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始まり

3.帰り道

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「ほら帰るよ、まだ歩かないといけないんだ」

「あれ?ここに家もあるんじゃないの?」

「ここは仕事をするのに便利だからみんなで作った簡易集落だ。街はもっとちゃんとしてるよ。」

情けない泣き顔を見られたうえに一喝されたおばあさんに連れられて、彼女の家へ帰っている。

「どうして俺を助けてくれるんだ?ばあちゃんもわかっていると思うけど、俺は異国の人間だ、助ける義理なんてないだろ。」

「その話か。私はね、村長でもなんでもないんだけど、この街で何か起きるとなぜかみんな報告してくるんだよ。それで変な恰好をした男が集落に現れたっていうから見に行ってみれば、ずっと悲しそうな顔で座ってるし、しまいには泣き出したもんだ!」

小ばかにするようにおばあさんは語る。

「うぐっ」

何も言い返せない。自分でもあれは相当情けないことをした自覚がある。

「でもね、本当の涙を流せる人間に悪いやつはいないよ。」

「本当の涙?」

「嘘偽りの無い、心の中から出てくる涙だよ。おまいさんの涙はそうだった。だから声をかけた。それだけだよ。」

「そんなことわかるのか?」

「これだけ生きてるとなんとなくわかるもんだ。でもな、これは経験でしか身につかん。私も若いころは散々騙された。ま、そのうちわかるようになるさ。」

このとんでもない懐の深さを目の当たりにした俺は、ここに来てからずっと気になっていた質問をぶつけてみる。

「ばあちゃん、日本って知らない?そこから来たんだけど。」

「う~ん、知らないねぇ。おまえさんは二ホンってところから来たのかい。私が知る限りそんな国は聞いたことないねぇ。」

やっぱり、日本が存在する世界にはいないんだな・・・。もう、本当に帰れないのかもしれない。
でも1つ大きく引っかかることがある。

「なぜこの世界の人々が日本語を話しているんだろう?ここにある物は日本、さらには地球に存在しないものばかりだというのに・・・」

「チキウ?それが何かは知らんが物事には必ず理由がある。おまえさんが全く違う世界からここに来たことも、言葉が通じるのも。もしかすると深い繋がりがあるかもしれないねぇ」

難しい話を避けるようにおばあさんは続ける

「そんなことより名前は?なんというんだい。」

「エンシ。」

「エンシ、良い名前じゃないか」

「そう?」

「人との巡り合いを大切にするように両親からの祈りが入っておるな」

「なんでわかったの!?エスパー?!」

「私は何でもお見通しだよ!」ニカっと無邪気な笑顔を見せる。

街のみんながこの人に相談する気持ちがなんとなくわかる気がする。この人だったらちゃんと話を聞いてくれるだろう、なんとかしてくれるだろう、そんな気持ちになる。だって、向こうからすれば異世界人の俺の言葉を、当たり前のように信じているのだから。

「そういえば、ばあちゃんこそ名前はなんていうんだよ」

「私はクサビじゃ。」

「へぇー、なんか意外だなぁ。トモヨっぽい!」

「勝手に変な名前を付けるんじゃないよ!」

そんなことを言いながら歩く帰り道。帰り道ねぇ。そもそも俺にとっては知らない場所のはずなんだが。この気持ちは、そう、だ。
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