勇者召喚に失敗したと捨てられましたが、魔王の家政婦になりました。

藤 ゆみ子

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第1話 勇者召喚

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 私がここ家事代行サービス『ライフステーション』で働き始めて五年。
 定年まで身を粉にして働くつもりだったのに――

「え?! 倒産ですか?!」
「ギリギリまで粘ったんだけど、どうしてもだめで。報告が遅くなってごめんなさいね」

 社長は頬に手を当て困ったわ、なんて言うけれど困っているのは私だ。

 今日でお店を閉めるなんて急すぎません?
 さっき依頼主の家から帰ってきたばかりなんですけど。

「次の依頼はどうなっているんですか?」
「今日秋野さんに行ってもらったお宅で最後だったのよ」

 そんな、最後だったなんて。もっと早く言ってくれたら良かったのに。

 たしかに、何年も懇意にしてくれていたお得意様たちはもう高齢で施設に入ったり、県外の娘さん夫婦と暮らすからと引っ越していったり、お客さんは減っていた。
 今は全国展開している大手の家事代行会社にお客さんが流れ、新規の契約はほとんどない状況だった。

「秋野さん優秀だし、評判も良かったからすぐに就職先見つかるわよ」
「だと、いいのですが……」

 高校を卒業してすぐにライフステーションに就職したので、学歴もない。
 新しい就職先なんてすぐに見つかるものなのだろうか。
 働くならまた、家事代行や家政婦業がいいな。
 というか、私にはそれしかできない。

 あがいても仕方がないので置いてあった荷物をまとめ、社長に挨拶をして事務所を出る。

 重い足取りで家へと帰り、ガラガラと玄関の引き戸を開ける。

「ただいまぁ」
 
 住宅街の隅にある小さな平屋。
 返事をしてくれる人はだれもいない。

 五年前まではおばあちゃんと二人で暮らしていた。
 幼い頃に両親を亡くした私を引き取り育ててくれた大好きなおばあちゃん。

 けれど五年前、私の就職が決まった後すぐ持病が悪化し亡くなった。
 これからいっぱい孝行するつもりでいたのに。

 私は仏壇の前に座り、おりんを鳴らす。

 そして目を閉じて手を合わせる。

 おばあちゃん、百合は今日仕事を失いました。

 おばあちゃんが教えてくれた料理、家事、いつの間にか好きになって、得意になった。
 
『百合のご飯は美味しいねぇ』
『百合の編んでくれたセーターとってもあったいよ』
『百合はいいお嫁さんになるよ』

 百合、と優しく呼ぶおばあちゃんの顔が頭に浮かぶ。
 私これからどうすればいいかな。

 どうすればいいかなって、就活しないとだよね……。
 手を合わせたまま項垂れていると、おりんの音が聞こえてくる。

 あれ? 私、今鳴らしてないよね?
 もしかしておばあちゃんが返事してくれてるのかな。

 なんて、そんなことあるわけ――

「え?!」

 目を開けると、見慣れない場所だった。
 教会の講壇のようなものがあり、そこには真っ白なローブに長い金色のマフラーをぶら下げたおじさんが立っている。

 だれ?! というかここはどこ?!
 私、おばあちゃんの仏壇の前にいたよね?!

 周りを見回すと、おじさんと同じような格好をした男性たちが私を取り囲んでいた。
 なになに怖いんだけど。

「なんだこの貧相な女は! 召喚に失敗したのか?!」

 おじさんは私を見ながら声を上げた。
 貧相って何? 失礼じゃない? それに失敗ってどういうこと?
 私はいったい何でここにいるの?

「ラカス神官長、勇者はこの女性で間違いないのでしょうか」

 この失礼なおじさん、ラカスっていうんだ。
 それに神官長? ここで一番偉い人ってことかな?

「あの、ここはいったいどこですか? 私、家に帰りたいんですけど」
「元の世界に返すことはできない」

 元の世界? ……ここは、異世界ってこと?
 そういえばさっき召喚って言っていたよね。
 私、異世界に召喚された?! なんで?!

「返せないってどういうことですか?」
「うるさい黙れ。無理なものは無理なんだ」

 ちょっとこのおじさんさっきから態度悪くない?

「ラカス神官長、魔力鑑定はどういたしましょう」
「そうだ、早く持ってこい。勇者なら何かしらの魔力を持っているだろう」
「承知しました」

 近くにいた男性が大きな水晶玉のような物をもってくると、私の目の前に置いた。

「魔力を込めろ」
「はい?!」

 魔力? そんなもの持ってないですけど。
 いや、異世界に来たとういうことは何か与えられてるとか?
 わからない。
 でも、すごく睨みつけられて怖いのでとりあえず手をかざしてみた。

 …………何も、起こらない。

「色が変わらないぞ!」
「魔力を持ってないということか」

 周りの神官たちもざわざわしている。
 やっぱり魔力なんてないじゃん!

「召喚に失敗したんだ! こんな貧相な女が魔王を倒す勇者なわけがない!」

 ラカス神官長とやらが声を荒げる。
 だから失敗とか貧相とか失礼だしわけわかんないよ。

「ラカス神官長、この女どうしましょう」
「召喚に失敗したことがアンドレア王子に知られるわけにはいかん。地下へ連れていけ」
「承知しました」

 あれよあれよという間に私は拘束され、地下牢へと連れていかれた。

 暗くて狭くて何もない冷たい牢屋。
 鉄格子越しに、ラカス神官長に訴える。

「ちょっと待ってください、私何かしましたか?! なんで牢屋なんかに入れられるんですか!」
「騒ぐな! 貴重な魔力を使って召喚したというのにこれでは私の沽券に関わる」

 いやいや意味わかんないですけど!
 勇者の召喚に失敗したって言ってたよね。
 そりゃ私が勇者なわけない。

「元の世界に返してくれたらいいじゃないですか」
「返すことはできないと言っただろう。私は召喚しかできんのだ!」

 何よそれ。
 だからってこんなところに入れなくていいじゃない。

「ラカス神官長、転移座標はどこにいたしましょう」

 若い神官が何か言っている。
 転移座標? なんの話をしてるんだろう。

「北の森にしろ。魔王もそろそろ封印から目覚めるころだ。魔物も大量に発生している。あそこへ行けば生きてはおれまい」

 魔王? 魔物? 生きておけない?
 私をそこへ連れていくの?
 それって、死ねってこと?!
 
「嫌です嫌です! いきなり異世界に連れてこられていきなり死ねなんてひどすぎです! 追い出すならせめて人里にしてください!」
「うるさい! お前たちさっさとしろ」

 神官たちは何かを唱え始めると、私の周りに魔法陣が浮かび上がった。
 するとあっという間に目の前が真っ暗になり、次の瞬間には森の中にいた。

「嘘でしょ……」

 辺りを見回すけれど、人の気配なんてない薄暗い森の奥深く。
 本当に私を死なせるもりでここに連れて来たんだ。
 私がなにをしたっていうのよ。
 あの神官たち、許せない。

 この森から出ることってできるのかな。とりあえず歩いてみる?
 立ち上がり、足を踏み出した。

 魔物がいるって言ってたけど、遭遇しませんように。
 と思った瞬間、ガサガサと音がして大きなライオンのような魔物が現れた。
 顔ふたつあるしデカすぎるし怖いし。

 私、完全に終わった。

 魔物は咆哮を上げ私に飛び掛かってくる。

「いやー! 来ないでー!」

 しりもちをつき、動けない。
 目前に迫った魔物に、目をギュッと閉じる。
 
 けれど、魔物が飛び掛かってくることはなく、ドサッという音がした。
 目を開けると、魔物が倒れている。

「え? なんで?」

 おそるおそる魔物の近くへ行くと、完全に息絶えていた。
 何が起こったんだろう。
 でも、助かった……。

「なぜ人間がここにいる」

 声がして振り返ると、腰までの長いボサボサの髪に、ボロボロの黒いマントを羽織った顔色の悪い男性が立っていた。かなり、背が高い。
 見るからに不審者のような男性は、じっと私を見ている。

 この人が魔物を倒したのかな。
 見た目はちょっと怖いけれど、助けてくれたみたいだし人がいるというだけでなんだか安心した。

「えっと……わかりません。突然ここに転移? させられて……」

 男性は私に近づいてくる。
 そしてグイッと顔を覗き込まれ、険しい表情を向けてくる。

「な、なんですか?」
「お前、密偵か?」
「密偵?! なんの?」
「俺のことを探りにきたんだろう」
「あなたがだれか知りませんし」
「俺は魔王だ」
「魔王?!」

 この、ボロボロでひ弱そうな人が魔王様だったなんて。
 全然そんなふうに見えなくて普通に会話してしまっていた。

「このままお前を帰すわけにはいかない」

 そんなこと言われても困るんですけど……。
 この世界に帰るところもないんですけどね。

 すると魔王様は私を担ぐように抱え、スタスタと歩き出した。

「え、ちょっと!」

 足をバタバタさせるけれど、魔王様は気にも留めず歩いて行く。
 ひ弱そうなのに全然身動きが取れない。

「あの、どこに連れて行くんですか」
「魔王城だ――」

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