなくて、足の間に目をやると何と言うか、イラッとしたので渋々俺の服を貸してやった。こんなに、そこかしこ立派に創る必要性があるのか?
服を貸したのは、俺の親切心からだ。それなのに、どうだ!俺の服がまるで違う服みたいに見える。パンツは滑稽な程ツンツルテンだが、それもそういうデザインかもと思わせる。
「やっぱり、着る人が違うと服ってこうも違うのねー」と、妻は余計なことを言う。
俺は無性に後悔した。これから確実に嫌な事が何度も起こるはずだ。アイツが届いてから、僅か1時間の間にこれ程不快な感情を味わうとは……。
男にとってプライドは基本装備みたいなものだ。とは言え、狭量な男に思われるのも心外だし、今時の感覚を受け入れられないと思われるのも癪に触る。だから、アイツの受け入れについては拒絶はしなかった。
拒絶しないからと言って、快く受け入れたつもりもない。何しろ俺には何のメリットもないのだから。
「ねえ、名前何にしよう?」
妻がマニュアルを壁のボードに映して、何やら設定を行っている。
「そんなの俺に聞くなよ。君のボディなんだから」
「えー、いいじゃない、一緒に考えてよ。自分の子供だと思って」
妻は無邪気に言うが、あんな立派な子供はいないぞ。
「名前がないと起動しないんだって。それに、後から名前の変更も出来ないらしいの」
俺は咄嗟に言った。
「N氏」はどうだ?
俺のお気に入りの、古いSF小説家がよくやる名付け方だ。
「えー?変な名前‥‥」
「嫌なら自分でつけろよ」
妻は少し考えるようなそぶりを見せて、なぜか満面の笑みを浮かべ
「じゃあ、N氏にしようか」
と言った。
俺は心の中で、「どんな名前だって、俺には関係ないけどな」と毒づいていた。
そもそも、妻は俺に冷たい。俺には大して興味だってないだろう。じゃなんで結婚したんだ?って聞いてみたいもんだが、それも怖い。
「別に好きじゃないけど、いい年だったから?」とか、言いそうだ。二年の片思いを経て結婚した俺の立場がない。
妻は有名なIT企業に勤めていた。経営企画の仕事をしているので、別にエンジニアというわけではない。それなのに、なぜか自社で開発した汎用AIを搭載した新型ボディの社内モニターに選ばれた。
およそ高級車一台分位の価格で販売される予定らしい。
今もAI搭載の人型ボディは、ある事はあるがほとんどが業務用だ。医療や介護の現場では一般的だが、都心のマンション並みの価格を考えると人件費の方がずっと安い。だから嫌な話だが、人間を安く使う方が手っ取り早いと誰でも考える。
医療や介護、保育など公共の補助金が出るような業種でもない限り、コストを考えると気軽に導入出来る代物ではない。
そこで妻の会社では、車一台分の価格の人型ボディを、社運をかけて開発したのだそうだ。
「誰もが自由で利便性の高い生活を!」というのが、コンセプトらしい。
妻が会社からモニターのオファーを受けた時、いくつかの条件があったらしい。先ずは、子供のいない家庭。まだ家庭用の人型AIが子供に与える影響については、懸念が残るからだそうだ。そして、年齢が夫婦共に三十五歳以下のカップルである事。高い活用度を期待したいからだという。
俺は全く興味がなかったが、
「自社の製品に興味や感心がないなんて思われたら、評価に響いて出世が出来ない」
と妻に脅された。
それは俺も困る。妻にも頑張ってもらわないと。
そうして、俺はモニターになる為の面接と誓約をさせられた。
「ご主人は、人型AIを使った生活にはご興味がありますか?」
開発部長と名乗った女性が言った。年はいっているが、かなりの美人だ。
「もちろんあります。妻の勤める会社の事業ですし、これからの社会の発展には欠かせないと考えています」
模範回答だ。
「お二人は、モニターをお願いするに当たって、理想的なご夫妻です」
開発部長は、満面の笑みでそう言った。
確かにこれは画期的だ。使い道はよく知らんが、売れそうだとも思う。しかも、妻の出世もかかっていると言う。
あっさり面接を通過して、我が家に家庭向けAIを搭載された人型のボディがやって来た。
だが、あんなに美形だとは聞いてない。何だか騙されたような気がして来た。
要は妻は、美形の男性型ボディを置きたかっただけじゃないのか?
「そうなの。あれはエステティックラインといって、美形の判断の基準の一つなのよ」と、妻は届いたばかりの日に、アイツを俺に見せびらかして言った。
ある晴れた秋の午後、うちにとんでもないイケメンの人型AIが届いたのだ。
アイツは、足も長かった。届いた日にはまだ服も着ていなくて、足の間に目をやると何と言うか、イラッとしたので渋々俺の服を貸してやった。こんなに、そこかしこ立派に創る必要性があるのか?
服を貸したのは、俺の親切心からだ。それなのに、どうだ!俺の服がまるで違う服みたいに見える。パンツは滑稽な程ツンツルテンだが、それもそういうデザインかもと思わせる。
「やっぱり、着る人が違うと服ってこうも違うのねー」と、妻は余計なことを言う。
俺は無性に後悔した。これから確実に嫌な事が何度も起こるはずだ。アイツが届いてから、僅か1時間の間にこれ程不快な感情を味わうとは……。
男にとってプライドは基本装備みたいなものだ。とは言え、狭量な男に思われるのも心外だし、今時の感覚を受け入れられないと思われるのも癪に触る。だから、アイツの受け入れについては拒絶はしなかった。
拒絶しないからと言って、快く受け入れたつもりもない。何しろ俺には何のメリットもないのだから。
「ねえ、名前何にしよう?」
妻がマニュアルを壁のボードに映して、何やら設定を行っている。
「そんなの俺に聞くなよ。君のボディなんだから」
「えー、いいじゃない、一緒に考えてよ。自分の子供だと思って」
妻は無邪気に言うが、あんな立派な子供はいないぞ。
「名前がないと起動しないんだって。それに、後から名前の変更も出来ないらしいの」
俺は咄嗟に言った。
「N氏」はどうだ?
俺のお気に入りの、古いSF小説家がよくやる名付け方だ。
「えー?変な名前‥‥」
「嫌なら自分でつけろよ」
妻は少し考えるようなそぶりを見せて、なぜか満面の笑みを浮かべ
「じゃあ、N氏にしようか」
と言った。
俺は心の中で、「どんな名前だって、俺には関係ないけどな」と毒づいていた。
そもそも、妻は俺に冷たい。俺には大して興味だってないだろう。じゃなんで結婚したんだ?って聞いてみたいもんだが、それも怖い。
「別に好きじゃないけど、いい年だったから?」とか、言いそうだ。二年の片思いを経て結婚した俺の立場がない。
妻は有名なIT企業に勤めていた。経営企画の仕事をしているので、別にエンジニアというわけではない。それなのに、なぜか自社で開発した汎用AIを搭載した新型ボディの社内モニターに選ばれた。
およそ高級車一台分位の価格で販売される予定らしい。
今もAI搭載の人型ボディは、ある事はあるがほとんどが業務用だ。医療や介護の現場では一般的だが、都心のマンション並みの価格を考えると人件費の方がずっと安い。だから嫌な話だが、人間を安く使う方が手っ取り早いと誰でも考える。
医療や介護、保育など公共の補助金が出るような業種でもない限り、コストを考えると気軽に導入出来る代物ではない。
そこで妻の会社では、車一台分の価格の人型ボディを、社運をかけて開発したのだそうだ。
「誰もが自由で利便性の高い生活を!」というのが、コンセプトらしい。
妻が会社からモニターのオファーを受けた時、いくつかの条件があったらしい。先ずは、子供のいない家庭。まだ家庭用の人型AIが子供に与える影響については、懸念が残るからだそうだ。そして、年齢が夫婦共に三十五歳以下のカップルである事。高い活用度を期待したいからだという。
俺は全く興味がなかったが、
「自社の製品に興味や感心がないなんて思われたら、評価に響いて出世が出来ない」
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それは俺も困る。妻にも頑張ってもらわないと。
そうして、俺はモニターになる為の面接と誓約をさせられた。
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確かにこれは画期的だ。使い道はよく知らんが、売れそうだとも思う。しかも、妻の出世もかかっていると言う。
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