異世界めぐりの白と黒

小望月 白

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第一の世界

初めての街

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※残酷な描写が含まれています。苦手な方はご遠慮ください。



邪竜の間を出て暫くは隠し通路を通って安全に進む事ができた。
どうやら過激派にはこの隠し通路の事は漏れていないらしい。

すんなりと街の方迄出る事が出来、私達は始まりの森へと続く路へ足を進めた。

途中何度か人目を避ける様に休憩を取りながらローブで全員顔を隠して歩く。すると突然何か楽しい事を思い出したかの様にニヤニヤしたナルザルクが話しかけてきた。


「そういえばレイ、前に約束してた街を案内するってやつ。変な所で叶っちまったな」

「あら本当ね。でもこれはノーカンでしょう?」

「のーかん?まあ今回のは楽しい案内じゃないからな。別の学園都市に行った時にそこで案内してやるよ」

「ん?これから行く所に行った事あるの?」

「いや、ないけどよ。まあ街なんてどこも似た様なもんだろ」


「そんな適当な」

思わず吹き出してしまったが、しかしきっと楽しいだろう。
今回の案内は裏道ばかりで正直街の様子なんて全くと言っていい程わからない。なので次の街では沢山皆で散歩や買い物をしよう。
穏やかな雰囲気が流れ、少し先の未来に新しい希望が増えた。






そして私達は油断した


きっと過激派が潜んでいるとわかっていたのに、ここまでが余りにも順調で「もしかしてこのままあっさり脱出できるのでは」という考えを持ってしまっていた。そんな時の襲撃だった。

街出身のナルザルクが先頭に立ち人目に付きにくい路を歩く。そしてナルザルクが曲がり角を曲がった瞬間追っ手が現れた。
斬りかかられたナルザルクは咄嗟に飛び退いたが利き手である左手を負傷。
槍を出してはいるが満足に戦う事は難しそうだ。

そして前に気を取られていた私の背後には別の追っ手。それに気付いたサルティナが私を引き寄せ抱きしめる

ーーだめ!サルティナが刺されてしまう!

そう思って前を見るとそこには腹部からダラダラと血を流すナルザルク


「ナルザルク!!!」

駆けよろうとした所でナルザルクの口が動く

『来んな、レイ』


そう言った様に感じたナルザルクの顔は私を見た後ゆっくりとサルティナへと向かった。そしてふいに微笑んだ後、がくりと膝から崩れ落ちた。

「ナルザルク!」

サルティナが叫ぶと虚ろな目をしたナルザルクの身体を踏み付けながら進んでくる人物。
背が高くがっしりとした体型の追っ手はとても私達だけでは太刀打ちできそうにもない。横目で確認するとラクナザスもパールも別の追っ手に応戦している。


ーー自分で何とか切り抜けるしかない


目の前には明らかにこちらよりも戦力のある敵。武器を持っているのはサルティナだけ。私も念の為に部屋を出る前短剣を持たされたが普段から武器を持ち慣れていない私は短剣を持った所で戦力はゼロだ。


サルティナが私を庇うように男と私の間に立ってくれた。すると男から私は死角になった。


ーーなにか、なにか……


ふと下を見ると学園とは違ってあまり整備されていない路。これでどうにかできるとは思わないけれど、できる事は何でもやってみようと思い私は道の砂を素早く掴んだ


「レイチェル、余り長くは持たないと思うけど時間を稼ぐから逃げて」


男を睨みつけながら話すサルティナに向かって無言の男がハルバードの様な物がついた槍を振り下ろす

「っく!!!」

1つの槍を両手で持ち、必死に力を流そうとしたサルティナだが重すぎる攻撃を受け流せず態勢を崩した。

「サルティナ!」

再び男がサルティナに斧を振り下ろす。


ーー怖い!怖い!怖い!怖い!


泣きそうになりながら男とサルティナの前へ躍り出る


「だめ!レイチェル!!」

背中でサルティナの声を聞きながら私は力一杯手に持った砂を男に投げつけた


「ぐ!」


砂を投げられるとは思わなかったのか男の目には私が投げつけた砂がしっかりと入った様だ。急いでサルティナの方へ駆け寄る


「サルティナ、今の内に……」


言葉が終わらない内に私の真横をハルバードの様な物が突き刺す。驚いて後ろを振り返ると砂が入って開かない目を片手で抑え、手探りで私達を殺そうとしている男が見えた

「!」

ーーあんなもの振り回されたら絶対に当たる!!


慌てて立ち上がりサルティナと逃げようとした所で男の目が開いた。先程まで真顔だった男の目には確かに怒りの色が見えた。
大股で男がこちらへ向かってくる。


ーー来た……!


せめて短剣を持っておこうとした所で突然男の頭が胴体から離れた。

「え……」

首から激しく血を吹く男の向こう側から顔を表したのは血塗れのパールだった


「パール!」

「遅くなってごめんなさい。2人とも無事?」

素手に見えるパールが素早く手を払う。すると白っぽい地面にピッと血の筋がついた。


ーー余り見ないようにしよう


パールと合流した後にラクナザスもこちらへ来たが、すぐにパールが10人くらいの追手がこちらへ向かっていると言った。

「レイチェル!こっちに!」

パールが私の手を引き向かおうとした先は森。でもまだ全員じゃない


「待って!まだナルザルクが!」

「死んだよ」

私の背を軽く押しながらラクナザスが言う

「あいつは死んだんだ」

真剣な顔をして話すラクナザス

「走って、レイチェル。今捕まっては意味がないんだ」

私の背中を押す力が少し強くなる

「行きましょうレイチェル」

サルティナが前を歩き出した。その肩が震えているのを見て唇を噛み締める。

「わ……かった」

涙で前が潤むが、今は泣いている場合ではない。必死に森へと向かって走る。


ーーごめん、ごめんなさいナルザルク。ごめんなさい



面倒見のいい近所のお兄さんの様だったナルザルク。

サルティナの事が好きで、普段はヘラヘラしているのに好きな子の前では真っ赤になりながらオドオドしていたナルザルク。

私のお菓子を楽しみにして待っていてくれたナルザルク。



「っ!」


嗚咽が漏れそうになるのを走って誤魔化す。きっとこの謝罪はナルザルクには届かない。

そしてナルザルクがそっと胸に秘めていたサルティナへの想いも届かない。



ーー絶対に逃げ切らなきゃ……


誰も一言も発する事なく、私達は始まりの森へと走った。


























「お前ら……絶対に死ぬなよ………」



一筋の涙を流しながら呟いたナルザルクの言葉も、私達の元へ届く事はなかった。


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