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第二の世界
号泣
しおりを挟む「んー」
「レイチェル様どうされました?」
唸っているとカーヌが声を掛けてきた
「んー。さっきの男の子?男の人?あれ?どっちだろ。見た目は子供なんだけど中身は大人っぽい雰囲気だったからやっぱり小人族の方かしら?どこかで見た気がするけどどうだったかしらと思って。」
するとカーヌは「ああ」と微笑みながら説明してくれた。
「先程の方はヴォルフ様のお目付役であるシナール様の御令息のオルトス様ですよ。立派に成人されておいでです」
ーーおお、成る程面影が………
そこまで考えてふと「ん?」となる。
ーーあれ?オルトス様って確かオルお勧めの悪友じゃなかったっけ?向こうから見た私の第一印象きっと最悪だけど大丈夫かしら
正直私からのオルトスの第一印象はそんなに悪くない。入るなと言われただけだし、そういう風に言ったのにもきっと理由があるのだろうから特に気にはならない。
しかし問題は向こうからの印象だ。
ーーオルには悪いけどオルトスと仲良くなるのは難しいかもしれないわね
しかしこう考えるとオルにオルトス。名前被りも甚だしいがいいのだろうか。2人が並んだ時にうっかり間違えてしまいそうだ。
ーーまあ今の段階ではオルトス様、私に名前呼ばれるのも嫌かもしれないけど
ダラダラとくだらない事を考えているとまたトントンと肩を叩かれた。
「レイチェル様。またお気持ちだけがどこかへ飛んでいってしまわれていますよ。戻ってきてください。最高です」
ぐっと親指を立てている侍女の最後の言葉は無視だ。
しかしアリネス、いくら小声で言ったからと言っても護衛騎士達の前で変態を晒していいのだろうか。
すると私の表情を読んだかの様にルルがクスクスと笑い出す
「アリネスは本当にレイチェル様の事が大好きなのですね。私達が護衛騎士になるにあたってアリネスから『レイチェル様の護衛騎士たるかどうか』を散々調べられましたから、アリネスとは少し前から面識があったのです。しかし先日のワカウィーが鳥や花を好きだと判明した日の夜に少々話をしまして。その時にアリネスも可愛いもの、その中でも群を抜いてレイチェル様が好きだと聞きました。」
ーーえぇー。まさかのぶっちゃけちゃった感じか。
別にアリネスが良いなら良いが、せめて『可愛いものが好き』くらいで留めておかなくても良かったのだろうか。
これでは本当にただの変態だ。
「その話は女の子たちだけで?」
「いえ……我々も参加させて頂きました………」
どこか遠い目をしたナファリが答える。きっと熱く熱く語ったのだろう。可哀想に。変態の餌食となった護衛騎士達には何かお詫びに美味しいお菓子でも差し入れしよう。
ーー用意するの、その変態だけど。
とりあえず適当に歩いていたがそろそろお腹も空いてきたので部屋に向かう事にした。
ーー明日は図書館で少し花の本でも見て勉強してからまた庭をみたいわね
せっかくこんなにも沢山花が咲いているのだ。どうせなら花に関する知識を入れてからの方が楽しいと思うので明日は図書館からの庭めぐりだ。
ーーワカウィー喜んでくれるかしら
ふと後ろを振り返ると1番後ろを歩いていたがカーヌが後方を見ている
「どうしたのカーヌ」
するとカーヌはすぐに私の方を見て
「何でもございません」
と微笑むと
「参りましょうか」
と歩きだした。
ーーなんか珍しい花でも咲いてたのかな?
「それではレイチェル様。我々はここで。いつでも控えておりますので何かあれば遠慮なく声をお掛け下さい」
部屋の前でカーヌ達と別れる
「ええ。今日もありがとう。また明日」
部屋に入ってすぐに夕食の支度がされた。
ーー至れり尽くせりね。このままじゃ私その内豚になるわ
今の私にできる事を探そうと思うが何せ自分が何をできるのか、どう言った知識ならあるのかがわからない。
ーーまあそれを確かめる為に図書館を使わせて貰ってるんだけど……
とにかく考えていてもわからないものはわからない。なので今はさっさとご飯を食べて後でアリネスに相談しよう。
ーーアリネスに頼りっぱなしね
そのアリネスはと言うとサランが謹慎に入ったのをきっかけに私の部屋続きに自室を貰い毎日ほくほくしている。
本当にそれでいいのかと聞けば「この部屋を得られた事は、私の人生でも大きな意味を持つのです」とかなんとか訳のわからない事を言い出したのでもう構わない事にした。
「レイチェル様。お食事の用意ができました」
「ありがとうアリネス。それから食事の時に少し相談したい事があるんだけど、いいかしら」
「私でよろしければなんなりと」
今日のメインは鴨肉のローストをメインにした物だった。香ばしい香りが食欲を唆る。一気にお腹が空いてきたのでとりあえず2人ともある程度食事を進めた所で先程考えた事を相談してみた。
「今のレイチェル様にできる事……ですか」
「ええ。図書館でこの世界の事を学ぶのは続けるつもりだけど、今ってお茶会が終われば特に何もないでしょう?精々お庭巡りをするだけだし。そんな事してても誰の役にも立たないから」
「そんな事はないと思いますがね」
「どう言う事?」
「……いえ。それよりもレイチェル様にできる事でしたよね。それでしたら『舞』を覚えられるのは如何でしょうか」
「舞?」
「ええ。この世界では扇子や剣を使った伝統的な舞があるのです。龍神様に感謝・忠誠を伝え、これから先の世界に安寧を願う舞なのです」
「……どうしてそれが人の役に立つの?」
「まず1つですが、レイチェル様の見目は素晴らしい物です。少しでも多くの人々の目に映してこそ価値があると思うのです。それこそ、庭巡りをするレイチェル様のお姿をコソコソと盗み見る使用人達だけでは勿体ないのです」
「……ん?」
「ですので、舞を覚えて披露される事は王族の方々への恩を売るのにも丁度良いかと」
ーーしれっと流したな
庭からの帰りカーヌが周りを気にしていたのはそれかと納得しながら、アリネスの提案を考える。
「そして2つ目ですが、舞を会得される事はレイチェル様自身の価値を高める事へと繋がります」
アリネスが言うには、現在私の『次期王妃筆頭』から引き摺り下ろそうとしている輩がいる事は確かで、そんな中『王族の客人』という肩書き以外何も持たない私は実に無防備らしい。
人々の前に出るのは確かに危険が付き纏うが、舞を披露し民衆や貴族達に顔を売っておけばそれだけで味方も増えるらしい。
そんなに上手くいくかと私が聞くとすまし顔の侍女は「レイチェル様なのですから当然です」と言っていた。
ーー私に夢を見過ぎな気がするんだけど
しかしアリネスからの言葉や思いは嫌ではない。当然変態だとは思っているが過度に私だけに期待するのではなく、結果を出す為に一緒に頑張ってくれようとしているのが何となく伝わってくる上に、純粋に私を思ってくれている。
「アリネスが私の侍女になってくれて本当によかったわ」
思わず思った事を口にしてしまったが、感謝の言葉は伝えてこそ意味があると思うのでそのまま「ありがとう」とアリネスに言えば、一瞬言葉を詰まらせた彼女は勢い良くぼたぼたと鼻血を出しながら
「勿体ないお言葉ですぅううう」
と言いながら泣き崩れた。
ーー………これが無ければ本当にただただ優秀な侍女なのに
目の前で泣き崩れる侍女の残念過ぎる姿を見ながら何故か漏れ出てくる笑いに、私もだいぶ侵されているなと思いながら彼女へハンカチを渡し、床を拭くものを探す。
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