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慣れてもらわないと
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夫は手強かった。中々、N氏に慣れてくれない。慣れないと言うより、そもそも使ってくれないのだ。
このボディは基本的に家庭用だから、家事機能を搭載している。家事全般出来て、特に調理機能は開発時に力を入れたらしい。家人の年齢や体質、嗜好に合わせた最適な調理が出来る。
好みのフレンチには、あの愛想のない夫も舌鼓を打っていた。私は太らないようにカロリー設定出来るのが、特に有り難かった。
家事手伝いをする若い男の子がいるみたいで、不思議な感じの生活が始まった。N氏には夫の合わない服より、落ち着いたシャツとパンツを買って履かせてみたが、実にいい。何の飾り気もない服が、美形な顔とボディをより引き立てている。
服を買う時にN氏を連れて行き、一応スーツも試着させてみたが、似合い過ぎた。これでは、きっと夫はまたもや顔を顰めるに違いない。私もスーツ姿のN氏はちょっとカッコ良すぎて気恥ずかしい。
N氏がAIを搭載した人型ボディだということは、近くでみたらわかる。私が、何か変な趣味の女みたいに見えるのは困る。
そして予想外だったが、外でN氏と呼ぶのは、何だか躊躇ってしまった。昔ながらの厨二の女みたいだからだ。
名前は変更出来ないと書いてあったが、何とかならないかとマニュアルを確認したら、何と愛称を付けられるようだ。
私は即決で推しのナオトの名前にした。
「愛称はナオトよ」
「分かりました、サクラ」
ナオトと呼び出したら、何だかさらに親近感と人間味が備わって来たような気がした。外に積極的に連れ出したり、私の細かい日常の作業を手伝って貰ったりした。
特にシャンプーをして貰うのが、最高に気持ちいい。途中で車の運転のバージョンアップもあったので、彼がいるのが便利この上ないと思えて来た。
夫は全くナオトに関わろうとしなかったが、不意に好機が訪れた。
「何だか疲れる」とぼやき出したのだ。
私は心の中で、ガッツポーズをした。
「マッサージ機能があるわ」
夫は最初は嫌がっていたが、何とか説き伏せてやらせてみた。ナオトのマッサージの素晴らしさは、私もシャンプーで確認済みだ。やれば必ず気にいるはずだ。
案の定、夫はマッサージの最中にスヤスヤと眠りだした。ナオトはきっかり三十分マッサージを行った。
「ご主人は睡眠に入られました。サクラ、どうしますか?」
「彼のベッドに連れて行って、パジャマに着替えさせて」
ナオトは、夫をお姫様抱っこして寝室に運んだ。軽々と夫を持ち上げる姿に惚れ惚れした。今度私もやって貰おう。
翌日の朝起き出して来た夫は、少しバツが悪そうに見えたが、その日から毎日ナオトにマッサージさせるようになった。
そして、やがてシャワーを浴びるとリビングではなく、直接自分の部屋にナオトと向かうようになった。ものすごい進歩だ。
私は、遂に目的の第一段階をクリアした。夫とナオトが二人きりになると言う事。これは意外に難関だと思われたが、あっさりマッサージが解決してくれた。
男というのは、マッサージが好きだと統計にもあるようで、開発でも優先的に採用された機能だ。その通りに、夫はナオトのマッサージに陥落されてくれた。
ナオトの本領はここからだ。
だが焦ってはいけない。何事も慎重に事を運ぶべきだ。
翌日、私は会社に出社してフィードバックを行った。
「どう?上手くやってる?」
長谷川部長が尋ねた。
「はい、最近ようやくボディと二人きりにする事が出来ました」
「それはすごいわね!」
「マッサージ機能が有効でした。一度やってみたら、やみつきで」
「なるほど!それは良い傾向だわね。リラックス効果が高いので、会話も上手く行きやすいから、進展が期待できるわ」
「まだ、指示は出していません」
「そう。二人きりになってどれくらい?」
「一週間位です」
「一カ月待ちましょう」
「指示は一カ月後ですね。内容はどうしますか」
「AIに判断させましょう。元々、そこが今回のモニターの大きな肝なんだから。AIがどこまでやれるか、私も興味があるし、自信もあるわ」
長谷川部長は、ニッコリと微笑んで言った。この人は昔から、笑うととても華やかな美人だ。
「大丈夫。きっと上手く行くから」
「最近はジムにも連れて行っているようです」
「会話はしている?」
「ええ。二人でマッサージしながら話し込んでいるようです」
「男の付き合いモードに入ったのかしら?」
長谷川部長は、汎用AIの開発責任者だ。業務用と違い、家庭用AIは目的を定めない会話が中心となる。
むしろ特化型より課題が多く、家族構成に合わせて最適化するのが難題だったそうだ。
ナオトがうちに来る時に長い時間がかかったのは、私たち夫婦に合わせた調整が行われたからだ。
「何となくですが、二人は私の知らない会話をしていると思われます」
このボディは基本的に家庭用だから、家事機能を搭載している。家事全般出来て、特に調理機能は開発時に力を入れたらしい。家人の年齢や体質、嗜好に合わせた最適な調理が出来る。
好みのフレンチには、あの愛想のない夫も舌鼓を打っていた。私は太らないようにカロリー設定出来るのが、特に有り難かった。
家事手伝いをする若い男の子がいるみたいで、不思議な感じの生活が始まった。N氏には夫の合わない服より、落ち着いたシャツとパンツを買って履かせてみたが、実にいい。何の飾り気もない服が、美形な顔とボディをより引き立てている。
服を買う時にN氏を連れて行き、一応スーツも試着させてみたが、似合い過ぎた。これでは、きっと夫はまたもや顔を顰めるに違いない。私もスーツ姿のN氏はちょっとカッコ良すぎて気恥ずかしい。
N氏がAIを搭載した人型ボディだということは、近くでみたらわかる。私が、何か変な趣味の女みたいに見えるのは困る。
そして予想外だったが、外でN氏と呼ぶのは、何だか躊躇ってしまった。昔ながらの厨二の女みたいだからだ。
名前は変更出来ないと書いてあったが、何とかならないかとマニュアルを確認したら、何と愛称を付けられるようだ。
私は即決で推しのナオトの名前にした。
「愛称はナオトよ」
「分かりました、サクラ」
ナオトと呼び出したら、何だかさらに親近感と人間味が備わって来たような気がした。外に積極的に連れ出したり、私の細かい日常の作業を手伝って貰ったりした。
特にシャンプーをして貰うのが、最高に気持ちいい。途中で車の運転のバージョンアップもあったので、彼がいるのが便利この上ないと思えて来た。
夫は全くナオトに関わろうとしなかったが、不意に好機が訪れた。
「何だか疲れる」とぼやき出したのだ。
私は心の中で、ガッツポーズをした。
「マッサージ機能があるわ」
夫は最初は嫌がっていたが、何とか説き伏せてやらせてみた。ナオトのマッサージの素晴らしさは、私もシャンプーで確認済みだ。やれば必ず気にいるはずだ。
案の定、夫はマッサージの最中にスヤスヤと眠りだした。ナオトはきっかり三十分マッサージを行った。
「ご主人は睡眠に入られました。サクラ、どうしますか?」
「彼のベッドに連れて行って、パジャマに着替えさせて」
ナオトは、夫をお姫様抱っこして寝室に運んだ。軽々と夫を持ち上げる姿に惚れ惚れした。今度私もやって貰おう。
翌日の朝起き出して来た夫は、少しバツが悪そうに見えたが、その日から毎日ナオトにマッサージさせるようになった。
そして、やがてシャワーを浴びるとリビングではなく、直接自分の部屋にナオトと向かうようになった。ものすごい進歩だ。
私は、遂に目的の第一段階をクリアした。夫とナオトが二人きりになると言う事。これは意外に難関だと思われたが、あっさりマッサージが解決してくれた。
男というのは、マッサージが好きだと統計にもあるようで、開発でも優先的に採用された機能だ。その通りに、夫はナオトのマッサージに陥落されてくれた。
ナオトの本領はここからだ。
だが焦ってはいけない。何事も慎重に事を運ぶべきだ。
翌日、私は会社に出社してフィードバックを行った。
「どう?上手くやってる?」
長谷川部長が尋ねた。
「はい、最近ようやくボディと二人きりにする事が出来ました」
「それはすごいわね!」
「マッサージ機能が有効でした。一度やってみたら、やみつきで」
「なるほど!それは良い傾向だわね。リラックス効果が高いので、会話も上手く行きやすいから、進展が期待できるわ」
「まだ、指示は出していません」
「そう。二人きりになってどれくらい?」
「一週間位です」
「一カ月待ちましょう」
「指示は一カ月後ですね。内容はどうしますか」
「AIに判断させましょう。元々、そこが今回のモニターの大きな肝なんだから。AIがどこまでやれるか、私も興味があるし、自信もあるわ」
長谷川部長は、ニッコリと微笑んで言った。この人は昔から、笑うととても華やかな美人だ。
「大丈夫。きっと上手く行くから」
「最近はジムにも連れて行っているようです」
「会話はしている?」
「ええ。二人でマッサージしながら話し込んでいるようです」
「男の付き合いモードに入ったのかしら?」
長谷川部長は、汎用AIの開発責任者だ。業務用と違い、家庭用AIは目的を定めない会話が中心となる。
むしろ特化型より課題が多く、家族構成に合わせて最適化するのが難題だったそうだ。
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