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第三の世界
目
しおりを挟む「あーーー………よく寝た」
昨日は王に聞いた話がぐるぐるしてあまり眠れないかなと思っていたのに全然そんな事なかった。普通に爆睡した。なんなら寝る前も違う事を考えていた気がする。
ーー覚えてないけど、忘れる位だからきっとたわいない事ね
今日もリンと日課の素材集めだ。
ーーよし、今日も1日頑張りますか!
ぐっと伸びをして、服を着替えた。
昨日とは少し離れた場所で素材集めをした。素材を集めながらリンに聞いた話によると今の王に妻は居ないらしい。元々この世界が大好きで、守りたくて、その為に必要な勉強を沢山したり将来描けなくなるからと暇を見つけては絵を描いたりしていた。そしてそんな事をしていて、恋をする間も無く樹化し、今に至るらしい。
何というか、まだ2回しか会ったことがない人だがあの人らしいなと思ってしまえるくらいにはあの王の人柄を見た気がする。
「まーあの王様は比較的早くに樹化が完了したらしいんだよな」
「そうなの?」
「んー」
しかし樹化が完了してからも、数人王を慕っていた女性が居たらしい。しかし王は誰も娶らなかった。
「特に聞いた訳じゃないんだけどさ」
「うん」
「俺が思うに王様わざと誰も娶ってないんじゃないかなって。」
「どういう事?」
ーーこの草硬いな
「王様の性格考えたら『自分は自分の姿に誇りを持っている。しかしもし妻を娶ればその者に私の姿に関して寂しい思いをさせてしまうかもしれない。ならば始めから妻は娶らずにいよう。世継ぎはいずれ、母なる樹が連れて来てくれるのだから』とか思ってそう。あ、レイチェルその草これで刈って」
「うわ、ありそう…」
鎌のような物を受け取りながら思わず洩らす。あり得る。あの王ならあり得る。
「ていうかリン、本当王様と仲良いんだね…さっきの凄く言ってそう」
「だろ?俺ら親友だから!」
ーー王と親友だと言い張るリンのメンタルの強さ…!
「ああ、そういえば王様レイチェルに初めて会った時わくわくして心の準備に手間取って待たせてしまったって気にしてたぞ」
「あ、うんそれ聞いた」
「そうか。」
「うん」
「…可愛いよな、王様」
「うん、私もそれ凄く思ってた」
2人して「王様可愛い」と連呼しながら素材の草を刈り取った。心なしか少し綺麗な素材が集まった気がする。
「そういえば王様、レイチェルが初めて挨拶した時びっくりしたって言ってたぞ。これも聞いたか?」
「ううん、なにそれ」
「何かな、めちゃくちゃ丁寧に挨拶されてびっくりしたらしい」
「…そんな丁寧にしたっけ?」
「んーまあ俺みたいなので慣れてるから」
「お、おおぅ…」
「今日も王宮行くのか?」
「今日はやめとく。ちょっと流石に連続は迷惑だろうし」
「なんで?神殿は毎日押しかけてたのに?」
「押しかけっ…!」
ーーまあ、確かに押しかけていたけども!言い方!
「なんていうかほら、神殿と王宮だと気楽に尋ねて許される感が違うっていうかさ…え、何その顔」
「いやわからん。どっちも一緒だろ。どっちも毎日行っても大丈夫だ」
「えー王宮は王宮だし、迷惑かなって」
「ふぅん。わからん。でも王様は来てもらうの毎日楽しみに待ってると思うぞ」
ーーあ、それ想像できるわ…
「そ…うね。でもとりあえず今日はやめとく」
「あ、なら母なる樹でも見に行くか?」
「あ!行ってみたい!」
「よし、じゃあサクッと素材集めて行くか!」
「おー!」
母なる樹は素材を集めている場所とは反対方向の林を抜けた先らしいので昼食を家で済ませてから出発した。林の中はとても綺麗だった。自然そのままで人の手が加えられていないのがよくわかる。動物もちらほら見かけ、鳥達の歌声が心地よい。
ーーどこかに似てると思えば海の世界の泉だわ…
おとぎ話で出てきそうな環境は、懐かしい友人達を思い出させる
ーーみんな…
「ほら、林抜けるぞ」
リンの声とほぼ同時に林が終わり、一本の巨大な樹が見えた。マングローブの様なタコ足状に伸びた気根も一本一本が太く立派で堂々としていた。葉も青々と生い茂り新緑がまぶしい。
「これが…母なる樹…」
「ああ。雰囲気あるだろ」
「ええすごく。」
リンはふふん、と自慢気だった。
「そうだレイチェル、願い事していけば?」
「願い事?」
「うん。母なる樹はみんなの心の拠り所なんだよ。だから願い事や、決意表明なんかを聞いてもらうんだ。あ、声には出さなくていいぞ。もしかしたら母なる樹を通じて龍神様に聞いて頂けるかもしれないな」
ーーそれはちょっと嫌かも
正直今龍神様方への印象がなんとも言えない微妙な感じなので聞かれるのは少し困る。
ーーでも決意表明か。
「触っても大丈夫?」
「うん。大丈夫だぞ。小さい頃はよく登って遊んだくらいだ」
「それはどうなの」
思わず少し笑ってしまった。母なる樹の気根の1つにそっと触れると思ったよりも表面の皮が柔らかかった。
ーー私は、日本へ帰る。ママとパパ、それに友達にも会いたい
でも。
その前に絵の世界にかかったままの私の能力をどうにかして解かないといけない。それに、海の世界で死んでしまったみんなの弔いもしたい。私の自己満足だが、きちんとお別れをしたい。
ーーその為にあの『絵の世界の絵画』の本物を見つけ出す。それから、能力について何か手掛かりはないかを探そう
樹から手を離し、リンと「戻ろうか」と行って一歩歩き出す。すると服の後ろを何かに引っ張られた。
「?」
振り向くと樹に服が引っかかっていた。
ーー 一瞬誰かに引っ張られたのかと思ってドキッとしたわ
気付いたリンが「あー待て待て」と言いながら外してくれている。
「気持ちのいい場所ね」
上を見上げれば眩しい新緑。は、見えなかった。
「!」
ーー声が、出ない…!
リンの「だろー?遊びたくなるだろー?いやー流石に枝を折った時はめちゃくちゃ怒られたなー」という呑気な声がどこか遠くに聞こえる。私は顔を上に上げたまま身動きも取れず、声を上げることもできずにただ見ていた。上を向いた私の顔の僅か数センチ上に浮かぶ、爬虫類の様なギラギラとした金色の目を。
ーーどう………しよう
目を逸らしたいのにその一対の瞳は私をジッと見つめている。
しかし突然目が合わなくなり、キョロキョロと目を動かし出した。
ーーあれ、私の事見えてない…?
やがて諦めたのか一瞬だけすぅっと目を細め、金色の瞳は消えた。それと同時に私の身体に自由が戻ってくる。
「…っはぁ!はぁ!」
真上を向いていたのと、緊張が解けたのとで一気に肺に空気が入ってくる
「おい、レイチェルどうした…?服、取れたぞ」
「…見た?」
「え?」
「いや、さっきの金色の目!黒目が物凄く細くて白目の部分が金の!蛇みたいな目の!」
しかしリンは驚いた様に首を振る
「おいレイチェル、いきなりどうしたんだ?大丈夫か…?」
ーー見えて、ない…?
家についてもまだ頭から離れないあのギラギラした目を必死に思い出さない様、一心不乱に素材の仕分けを頑張った。
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