最弱ダンジョン商人、ドラゴンスレイヤーになる

杉戸 雪人

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マンドレイクの春

89 決戦前の回想①

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草のダンジョンに入る前、俺はある考えを冒険者たちに共有していた。

「少し長くなりますが、俺の話を聞いてもらえますか――」

そんな言葉から、俺は始めた。

「――このままだと、俺たちは全員死にます。おそらく、龍の姿を見ることもなく、第1領域で終わるでしょう。龍からの襲撃を受けるはずです」

この時、龍討伐に参加しない冒険者たちの笑い声が冒険者ギルドを埋め尽くした。

「草のダンジョンの第1領域っつったら『深緑回廊』だろう? そんな狭い場所に龍が出てくるわけねえじゃねえか!」

などと、もっともな説明をしてくれたのだが、ミリアがぎろりと他の冒険者たちを睨んだ。

「うっさい!! 命かける気のない奴は黙ってなさい!! それとも命をかけてあたしの仲間を馬鹿にしたのかしら……!?」
「ひぃッ!!」

ミリアの銀の瞳に睨まれて、まるで龍に睨まれたかのようにその男は椅子から転げ落ちてしまった。お気の毒……。

「あっはっは! ミリアが怒ったせいで空気が重くなった!」
「重たい話してんのよ! ……さ、ルウィン。あたしが聞き手になるから、続きをどうぞ」

どうぞと言われてしまった。ミリアの気遣い……特に、仲間と言ってくれたことはとても嬉しかったが、若干話しづらい。
咳払いして気を取り直す。

「事の発端は深緑回廊にマンドレイクが生えていたことでした。ご存じの方は多くはないと思いますが、俺には魔よけの加護があるので、安全にマンドレイクを抜くことができるんです」
「そうでしょうね」ミリアがうなずく。

「俺とテナは、長縄をマンドレイクに結びつけて引き抜いたのですが、そこに運悪くアルメリゼさんが現れ、マンドレイクの悲鳴を浴びてしまいます」
「ですです!」アルメリゼが翼をはためかせた。

「深緑回廊の中間付近、急いで駆けつけた俺たちの目には、マンドレイクの悲鳴を浴びたアルメリゼさんが植物系の魔物の蔓に上から絡みつかれている光景が映りました。すぐに俺とテナは剣で魔物の蔓からアルメリゼさんを解放します」

「それは変ね」ミリアが腕を組んで目線をくれる。「あんたの魔よけの加護があれば、魔物は切られる前に逃げ出すんじゃないかしら」
「そうですね。俺の魔よけの加護は基本的に龍種以外には効くはずでした。でも、今回は効かなかった。第1領域に龍が現れるはずもないので、魔よけの加護が効かない特別な魔物だったのかとも考えていました」
「けど、違うのね」
「はい。そう思ったのは、恋茄龍れんかりゅう――マンドラゴラスの一連の動きに理由があります。マンドラゴラスと最初に遭遇したのは、第2領域の黄金庭園でした――」

俺はそこまで言って、受付嬢に振り向く。

「――ニーナさん、草のダンジョンの第2領域に龍種が出現した記録はありますか?」
「ありません。当然、第1領域にも龍種が出現した記録は残っていません」
「では、第1領域にてマンドレイクが発見された記録は残っていますか」
「ありません。第2領域までであればごくまれに発見されますが、基本的には第3領域以降にしか生えない植物ですので」

ニーナは俺の話を聞きながらギルドの他職員と連携して記録を漁ってくれていたらしく、実にスムーズに解答してくれた。

「ありがとうございます。俺たちの言葉を信じてもらえるのであれば、今日が第1領域でマンドレイクが発見された初めての日ということになります」
「信じるわ」ミリアがまばたきする。「続けて」

「はい。これらのことから、マンドレイクの生息域とマンドラゴラスの生息域に関連性がある……と言いたいのですが、これだけでは龍種が第1領域に出現する理由にはなりませんよね」
「そうね。第1領域の深緑回廊はその名の通り、領域でありながら道のように非常に長い領域……領域ではあるけど、一般的な領域に比べると非常に狭いわ。狭い場所に龍は現れない」
「はい。狭い領域に龍は現れない……これが常識です。ですが、ここで思い出していただきたいのが、俺がギルドに報告した内容です」

俺はほとんどそのままの内容を復唱した。

『該当の龍種は全身が無数の植物の蔓でできており、その蔓を伸ばして攻撃してきます! 形状は龍種らしく、手足と翼がありました!
 特異な点としては、マンドレイクの繁殖を促し、その悲鳴を利用して人を襲うことが推察されます! また、使い捨てたマンドレイクで人を誘い出す知恵もある可能性が高いです!
 そして、龍の腹の中で行方不明となった多くの冒険者が生きている可能性があります!!』

ひと通り言い終わった後、俺は再び話を戻す。

「重要なのは、『該当の龍種は全身が無数の植物の蔓でできており、その蔓を伸ばして攻撃してくる』という点にあります。つまり、蔓を伸ばせば第1領域にも攻撃が可能ということです」

ここまで言うと、周囲がざわつき始める。

「もしそんなことが可能だとしたら、草のダンジョンになんか行けやしねえじゃねえか……」
「ありえねえって……」

見知ったエルフたちもひそひそしだす。

「スーシー、つまりどういうこと?」
「すみません、奥様……! 私はアルメリゼ様が蔓に絡みつかれてあられもない姿になるのを想像するのに、それはもう忙しくて……!」
「あらやだぁ///」

シルヴィアとスーシーは平常通りだった。お気楽でうらやましいなと思っていると、アルメリゼが二人に「変態ッ!」と文句を言い始める。なぜか自分の胸にも刺さる気がしたが、気のせい気のせい。

「はッ……!」

ふと隣に立っているテナが俺をじとりと見上げている……そういう気配があったので、俺は気がつかない振りをした。

一方で、『変態』と聞いて興奮し始めたオーガスが、「呼んだかい……?」とふらふらアルメリゼたちに近寄る。

「変態はお呼びじゃないのですッ!」とすぐに追い返されたのを見て、ネリスが大いに笑っていた。

と、ウォロクが「のぉ、ルウィンよ」と話しかけてくる。

「お前さん、あられもない姿になった娘について、『植物系の魔物の蔓に上から・・・絡みつかれている光景』を目にしたと言っておったが、その魔物というのが龍だと言いたいんじゃろ? であれば、龍は深緑回廊の地面ではなく、壁伝いに蔓を伸ばしてきたということかの?」

さすがウォロク。話の細かい部分までよく聞いている。

「その可能性もあります……が、龍はおそらく抜け道を使ったんです」
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