喫茶店フォレスタ

楠 盾：愛したなら尽つくし通せと言い聞かせこの身散るまでお仕えします

盾と朝の支度

「おはようございます」
　部屋着に着き替がえた盾じゅんがリビングに入ると、妻の初はつ恵えがパーカーを着て準備体操をしていた。
「おはよう。今朝の当番は盾じゅんだったよな」
「ええ。ランニングなさって結構ですよ」
「うん、ありがとう。行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
　喫きつ茶さ店てんで出す軽食やコーヒーの試食を兼かねて、昨日中に買ってきていた食材を冷蔵庫から出し始めた。スープにする野菜、食パン、スクランブルエッグ……と、京子が喜びそうなので買っておいたソーセージ。今回の試食は野菜のポタージュとブレンドコーヒー。
「コーヒーといえば、創そうさんに試飲して頂いてもよいですね。今度、朝方にお呼びしましょう」
　親友の長男、森宮創そうも常連客の一人。彼かれは苦味がある方を好むので、口直しのクッキーも今までのものから合いそうなものを選んでおきたい。今朝に限ってはレギュラーとアメリカン、カフェオレと好みがあるので、それぞれ違ちがう出し方もしなければ。
　フライパンに油を引きながら、今日の天気をラジオで確かく認にんする。朝から晴天、夕方から雲がかかるが雨は降るか降らないか。ディナータイムの客向けに傘かさ立たてをすぐ出せるように準備しなければ。
「おはよー……」
「美み月つきさん、おはようございます」
　小さくあくびをしながら、美み月つきがリビングに入ってきた。部屋着に着き替がえているところを見ると、一いつ旦たん自分の作品を見直していたようだ。「何かする？」と聞いてきた美み月つきに傘かさ立たてのことを伝えると、「ハンガーラックも見てくる」と応じてくれた。
　静かな朝は初はつ恵えが戻もどってきてからも続き、賑にぎやかになってくるのは京子と陽よう介すけが起きてきてから。子供達たちが三者三様の感想を述べ、今日やりたいことを話す。こういう時間はいつになっても飽あきないですね、と盾じゅんは微ほほ笑えみながらコーヒーを口にした。