異世界めぐりの白と黒

小望月 白

文字の大きさ
51 / 149
第一の世界

大好きな笑顔

しおりを挟む
※残酷な描写があります。苦手な方はご遠慮ください。







コトン、カサカサ




サルティナとパールが内緒話を終え、歩き出してから時折小さな音が後ろから聞こえる。


しかしパールは「小動物が住み着いている様ね。追っ手ではないから気にしなくていいわよ」と言うので気にしない事にした。
何より信用できるパールの言葉だ。パールが後ろを守ってくれているのだからきっと大丈夫なのだろう。



ゴトン!



階段を降り続けていると、先程とは比べ物にならないくらいの大きな音が聞こえ、思わず振り返る。すると少し離れた所でパールが壁にもたれながら蹲っていた。

「パール!」


慌ててパールへと駆け寄り、その姿を見てすぐに言葉が出なかった。


「パー………ル?」


彼女は皮膚の至る所が剥がれ落ち、顔は半分程ズルズルに溶けていた。そして数歩後ろには恐らくパールの物と思われる左足が落ちている。両手は既に失われて居て、今四肢の中で残っているのは右足だけだ。


「ごめんねレイチェル。私これ以上もう進めないみたいなの」



パールの言葉がすり抜ける


ーーえ?どう言う事?やっぱりあの時の溶解剤は効いていたって事?


きっと、先程からしていた物音はパールの身体が少しずつ剥がれ、壊れて落ちて行く音だったのだろう。そしてギリギリまで私と共に進んでくれていた。なのに私は気が付かなかった。


「パール、戻って。ほら、真珠達は袋に入れるくらいの大きさに戻れるでしょう?ち、小さくなって。わたし………運ぶから」


気付かぬ内に流れていた涙と嗚咽のせいで上手く話せない。必死にポケットから昔、ラクナザスがパールを運ぶのに使っていた袋を取り出し、差し出す。
するとパールは静かに首を振る


「ごめんねレイチェル。無理なの」


「なん……で………?」


「私は真珠の『理』を曲げ過ぎた存在。もう他の真珠達の様に小さくはなれないのよ」


諦めた様に笑うパール。しかし私は絶対に諦められない。


「わかった。パール、私が運ぶから」


パールへと近づき彼女を抱えようと手を伸ばす


「?!」


その時、パールが目を見開き後ろを激しく振り向くが特に何も無い。しかし小さく舌打ちをしたパールは強い口調で私とサルティナへと話す

「追っ手の気配がするわ。早く逃げて。サルティナ、レイチェルを頼むわ。お願い、絶対に守って」

それを聞いて頷くサルティナ。


「嫌よパール!絶対に嫌!私あなたを運べるわ!サルティナもどうしてそんなに驚かないの?ねえ、私絶対に諦めないから!」


「レイチェル」

私の言葉に被せるかの様に静かにパールが私の名を呼ぶ


「ねえ、レイチェル。私あなたが大好きよ。何よりも、誰よりも大切なの。
私はいずれにしても壊れて無くなる運命。それなら、私はただ壊れるよりも大好きなあなたを守って消えたいわ。
私の想いを無駄にしない為にも絶対に生きて」


そうしてパールは私のおでこに自分のおでこを軽くぶつけて言う



「楽しかった。家族として扱ってくれてありがとう。大好きよ、私の愛しいレイチェル」


「パール……」


「ああでももし最期にお願いを1つ聞いてくれるなら、貴方の笑顔が見たいわレイチェル」


とめどなく流れる涙をぐっと目をつぶって閉じ込める。そしてぎこちなく笑顔を作る



「ありがとう。さあ、行って」




ーー本当に、もう無理なの?まだこうやって話しているのに?




私が動けないでいると後ろからサルティナの声がかかる



「レイチェル」



振り返るとサルティナも辛そうな顔をしていた。



「………わかった。さよなら、パール。私も大好き」

パールは私の言葉に笑顔で静かに頷いた。それを確認して私は前を向き、サルティナと共に走り出した。


ーーパール………!!



パールと別れるまでは頑張って涙を止めていた。しかしもう無理だ。どんどんと溢れてくる涙と嗚咽を止めようともせずに走る。

「っ!」


隣を見ると、サルティナも声を殺して泣いていた。



























ーーレイチェルが私を大好きだと言ってくれた。もうそれだけで私は十分だ。



レイチェルとサルティナの走り去る後ろ姿を眺めながらそう思った。




ーー嘘。
本当はずっと側に居たかった。誰より、自分よりも大切なレイチェル。彼女の側に居られるのならもう他に何もいらなかった。




あっという間に見えなくなってしまった背中を引き止めたくて仕方がなかった。もっとずっと一緒に居たかった。
レイチェルの色んな表情を見て居たかった



ーーでも、もう無理ね。




共に生きる。その願いが叶わぬのなら、せめて少しでもあの子の行く道の手助けを。







ヒタヒタヒタヒタ






忌々しい足音が私の隣で止まる。そしてヒタヒタと気味の悪い足音とは別の足音も。


「おい貴様。レイチェルをどこへやった」


ーーああ、最期に見るのがこいつの顔だなんて反吐が出そうだけれど、お前を道連れにできるのならそれも悪くはないわね………


























ドオオォオオオオオン





サルティナと走っていると、後ろから聞いた事も無いような爆音が聞こえてきた。


「なに?!」


2人で同時に振り返ったが、すぐに凄まじい爆風が私たちを襲う


「うっ!!!」



ーー熱い!


爆風は一瞬で私達の身体を吹き飛ばし、背中に激しい衝撃を受けた


「がはっ!」


肺の中の空気が全て押し出されたかの様な感覚。痛みで上手く息が吸えず、意識が朦朧としてくる。


ーーだめ!


必死に意識を繋ぎとめ起き上がり、辺りを見渡す。隣には大きな鉄格子があった。どうやら爆風でここまで飛ばされ、この鉄格子に叩きつけられたらしい。


ーーサルティナは?!


「うっ!げほっ!」


ゼイゼイと苦しそうな声が聞こえてそちらを見ると、サルティナが苦しそうに壁に手をついて立ち上がる所だった。


「サルティナ……無事だったのね!」

「ええ、レイチェルも無事でよかったわ」

「鉄格子を開けるから少し待って」

そう言ってサルティナはポケットから古そうな鍵を取り出し鉄格子の鍵を開け始めた。聞けば先程の話し合いの時、死期を悟ったパールから託されたのだと言う。
恐らく先程の爆音と爆風はパールの自爆だろう。


ーーパール………


先程の爆風の熱と、パールへの思いでむせ返る。鉄格子を通り、再び鍵を掛けたサルティナは一瞬こちらを見て辛そうな顔をしたがすぐに「行きましょう」と行って走り出す。


身体が重く、思う通りに足が動いてくれないがナルザルク、ラクナザス、パールの命を無駄にはしたくない。その一心で私は必死に走った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

処理中です...