魔法少女の魔法少女による魔法少女のためのご主人様幸せ化計画

円田時雨

文字の大きさ
103 / 114
フリマとフリーコンサート

作詞作曲練習練習

しおりを挟む
「よーっし! やるぞ、バンドーっ! 」
 という望月の提案により、俺たちはゴールデンウィーク最終日のフリーライブに出場するらしい。
 三好はギターを、立花はだいたいなんでも、早瀬はベースかドラムならできるという話だ。が、俺と望月はそんなご都合主義的な楽器経験があるわけなかった。
「そういえば、マスターも楽器弾けるんだよね」
「ん? いや弾けないけど」
「ご冗談を~。調べはついてるんだからね。マスターって、4歳から小学2年生の頃までピアノ習ってたんでしょ? みんなちゃ~んと知ってるんだから」
 どこで調べたんだそんなもん。確かに経験はあるが、今となってはまともにメロディーを奏でられるかどうかも知らない。てか無理だろ。
「これでキーボード担当も決まりだね! 」
 いや勝手に決めるなよ。無理だって。
「あ、そうだ。愛果ちゃん、曲はどうするの? どこから借りようか」
 そういえばそうだ。どこからパクってくるのか、どんな曲をパクるのか、何一つとして決まっていない。早くも雲行きが怪しくなってきたバンドチームである。
 前提で既に崩壊寸前ではあったが。
「そんなの、自分たちで作ったらイイじゃん」
 まるで当たり前のことを指摘された弁護人みたいな顔で、望月はそう言った。
「曲も歌詞も自分たちで作って、自分たちのバンドを作るんだよ! 」
 ニカッと笑う望月は、輝きのあまり反対勢力を糾弾するくらいの威力を発揮していた。相手にうむを言わせる気すら無いらしい。
「……分かった。曲はそれでいいとして」
 全然よくねぇって早瀬。結局何も決まっていないぞ。
「それぞれ、どの楽器を担当するか決めないとね。ボーカルにギター、ベースやドラムにキーボード。みんな、どれにする? 」
 早瀬の提案で、レンタル楽器屋に着くまでに決めることとなった。
 やりたい楽器の取り合いで大変なことになる……なんて小学生の音楽会みたいな事態は、流石に起きなかった。想像以上にすんなり決まったのだ。
 相談した結果、ボーカルは望月、ギターに三好、ベースを立花、ドラムが早瀬、そしてキーボード担当が俺……。
「つーか……望月は楽器やらなくていいのか? 」
 あれだけギターにハマっていたのに、そういえば望月はボーカルを選んでいる。
 お前が楽器ハマった時の思いつきなのに、なんでお前がやらないんだよ。
「ギターをしても良かったんだけどね、歌を歌った方がさ、きっともっと楽しいと思うんだ! 自分たちで作った歌を、大勢の人たちの前で披露する……ワクワクしてこない? 」
 しないね、俺は。第一にそこまで客が来ねぇだろ。
「じゃあ、作詞作曲は愛果ちゃんにやってもらおうかしら」
 いつの間にか指揮権を握ってる早瀬の指名に、望月は当然とでも言いたげに胸を張った。
「あと立花さんにもお願いできるかしら。いくらなんでも、1人で全部作るのは大変だからね」
「了解した」
 刹那の間もなく立花の了承が得られた。
 望月と立花の作る曲か……どんなのができるのか楽しみではある。
 楽器を借りた後、三好と早瀬の協力もあり、その日は俺の昔懐かしい勘を取り戻すために費やされた。
 ピアノの勘とは実に約9年ぶりの再会である。どうやら久しぶりすぎる再会のため、人見知りでもしているのかあの時のように目を合わせようとしない。1日中勘の心を解きほぐすと、とりあえずこちらには振り向いてくれたようだ。
 あの時程ではないが、着実に上達しているのが分かる。しかし……曲がないとこれ以上練習のしようがない。
 立花と望月は、部屋に引きこもって必死に作詞作曲をしていた。明日には出来立てホヤホヤの曲で練習ができるのだろう。多分だけど。

 そして翌日。
 本番は明日と考えると、時間のなさに笑えてきそうだ。たった1日で0から100までやらねばならないのだ。過労死するかもしれない。アクビよりも溜め息の方が多い朝なんて久しぶりである。昨日の練習である程度の勘を取り戻せたとはいえ、簡単な曲しか弾けないのが現状だ。
 2人はまだ部屋に閉じこもっているようで、曲作りに苦戦しているのが見て取れる。そりゃ作詞作曲のド素人が昨日今日でどうにかできるもんではないだろう。それでもどうにかしないといけないのだ。
 朝メシをとっとと済ませて、俺も家にある電子ピアノに向かった。
 しばらくボロンボロンとピアノの音色に酔いしれていると、
「できたーっ! 」
 廊下からドッカーンと、花火みたいな声が聞こえてきた。
「なんだ、思ったよりも元気そうじゃないか望月。てっきり徹夜作業でぐったりしてるんじゃないかと思ったよ」
 廊下から姿を現した望月は、登山初心者が富士山を制覇した時のような、ズブズブと深みにハマっていきそうな達成感てんこ盛りの笑顔をしていた。
「私の元気は、そんなことじゃへこたれないよー! それよりホラ、できたよ! 曲! 」
 望月から渡されたのは、ノートと手書きの楽譜数枚のセットだった。
 ノートには雑で丸っこい字がビッシリ埋まっている。途中落書きがチラホラ見えるのは気の所為ってことにしておこう。今回だけな。
 楽譜は、まるで印刷されたかのような綺麗さを誇っていた。鉛筆っぽい線じゃなければ、多分本気で印刷されたものだって信じていただろう。字面だけでここまで個性って出るもんなんだな。
「よし、じゃあ早瀬と三好にも連絡してさっさと練習するか。2人には悪いが全然時間がないんだ。徹夜だからなんて言い訳するなよ」
「もちろんだよ! 」
「言い訳……? そんなの、するわけがない」
 2人とも全然平気そうで何よりだ。特に発案者望月がこんなとこで倒れたら、俺が張り倒してやるくらいの覚悟でいてもらいたいもんだ。なんてったって発案者なんだからな。早速早瀬と三好に連絡して、10分後には近所の公園に集合していた。
「マスター、何してるの? 」
 俺が幅の広い箱を置いていると、早瀬が不思議そうな目を向けてきた。
「ん? これか? まぁ大したことじゃないんだけどさ、こうして箱を置いてたら、俺たちの練習を見て金を恵んでくれる聖人の登場を期待してるんだよ」
「マスターって……どこまでも金の亡者なのね。そんなにお金が欲しいんだったら西田君を恐喝したらいいんじゃない? 」
 最後のは流石に冗談だとは思うが、早瀬からそんなこと聞くとは思ってなかったな。
 別に西田を恐喝するくらいしてもいいんだが、生活費を支えるほどにはならんだろう。
 やるならもっと頑張らないとな。たとえば……西田をパクって身代金要求とか。

 その日は1日中楽器をかき鳴らして終わった。
 望月と立花が作った曲は、想像以上に難易度が低く設定してある。それなりの腕があれば1日の練習で形だけでも繕えるくらいには。
 しかし、それでいて奥深いメロディーにできる曲であるのも確かだ。作曲のセンスも半端ないらしいな、立花は。作詞の方も、歌うヤツが自ら作った詞なのだ。暗記については全く問題ない。いかにも作詞したヤツが歌詞の裏から見えてくる、まさに『それらしい』ってことばを歌にしたような感じだった。
「ふぅ……それじゃあ、もう時間も遅いことだし、これでお開きにしよっか。みんな、お疲れ様」
 早瀬がそう言ったのは、夜の8時が過ぎようとしていた頃だった。いつの間にかそんなに時間経ってたのか。
 長い間鍵盤を叩きまくったせいで手が痺れるくらい痛い。みんなも疲れたような表情でそれぞれの家に帰った。
 いよいよ明日が本番である。
 不安しかないのが本音だが、何よりの望みは明日風邪引くか台風来てコンサートが中止になることだ。
 頼むよ神様、今回ばかりは慈悲をくれ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...