その人造勇者は【獣】を司る~人造勇者とその聖剣~

羊洋祥

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第01章 認証登録(キス)から始まる運命的邂逅(ボーイ・ミーツ・ガール)

01-02「人造勇者、初陣」③

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「魔族とやらも大したことないな」

 彼らの怒りの火にさらに油を注ぐように少年は言う。

「小便臭いガキが! のぼせ上がりおって!!」

「同胞の仇、討たせてもらうぞ」

「八つ裂きにしても飽き足らん。貴様は四肢をもいで生きたまま合成獣キメラどものエサにするとしよう」

 魔族たちが口々に呪詛を吐く。

 しかし。

「御託はいい。来い」

 いきり立つ彼らを人造勇者はその一言で黙らせる。

「調子に乗ったガキにはお仕置きが必要なようだな」

 自分が一番手、と言わんばかりに狼の魔族が前に出る。

 その手には何も握られていない。徒手空拳である。

 それも至極当然の話で、身の程知らずの脆弱な人間を一匹血祭りにあげるのに得物など必要があろうはずもないからだ。

 実際、素手の魔族でさえ、人間が金銭で手に入れることのできる最上位の装備程度の攻撃力と防御力を有している。

 いかんともし難い種族間の戦闘力の乖離を鑑みれば、舐めているわけでも油断しているわけでもないのは明白だ。

「御託はいいと言っている」

「なら始めてやろう!」

 ダンッ!

 言い終える前に襲いかかる。

 汚くはない。

 ここは戦場だ。

 敵と味方がいる。

 それ以上何が必要だろうか。

 生意気極まりない人間の小僧の鼻をあかしてやる。

 そのつもりだった。

 しかし。

 度肝を抜かれたのは魔族たちの方だった。

 ほんの数秒前まで繋がっていた右腕が綺麗に切断されていたからだ。

「いつの間に……!」

 手傷を負った当人が訝しむ。

 切断面があまりにも鮮やか過ぎて痛覚が外傷に追いついていないのだ。

 だが、彼は焦らない。

 そんな必要はないからだ。

 腕を切断された程度、魔族にとっては掠り傷の内にも入らない。

 それは何故か。

 彼らは異常なまでの再生能力を有しているからだ。

 剣で斬られたような綺麗な切断面であればものの数分で元通りになる。

 その再生能力の源は膨大な量の魔力に他ならない。

 再生を阻止するためには魔力を封じねばならない。

 魔力を封じる技能を有している職種クラスはそう多くはない。

 抗魔の力を持った聖職者か、魔を封じる力を持った勇者などのごく一部の限られた職種クラスに絞られる。

 魔力を封じる効果を持つ武具もまた然りである。

 その魔を封じる力が聖剣には秘められている。

 その聖剣を扱うことを許されているのは勇者という存在だけだ。

 一向に始まる様子がない再生。

 その事実を目の当たりにしては自分たちが相対している敵が本物の勇者であると信じないわけにはいかなかった。

「貴様のその剣」

 神々しい光を放つ人造聖剣に目をやりながら口を開く。

「我々に対する特効を持っている。それを扱えるということは貴様は只者ではないな」

「それがどうした」

 まったく意に介さずにゼクシズは言う。

「つまり、貴様は確実にここで屠らねばならん存在だということだ」

 斬り落とされていない、もう片方の手でゼクシズを指差す。

「今更何を言い出すかと思えば」

 溜息交じりにゼクシズはあきれたような表情を浮かべる。

「元々そのつもりではないのか。少なくとも俺は」

 剣を構える動作を見せてゼクシズは続ける。

「貴様らを皆殺しにするつもりでここに立っている」

 挑発ではない。

 純然たる事実として人造勇者はそう告げる。

「人間にしては面白いことを言う」

 今までにない反応にその魔族は無意識に口角を上げる。

「冥土の土産に教えてやろう。我が名は……」

「必要ない」

「ほう、何故だ? 自分を殺す者の名くらいは知りたかろう」

「死ぬのは貴様の方だからだ」

「なに?」

「死にゆく者の名を覚えても意味がない」

「自惚れもここまで来れば大したものだ。魔族に歯向かったことをせいぜい後悔しながら死んでいくとよかろう」

 他愛もない会話の終わり。

 それは本格的な戦闘の始まりを意味していた。
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