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氷室の水禍
38 オープニング
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§ 氷のオープニング §
その未亡人のエルフは、氷のダンジョンの床に頬をこすりつけていた。
「これがダンジョンなのですのね……! あ゛ぁ~すりすり」
シルヴィア=ミンタエディナ。御年532歳……ぴちぴちである。夫がいなくなってからというものの、シルヴィアは人生に意味を見出せずにいた。
そんなシルヴィアが床に這いつくばる姿を見ているのは、彼女に長年仕えてきたメイドにして未婚のエルフ――スーシー=スロウス。ピチピチである。
「奥様……!」
エルフメイドのスーシーは、「……では、私も――」とシルヴィアの近くで這いつくばった。
「「あ゛ぁ~すりすり」」
この奇妙な光景を遠くから見守る者がいた。
彼の名はモルジャック。小さな老人のような姿をした精霊である。自慢の白くて長いあご髭をいじりながら、モルジャックは思った。
(何をしておるのだろう……)
しばらく眺めていると、突然シルヴィアの動きが止まる。
「地面に顔が張りついて動けませんわ!」
ここは氷のダンジョン。凍結には注意が必要だった。
「奥様! 私もです!」スーシーもまた、動きが止まる。
二人は見つめ合いながら、微笑んだ。そしてゆっくりと時間をかけ、凍ってゆく。
モルジャックはあご髭をいじる手を止めて、思った。
(何をしておるのだろう……)
それはもう、誰にも分からない。
§ 冒険者ギルド §
ギルドにたむろしている冒険者たちの声というものは、得てして大きく、ありがたいことに耳を澄まさずとも聞こえてくる。
「にしてもよぉ、最近変なやつ増えたよなー」
「ああ、妖怪マンドレイク男とか?」
「翼人なのにダンジョン探索始めた奴とかな」
「目立つよなー」
妖怪に翼人……なるほど、確かに変わっている。そんなに目立つのであれば、そのうち出会うこともあるかもしれない。
「どこにでも変わった人はいるな、テナ」
「そうだね! ルウィン!」
テナは滑雪板を胸に抱え、左右で色の異なる目をきらきらさせていた。寒冷地仕様の装備をばっちり整え、誰がどう見ても氷のダンジョンに行くのが伝わる格好だ。
てっきり、『ルウィンが言うの……?』という目をされると思ったが……今は平常ダンジョンに行くのが楽しみで仕方がないらしい。まあ確かに、前回は火のダンジョンで死ぬ思いをしたからな。
ギルドの受付の前に立つと、受付嬢のニーナが哀れっぽい目で俺たちを見てくる。
「こんにちは、ルウィン君。その、先日は大変でしたね」
先日というのは、火のダンジョンに潜った日のことだろう。
「そうですね。三、四回ほど死ぬかと思いました」
「それで、噂で耳にしたんですけど……」
「はい」
「キャルラインちゃんに気に入られたそうですね」
その未亡人のエルフは、氷のダンジョンの床に頬をこすりつけていた。
「これがダンジョンなのですのね……! あ゛ぁ~すりすり」
シルヴィア=ミンタエディナ。御年532歳……ぴちぴちである。夫がいなくなってからというものの、シルヴィアは人生に意味を見出せずにいた。
そんなシルヴィアが床に這いつくばる姿を見ているのは、彼女に長年仕えてきたメイドにして未婚のエルフ――スーシー=スロウス。ピチピチである。
「奥様……!」
エルフメイドのスーシーは、「……では、私も――」とシルヴィアの近くで這いつくばった。
「「あ゛ぁ~すりすり」」
この奇妙な光景を遠くから見守る者がいた。
彼の名はモルジャック。小さな老人のような姿をした精霊である。自慢の白くて長いあご髭をいじりながら、モルジャックは思った。
(何をしておるのだろう……)
しばらく眺めていると、突然シルヴィアの動きが止まる。
「地面に顔が張りついて動けませんわ!」
ここは氷のダンジョン。凍結には注意が必要だった。
「奥様! 私もです!」スーシーもまた、動きが止まる。
二人は見つめ合いながら、微笑んだ。そしてゆっくりと時間をかけ、凍ってゆく。
モルジャックはあご髭をいじる手を止めて、思った。
(何をしておるのだろう……)
それはもう、誰にも分からない。
§ 冒険者ギルド §
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「にしてもよぉ、最近変なやつ増えたよなー」
「ああ、妖怪マンドレイク男とか?」
「翼人なのにダンジョン探索始めた奴とかな」
「目立つよなー」
妖怪に翼人……なるほど、確かに変わっている。そんなに目立つのであれば、そのうち出会うこともあるかもしれない。
「どこにでも変わった人はいるな、テナ」
「そうだね! ルウィン!」
テナは滑雪板を胸に抱え、左右で色の異なる目をきらきらさせていた。寒冷地仕様の装備をばっちり整え、誰がどう見ても氷のダンジョンに行くのが伝わる格好だ。
てっきり、『ルウィンが言うの……?』という目をされると思ったが……今は平常ダンジョンに行くのが楽しみで仕方がないらしい。まあ確かに、前回は火のダンジョンで死ぬ思いをしたからな。
ギルドの受付の前に立つと、受付嬢のニーナが哀れっぽい目で俺たちを見てくる。
「こんにちは、ルウィン君。その、先日は大変でしたね」
先日というのは、火のダンジョンに潜った日のことだろう。
「そうですね。三、四回ほど死ぬかと思いました」
「それで、噂で耳にしたんですけど……」
「はい」
「キャルラインちゃんに気に入られたそうですね」
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