異世界めぐりの白と黒

小望月 白

文字の大きさ
144 / 149
第三の世界

しおりを挟む


「あーーー………よく寝た」

昨日は王に聞いた話がぐるぐるしてあまり眠れないかなと思っていたのに全然そんな事なかった。普通に爆睡した。なんなら寝る前も違う事を考えていた気がする。


ーー覚えてないけど、忘れる位だからきっとたわいない事ね

今日もリンと日課の素材集めだ。


ーーよし、今日も1日頑張りますか!


ぐっと伸びをして、服を着替えた。
















昨日とは少し離れた場所で素材集めをした。素材を集めながらリンに聞いた話によると今の王に妻は居ないらしい。元々この世界が大好きで、守りたくて、その為に必要な勉強を沢山したり将来描けなくなるからと暇を見つけては絵を描いたりしていた。そしてそんな事をしていて、恋をする間も無く樹化ジュカし、今に至るらしい。

何というか、まだ2回しか会ったことがない人だがあの人らしいなと思ってしまえるくらいにはあの王の人柄を見た気がする。

「まーあの王様は比較的早くに樹化が完了したらしいんだよな」

「そうなの?」

「んー」

しかし樹化が完了してからも、数人王を慕っていた女性が居たらしい。しかし王は誰も娶らなかった。

「特に聞いた訳じゃないんだけどさ」

「うん」

「俺が思うに王様わざと誰も娶ってないんじゃないかなって。」

「どういう事?」

ーーこの草硬いな


「王様の性格考えたら『自分は自分の姿に誇りを持っている。しかしもし妻を娶ればその者に私の姿に関して寂しい思いをさせてしまうかもしれない。ならば始めから妻は娶らずにいよう。世継ぎはいずれ、母なる樹が連れて来てくれるのだから』とか思ってそう。あ、レイチェルその草これで刈って」

「うわ、ありそう…」

鎌のような物を受け取りながら思わず洩らす。あり得る。あの王ならあり得る。

「ていうかリン、本当王様と仲良いんだね…さっきの凄く言ってそう」

「だろ?俺ら親友だから!」


ーー王と親友だと言い張るリンのメンタルの強さ…!


「ああ、そういえば王様レイチェルに初めて会った時わくわくして心の準備に手間取って待たせてしまったって気にしてたぞ」


「あ、うんそれ聞いた」

「そうか。」

「うん」

「…可愛いよな、王様」

「うん、私もそれ凄く思ってた」


2人して「王様可愛い」と連呼しながら素材の草を刈り取った。心なしか少し綺麗な素材が集まった気がする。

「そういえば王様、レイチェルが初めて挨拶した時びっくりしたって言ってたぞ。これも聞いたか?」

「ううん、なにそれ」

「何かな、めちゃくちゃ丁寧に挨拶されてびっくりしたらしい」

「…そんな丁寧にしたっけ?」

「んーまあ俺みたいなので慣れてるから」

「お、おおぅ…」

「今日も王宮行くのか?」

「今日はやめとく。ちょっと流石に連続は迷惑だろうし」

「なんで?神殿は毎日押しかけてたのに?」

「押しかけっ…!」

ーーまあ、確かに押しかけていたけども!言い方!

「なんていうかほら、神殿と王宮だと気楽に尋ねて許される感が違うっていうかさ…え、何その顔」

「いやわからん。どっちも一緒だろ。どっちも毎日行っても大丈夫だ」

「えー王宮は王宮だし、迷惑かなって」

「ふぅん。わからん。でも王様は来てもらうの毎日楽しみに待ってると思うぞ」

ーーあ、それ想像できるわ…

「そ…うね。でもとりあえず今日はやめとく」

「あ、なら母なる樹でも見に行くか?」

「あ!行ってみたい!」

「よし、じゃあサクッと素材集めて行くか!」

「おー!」












母なる樹は素材を集めている場所とは反対方向の林を抜けた先らしいので昼食を家で済ませてから出発した。林の中はとても綺麗だった。自然そのままで人の手が加えられていないのがよくわかる。動物もちらほら見かけ、鳥達の歌声が心地よい。

ーーどこかに似てると思えば海の世界の泉だわ…

おとぎ話で出てきそうな環境は、懐かしい友人達を思い出させる

ーーみんな…

「ほら、林抜けるぞ」

リンの声とほぼ同時に林が終わり、一本の巨大な樹が見えた。マングローブの様なタコ足状に伸びた気根も一本一本が太く立派で堂々としていた。葉も青々と生い茂り新緑がまぶしい。

「これが…母なる樹…」

「ああ。雰囲気あるだろ」

「ええすごく。」

リンはふふん、と自慢気だった。

「そうだレイチェル、願い事していけば?」

「願い事?」

「うん。母なる樹はみんなの心の拠り所なんだよ。だから願い事や、決意表明なんかを聞いてもらうんだ。あ、声には出さなくていいぞ。もしかしたら母なる樹を通じて龍神様に聞いて頂けるかもしれないな」


ーーそれはちょっと嫌かも


正直今龍神様方への印象がなんとも言えない微妙な感じなので聞かれるのは少し困る。

ーーでも決意表明か。

「触っても大丈夫?」

「うん。大丈夫だぞ。小さい頃はよく登って遊んだくらいだ」

「それはどうなの」

思わず少し笑ってしまった。母なる樹の気根の1つにそっと触れると思ったよりも表面の皮が柔らかかった。

ーー私は、日本へ帰る。ママとパパ、それに友達にも会いたい


でも。
その前に絵の世界にかかったままの私の能力をどうにかして解かないといけない。それに、海の世界で死んでしまったみんなの弔いもしたい。私の自己満足だが、きちんとお別れをしたい。

ーーその為にあの『絵の世界の絵画』の本物を見つけ出す。それから、能力について何か手掛かりはないかを探そう

樹から手を離し、リンと「戻ろうか」と行って一歩歩き出す。すると服の後ろを何かに引っ張られた。

「?」

振り向くと樹に服が引っかかっていた。


ーー 一瞬誰かに引っ張られたのかと思ってドキッとしたわ


気付いたリンが「あー待て待て」と言いながら外してくれている。

「気持ちのいい場所ね」

上を見上げれば眩しい新緑。は、見えなかった。

「!」

ーー声が、出ない…!


リンの「だろー?遊びたくなるだろー?いやー流石に枝を折った時はめちゃくちゃ怒られたなー」という呑気な声がどこか遠くに聞こえる。私は顔を上に上げたまま身動きも取れず、声を上げることもできずにただ見ていた。上を向いた私の顔の僅か数センチ上に浮かぶ、爬虫類の様なギラギラとした金色の目を。

ーーどう………しよう

目を逸らしたいのにその一対の瞳は私をジッと見つめている。
しかし突然目が合わなくなり、キョロキョロと目を動かし出した。

ーーあれ、私の事見えてない…?

やがて諦めたのか一瞬だけすぅっと目を細め、金色の瞳は消えた。それと同時に私の身体に自由が戻ってくる。

「…っはぁ!はぁ!」

真上を向いていたのと、緊張が解けたのとで一気に肺に空気が入ってくる

「おい、レイチェルどうした…?服、取れたぞ」

「…見た?」

「え?」

「いや、さっきの金色の目!黒目が物凄く細くて白目の部分が金の!蛇みたいな目の!」

しかしリンは驚いた様に首を振る

「おいレイチェル、いきなりどうしたんだ?大丈夫か…?」

ーー見えて、ない…?


家についてもまだ頭から離れないあのギラギラした目を必死に思い出さない様、一心不乱に素材の仕分けを頑張った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

処理中です...