異世界めぐりの白と黒

小望月 白

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第二の世界

滴る

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オルトスから祈りの花ランカの成分の話を聞いたり、ヴォルフオルから『再び私達の婚約の話が出てきている』事などを聞いた日から1週間程経った。
どんどんと崇敬祭の日は近づいて来ている。




今日の分の舞の稽古も終わり、図書館へと向かおうと廊下を歩いている時だった。





パシャっ




「ん?」




突然の水音と共に髪や頭皮を伝い、顔や肩までポタポタと何かが伝ってくる



「レイチェル様!!」



アリネスが慌てて駆け寄りタオルで水気を拭き取ってくれる。と同時にワカウィーが何の水分なのかを調べるために香りを確かめたり、何か紙の様な物に染み込ませたりしていた。



「大丈夫よ」



心配する護衛騎士達を安心させる様に笑いかけるが、少し離れた所からクスクスと楽しそうな笑い声がする


ーーあれ?なんだろう……この感じ覚えがある気がする………



結構な水量があったのか、ビショビショになっている私の頭部。そして髪から落ちる雫でジワジワと染み込んで気持ちの悪い服とクスクスと笑う声。



ーーあ、なんかふらふらしてきた




今倒れたら向こうの思い通りになる。どんな事をされたってひどい事をしてくる奴らの前では気丈に振る舞いたい



ーーあ、だめだ………



手足からどんどんと力が抜けて行き、私は立っていられなくなった




「レイチェル様!!!」



ウォレンが大きくない身体で咄嗟に私を支える。そしてすぐに後ろからルルが「失礼します」と行って私を軽々と抱きかかえる



ーー大丈夫だから……そんな心配しないで………



しかし話したいのに声がでない。なんだか目を開けているのも辛くなってきた。相変わらず耳障りなクスクスと笑う声は耳元で囁かれているかの様にはっきりと聞こえる



ーー悔しい




だんどんと薄れて行く意識の中で私が見た景色はここではない世界だった。


全員が同じ服。そして白い……私は真っ黒や、濃いこげ茶に囲まれていた。同じ様な部屋がいくつも並ぶ大きい様で小さい建物。そこで毎日行われる暇つぶし。
物を隠され、壊され、陰口暴言を吐かれても泣かなければ、小さい個室が並ぶ場所に連れていかれて水を掛けられた。

ポタポタと滴る雫と楽しそうなクスクス笑う声。


私が何をしたというのか、このくだらない行動の何が楽しいのか。
そしてどうして私はこいつらを一気に黙らせる事ができないのか。



悔しい




そう思いながらも、せめてこいつらの前でだけは泣くものかと気丈に振る舞った。






ーーああ、これは私の記憶だ





世界がスローモーションで進んでいるかの様に、私の側で「レイチェル様」と呼ぶ声がゆっくりと聞こえる。






そして私は思い出した。
私が生まれ、育ったのは




日本




という国だという事を。

























「っく、ひっく」




誰かの泣く声がする。
真っ暗な中目を凝らすと何が白いものが丸まっている。近付いてみればそれは昔の「私」だった。



確かこれはまだ外見が人と違うからという下らない理由でイジメを受けていた頃だ。
両親には決して悟られまいと必死に明るく振る舞い、夜寝る前1人ベッドの中で声を押し殺したあの日々だ。



ーー大丈夫よ。何年もすれば虐めてきた人達とは別の道を行って、私の中身をちゃんと見てくれる友達ができるわ



小さく小さく身体を丸めてすすり泣く少女の頭を優しく撫でる



暫くすると泣き疲れて少女は眠ってしまった。




ーーさて、状況を整理しよう




今、私は夢の中だろう。そして昔の記憶を思い出している。
そして夢を見る前は『サーラント』という国にいて、そして『レイチェル』という名で呼ばれていた。


ーーおかしい。私の名前は『谷本凛花』のはず



しかし『レイチェル』という名に違和感はない。ここでそう呼ばれ続けていたからだろうか



そしてどうしてこの国にいるのか。
私の日本での最後の記憶を思い出す。そう、確か私の誕生日だ。
誕生日パーティーを我が家でして、親しい友人を呼んで楽しく過ごした。最後にドレスを見たくて………


それで自分の部屋へ行った。それで頭が痛くなってそれから……それから?ここに来たの?そうだっけ?
でももうこれ以上思い出せそうにない。



それに分からないのは、私の外見が大きく変わっている事だ。

髪も目もこんな色をしていなかったし『レイチェル』が散歩に行く時、日光対策の重装備をしていなくても肌は爛れたりせず何ともなかったし、目も少し見えにくい程度だった。



ーーまさか別人の身体なのかな?



薄暗い中自分の身体を見下ろす。しかし他のパーツは日本でも見慣れた私の物だ。



ーーやっぱりわからない




泣き疲れて寝ている少女のベッドへ腰掛ける



「そうそう。この髪ね。懐かしい。綺麗じゃない。パパとママから貰った大事な身体よ。恥じる場所なんて1つだって無かったわ」


だから余計に悔しかった。
この大切な身体を異分子だと貶す人達や、それに対してなす術もない自分の無力さが。



ーーやめよう、昔の事を考え始めるとキリがない




「ふう」






深呼吸をして、寝息を立てる少女のベッドへと潜り込む


「お邪魔しまーす」



ずっとグルグル考えていても仕方ないし、とりあえず一旦頭をリセットしよう。そして何も無いこの場所で手っ取り早くリセットするには寝る。それが一番。
という事で夢の中で更に寝るという、意味があるのかないのかよくわからない結果になった。



「みんな、心配してるだろうな」




掛けられた水分が何なのかはわからないが、多分そんなに害のあるものではない気がする。多分だが、最近のありもしない噂や躓かせたりクスクスと笑ったりといった虐めに加え、あの水分を掛けられたシチュエーションがきっかけになって日本の事を思い出した気がするし。


にしても無茶苦茶だ。
これだけやってて証拠が掴めないなんて、日本の記憶が戻ったから余計に信じられない。



「早く目、覚めるといいな……」



微睡む感覚に期待を寄せ、私は眠る直前の浮遊感へと身を任せた。


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