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第一の世界
教授の名前
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ドアを開けて入ってきたのは真顔のショートカットバージョンパール。そしてこちらの剣呑な雰囲気に目を見開いて「え?は?」と言っているのがナルザルク。
ーー何でナルザルク?
スタスタと部屋に入ってきたパールに比べナルザルクは入り口付近で固まっていた。ナルザルクが付いてきていない事に気付いたパールはあからさまに舌打ちをしてからナルザルクの襟の後ろを掴んで引き摺る様にテーブル付近まで連れてきた
ーーそんな猫みたいな運び方……
どうしてそんなに誰に対しても強気なのか少し頭が痛くなるがとにかく現段階での情報共有だ
「あの、一応聞くけどナルザルクはどうしてここに……」
そうするとナルザルクではなくパールが「必要かと思って連れてきたのよ」と答えた
「ちなみに説明は?」
絶対にしていないだろうと思い思わず右手で頭を支えながら聞くと「必要ないかと思ってしてないわ」と答えた
ーーやっぱり
「ごめん。ごめんなさいねナルザルク。突然こんな所に連れてこられてびっくりするわよね」
そう言えばナルザルクは苦笑いをしながら「説明はこれからしてくれるんだろ?」と言った。本当に申し訳ない。
「ああ、私から説明するよ」
そう言ってラクナザスがナルザルクに説明を始めてくれた。その間私はサルティナにパールを紹介する
「サルティナ、姿はいつもと違うけどパールよ」
パールはにっこり笑いながらサルティナに手を差し出し「この姿では『初めまして』サルティナ」と言った。
「え、ええ。初めましてパール。えっと、いつも朝ごはんを用意してくれるパールでいいのよね?」
「ええ。間違いありませんよ。この姿の方が話しやすいですか?」
そう言いながらピカピカパールになった。
「姿が変わると話し方も変わるのはわざとなの?」
ーーあ、私もちょっと気になってたやつ
「そうね。特に意識はしていないけど、なんかそうなるみたいね」
またショートカット美女になりながらパールが話す。サルティナは小さく「ほー」とは言っているがどこか心ここに在らずだ。
「それから、念の為に今からこの姿でいくわね」
そう言ってパールが次に姿を変えたのは『私』だった
「レイが2人……!」
サルティナも驚いてはいたが、声を出したのはナルザルクだった。どうやらざっくりとした説明は終わったらしい
「パール、お前そんな事もできるのか。ちなみに俺は?俺にもなれるのか?」
わくわくとした様子のナルザルクをチラリとみたパールは「ああ、なれる」と言ってナルザルクに擬態した。もう隣に並んでいるのに全然見分けがつかない程完璧な擬態だ
「すっっっげぇな!」
目をキラキラさせているナルザルクは完全にパールの擬態に夢中だ。
ーーサルティナに挨拶しなくていいのかしら
そう思った時、見兼ねたようなラクナザスが声を掛けた。
「楽しそうだけど、サルティナ嬢と挨拶は済んだのか?お前がいいなら私はいいが」
そう言うとナルザルクは真っ赤になりながら「ばっか、わ、わかってる」と言って焦り出した。どうやら忘れていた訳ではなく照れ臭かっただけなようだ。
ーーでもこれが初めての会話って事かしら?もしかしてナルザルクってサルティナと話した事ないのにサルティナの事が好きだったの?
ナルザルクの事をじっと見ていると目があった。少し気まずそうに頬をぽりぽりと掻きながら「なんだよ」とそっぽを向いた彼は只の恋する男の子だった。
仕方ない、ここは私がきっかけを作ってあげよう。というかサルティナも普段のナルザルクと余りにも違う態度や口調に戸惑っている様だ。さっさと済ませよう。
「ナルザルク、私の友人のサルティナよ。部屋も隣なの」
知っているだろうけれど、と心の中で言えばまるで聞こえたかの様に軽く睨まれた。ちょっと楽しい。
「サルティナ、私とラクナザスの友人のナルザルクよ。生徒会メンバーの一員で、前にディードレーヤの召集を拒否するのを協力してくれたからその時に顔は合わせたわよね」
そう言うとサルティナはゆっくりと頷いた
「こんにちはナルザルク様。あの時はレイチェルを助けて頂き本当にありがとうございました」
サルティナが頭を下げると真っ赤な顔のままナルザルクが首を振った
「いやいや、特に何もしていないから大丈夫だ。それに俺に様付けはいらない。その、もしよければナルザルク、と。」
ーーえぇー何この甘酸っぱい感じ。私ニヤニヤしてないかしら?してるわよね?だってさっきから物凄くラクナザスと目が合うもの。
苦笑いのラクナザスと目が合うもの。
でもこれはニヤニヤしてしまうわよ!
でも流石にナルザルクに悪いのでそろそろ部屋の隅に移動しようかなと思っているとパールが口を開いた
「では挨拶が済んだところで話を進めましょう」
ーーおぉ。よくこの空気をぶった切ったわね
私の姿になったパールは現在の過激派、穏健派の動きを軽く説明してくれた。
過激派はディードレーヤの行動がきっかけとなり、まるで大義名分を得たとばかりに私を捕捉しにかかっているらしい。
穏健派はと言うと、そんな過激派の動きをできるだけ阻止出来るよう立ち回ってくれている様だ。
「もし、行き場が無くなればドトルク教授が自分の所へ来る様に、と」
ーードトルク教授?誰それ
隣のサルティナを見ればサルティナも首を傾げていた。そしてそんな私達を見てナルザルクが笑い出す
「おいおい。もう何回も講義を受けているだろう?石版の教授だよ」
「!」
「!」
初めて知った。石版の教授はドトルクと言う名前なのか。
私達の驚いた顔を見るとラクナザスが
「あの教授は穏健派の中でもかなりお爺様に協力的で信頼も厚い。今回の騒動もいち早く対応してくれていたそうだよ」
と言った。
「ん?でもどうしてパールがそのドトルク教授から伝言を受け取るの?」
「レイチェルが追われている事を知ったから、敵を遠ざける為にレイチェルに擬態して色んな所を動き回ってきたのよ」
そこで教授が保護を申し出てくれたらしいがパールは信用できるかわからなかったので一旦断り、敵を撒いた後に教授の動きを軽く見ていたらしい。すると本当に協力者らしく過激派を抑えるのに奮闘してくれていた。
とりあえず私達と合流をしようと思った時にもう1人くらい信用できる奴がいた方がいいだろうと言う事でナルザルクの部屋に乗り込み、碌な説明もせずに引っ張ってきたらしい
ナルザルクへの申し訳なさが止まらない。それにしても学園側に協力者がいてくれるとわかっただけでも心強い。教授と、それを調べてきてくれたパールに感謝だ。
「では、一先ずこちらで待機をしようか。理事長室へと向かいたいが向こうに行くには流石に過激派が多いだろうしここが1番ましだろう」
ラクナザスがそう言うと全員が頷いた。
「じゃあ私、少し席を外していいかしら。何か食料を調達してくるから。この中で顔が知られていないのは私だけだしパパッと行ってくるわ」
ショートカット美女になったパールが立ち上がるが危なくないだろうか。顔が知られていないとは言っても過激派がもし一般生徒にも横暴な事をしていればいくらパールでも捕まってしまうかもしれない。でもこの中で1番行動し易いのは確かにパールだ。
私とサルティナは論外だし、ラクナザスとナルザルクも前に大勢の前で私を召集から救っている
「パール……」
結局パールに頼むしか無さそうだとわかり気持ちが落ち込む
「そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫よレイチェル。私、結構強いんだから。
いざとなったらさっさと逃げ出してくるから」
そう言ってパールは私の頭をポンポンと叩いて出て行った。
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