異世界めぐりの白と黒

小望月 白

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第二の世界

御神体

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「ね、ワカウィー。好きな事があるって素敵な事よ」


目の前の#我が主人__レイチェル様__ #は知り合ったばかりの護衛騎士に優しく声を掛けていらっしゃる。
そしてレイチェル様のお言葉を聞いて顔を赤らめ俯くワカウィー女性




ーーまた1人、陥没。



何も考えていない様な顔をして、割と恥ずかしい事を直球で伝えてくるレイチェル様は存外人誑しに思える。
記憶が無いからか、それとも元々『そういった』先入観等が無いのか、レイチェル様は誰がどんな趣味嗜好を持っていようと特に何も思われない。
現に私もレイチェル様のお言葉と態度に救われた1人だ。


『可愛いものが好き』その言葉を中々言えず、言っても理解されないあの気持ちは当の本人しか知り得ない苦痛だ。
「趣味嗜好は自由だから」と私を認める言葉を言うのは簡単だ。しかし実際に私が好きな物を愛でているのを見れば皆顔を引攣らせ、拒絶した。
実の両親ですら私の事を気味悪がり近付こうとしなかった。


『他人から理解されない』。この辛さは私が他人へと心を閉ざし、ますます自分の趣味にのめり込むのには十分すぎる理由だった。先程目の前でレイチェル様に抱擁され固まっていた女性も、一見明るそうには見えるが人知れず『認められぬ辛さ』に打ちひしがれたのかもしれない。



ーーまあ、他人の事情なんて知りませんがね



レイチェル様という神主人に出会えた私にとって他人とは二種類。


レイチェル様のためになる者





ならないもの



だ。
そして厳選に厳選を重ねて勝手に私にできる範囲で護衛騎士の方々を篩に掛けさせて頂いた結果、今の6人が残った。



ーーしかしもう少し、レイチェル様の味方を増やしたい所ではありますね………



そう考えながら数日。色々と調べてはいるが現在の状況ではうかつに他人を懐に入れるのも危険だ。


ーーやはりここは様子見ですかね



カチャリとレイチェル様の部屋に入ると我が神レイチェル様はハーブティーを飲みながら

「見にいくのはいつぶりかしら?前に行ったのが散策の日だったから………」

とお一人で呟いておられる。きっと以前護衛騎士とご覧になったランカの花の事を言っておられるのだろう。


ーーああ!黙っていれば何かを憂いている様に儚げなお顔をされているのに、話している内容がまるで早く遊びに行きたいと思っている子供のよう!!
素敵ですレイチェル様!何をしても、何を言ってもあなたがした事ならば全て特別に見えます!!


しかしこちらが予想した以上にレイチェル様は護衛騎士の事をお気に召した様子。



ーー味方が増えるのは結構ですがなんだか少し嫉妬してしまいますね



御神体レイチェル様は皆で崇め奉るのがよいとは思いますが古参としては嬉しい反面寂しくもある。なので少しレイチェル様に意地悪をしてみたくなった。



「丁度一週間になりますね」



私がいると思わなかったのだろう。レイチェル様はこちらを振り返り驚いた様子を見せている。



「びっ……びっくりした。アリネス音もなく戻ってくるのは心臓に悪いわよ。もう終わったの?」


ーーああ。やはり崇め奉るだけでは見られないレイチェル様のお姿をもっと見てみたいですね





我慢ができなかった私は結果やりすぎた。





「あ、あ、あ、アリネスのバカあぁぁあ!!」




からかわれたと分かったレイチェル様は綺麗なお顔を真っ赤にしながら叫び、ベッドへと飛び込んで行った。




「レイチェル様……万歳……」




レイチェル様には申し訳ありませんが私は今回の事を微塵も後悔しておりません。止めどなく溢れる鼻からの流血を止めようともせず私は思った。




ーーやはり私の主人はレイチェル様しかいない………!!!




ぐっと拳を握りしめ、改めて私は実感する。



一通り血を流し終わったら後始末をし、私はお拗ねになられているレイチェル様を呼び戻しに向かう事にした。


ーー正直言って未だ先程の可愛らしいレイチェル様が頭に浮かんでいますが今は我慢です。本日の終業後自室へ戻ってからまた反芻させて頂きましょう



「もうアリネスなんて知らないー!」


子供のように駄々をこねられるレイチェル様に危うくまた撃沈しそうになりましたが何とか耐え、心の中で悶えつつもレイチェル様をベッドルームから出す事ができました。
一体レイチェル様はどれだけ私に血を流させるおつもりなのでしょう


そして緩む顔を抑えきれずレイチェル様に睨まれてしまう



ーーそんな表情も素敵でございます!!




しかしその後そんなレイチェル様が仰られてのは意外なお言葉だった。
『今の自分にも出来る事をしたい』と。




レイチェル様がお眠りになった後1人で考える。



ーー主が変化を求められるのならば、わたくしはそれに従うまで


なので私は先程舞を勧めた。勿論、私が教えられるというのも理由のかなり大きな理由でもある。私の下心とは別に私が教えればその間は外部の者を入れなくて済む。

そしてレイチェル様はそこまで深く考えてはいらっしゃらないかもしれないがこの国、世界で『舞』を踊れる事には大きな意味がある。
ただ舞の内容を覚えて身体を動かせば良いのではない。本当の舞い手というのは観る人々の心を掴み、洗い、浄める事ができるとされている。

レイチェル様の見目が優れているのは言うまでもないがあのお人柄や雰囲気をそのままに、緩急をつけた舞を踊ればきっとレイチェル様は『王族の客人』だけではなく『本物の舞い手』としても価値が付く。
そして価値と知名度が上がれば余計な事をしてくる輩も増えるが大きな勢力はこちらに手を出しにくくなるはず。



ーー特にあの教会の狂信者クソジジイ共



レイチェル様に手出しはさせない。その為には少しでも早くレイチェル様を立派な舞い手にしなければ。
そう。
本当ならこんな事をしている場合ではないのです。が。


「ふっ。我ながら完璧です」


手にはスモーキーピンクのドレス。庭散策がお好きな我が崇高なる御神体の為に動き易さを重視した簡易なドレス。しかしレイチェル様の魅力を損なう事がない様装飾はちゃんと付けてある。


ーーサイズもぴったりなはず



「動き易そうだから侍女服が着たい」などと突飛なことを言い出す主人が、自分の作った服を着てくれた所を想像して幸せな気分になる。


「さて。そろそろ寝ますか」


明日も早い。しかし全く苦ではない。
既に今の内からでもレイチェル様のお側に参りたい気分だ。


「私の人生に、再び光をお与えくださったレイチェル様に感謝を」


隣室で眠っているであろうレイチェル様の方向を向き祈りを捧げ、ベッドへと潜り込む。



「ああ、早く明日になればいいのに」


そんな事を思いながら私は目を閉じた。



「夢の中でもレイチェル様にお仕えできます様に」


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