勇者召喚に失敗したと捨てられましたが、魔王の家政婦になりました。

藤 ゆみ子

文字の大きさ
2 / 33

第2話 ここにいてもいいでしょうか

しおりを挟む
 魔王様に抱えられたままどんどん森の奥へと進んで行く。

 ああ。私どうなるんだろう。
 食べられる? 燃やされる? 魔物の餌にされちゃったりする?!

 抵抗することもできないまま連れていかれ、着いた場所は大きなお城だった。
 お城といっても所々レンガが崩れ、蔦が張り巡らされ、薄暗い、まるでお化け屋敷のような建物だ。
 
 これが、魔王城……。

 大きな扉を開け中に入ると、本当にここで暮らしているのか疑うほど汚れていた。
 土埃に瓦礫、外から伸びてきたであろう蔦、散乱したよくわからない置物たち。

「ここで、暮らしているんですか?」
「当たり前だ」

 ひえー。魔王様って、こういうの気にならないのかな。
 
 そのまま広間に連れていかれ、ベッドほどある大きなソファーにドカッと降ろされた。
 大きいけれど、生地はボロボロでほぼ木の板だ。
 痛い。

 魔王様は光沢の失った玉座のような大きな椅子に腰かける。
 
「で、お前はなぜこの森に入ってきたんだ」
「ですから、私は突然森に転移させられて。むしろ捨てられたというか、殺されかけてたというか……」
「噓をつくな。教会の回し者ではないのか」

 教会ってさっき私が召喚された場所のこと?
 あの神官たちの仲間ってこと?

「違います。私は訳も分からず、気付いたらこの世界にいたんです」
「異世界人だと? お前は勇者か」
「いやいや、私が勇者だったらあんな森に捨てられないでしょう! 召喚に失敗して連れてこられたただの一般人です!」
「嘘ならその喉元食いちぎってやる」

 魔王様は立ち上がり私に迫ってくる。
 顎に手をおき、まっすぐ私の目を見つめ、背けそうになった瞬間、離してくれた。

「どうやら本当のようだな」
「……ど、どういうことですか?」
「お前の目は嘘を付いている目ではない。純粋な目だ。それこそ、ただの人間とは思えないほどの」

 これって褒められてる……? よくわからないけれど、何とか信じてくれたみたいだ。

「あ、あのでしたらこのまま帰宅しても……」
「それはならん。勇者でも教会の者でもなくとも人間は俺の敵だからな」
「え、わ、私はどうなるんですか……!?」
「煮るか、焼くか、蒸すか」
「ひぃっ!? 私、そんなに肉付きはよくなくて!」
「冗談だ。人間を食べたことは一度もない。お前の処遇は後で考える」

 食べられたりはしないんだ。良かった。

 その時、魔王様のお腹から、ぐぅと鳴った。
 勘違いかなと思ったけれど、続けて二度目も。

「もしかして、お腹が空いてるんですか……?」
「なんだと?」
「え、いやなにも!?」
「その通りだ。今から飯を食う。そうだな、人間、お前にも分け与えてやろう。感謝しろ」

 魔王様はそう言うと広間を出て行った。
 そして大きな鍋を抱えて戻ってきた。

 本当に食事をするつもりなんだ。

 テーブルにお皿を並べ、お鍋から何かを注いでいく。

「お前も来い」

 促されるままテーブルにつき、魔王様と向かい合う。

「食べろ」
「はい……」

 魔王が食べるご飯って人間が食べても大丈夫なやつなのかな。
 
 お皿を覗くと、スープに野菜のようなものがゴロゴロと入っていて、見た目はポトフみたい。
 変なものではなさそう。

「いただきます」

 スプーンですくい、おそるおそる一口食べる。
 ちゃんと人が食べられる物ではあるな。

 でも……美味しくない。はっきり言って不味い。
 なんていうか、味がない。
 土臭い。それに野菜が固い。

 向かいを見ると魔王様とは黙々と食べている。

「あの、魔王様ってこういう味が好きなんですか?」
「好みなどはない。食べられたら良いのだ」

 そういう感じなんだ。
 ご飯を食べて、美味しいって思ったことないのかな。
 
「そもそも、魔王様もこういった食事をするんですね」
「食物や水にも微量ながら魔力が含まれているからな。できるだけ魔力を戻すために食べている」
「え、今って魔力がないんですか?」
「数日前に目覚めたばかりでまだ完全ではないのだ」

 目覚めたばかり?
 そういえば神官が、魔王もそろそろ封印から目覚めるころだ、なんて言っていた。
 だからこんなにボロボロでひ弱そうなのかな。
 というか魔力が戻ってないということは本当に弱い状態なんだろうな。

 だとすると、そんなに怖くない?
 いや、あの大きな魔物を倒していたし油断はできない。

 でも、黙々とスープを食べている姿になんだか気が緩んでしまった。

「あの、調味料とかってないんですか?」
「調味料とはなんだ」

 調味料を知らないってことは、味付けはしてないってことか。
 そりゃ、美味しくないわ。

「塩とかお砂糖とか、お醬油……はさすがにないか」
「岩塩ならある」

 塩があるんだ。それならこの不味いスープもなんとかなるかも。
 
「これ、少し手を加えてもいいですか?」
「手を加えるとはなんだ。毒でもいれるのか」
「そんなわけ! 味をつけるんですよ」
「味をつける? まあ、やってみるがいい」

 厨房へ案内してもらい、先ほどのスープが入っていたお鍋に火をかける。
 それから岩塩を細かく砕き少しずつ加えていく。

 次第に野菜も柔らかくなり、旨味がでている。

 でも、やっぱり物足りないな。

「お肉とかってないですよね? 骨、でもいいんですけど……」
「魔物の肉ならある」
「魔物?! って食べられるんですか? それって共食いになるんじゃ」
「魔力を持っているだけで他の動物と扱いは変わらない」

 なんか、思っていた魔物と違う。
 もっとこう、魔物を操って人間を襲って、とかするのかと思っていた。
 あ、でも森であっさり魔物を倒していたな。

 まあ、食べていいなら使わせてもらおう。

 魔王様はちょっと待っていろ、と言うと姿を消し、そして一瞬で戻ってきた。
 その手には何かの肉片が掴まれている。

「これが、魔物の肉ですか?」
「これはさっきお前を襲った魔物の肉だ」

 私を襲った魔物……。
 あんな猛獣を食べようとしているのか。
 なんか……いや、考えないようにしよう。

 魔王様から肉片を受け取り、もうひとつの鍋にかける。
 しばらく煮込むといい出汁がでてきた。
 それを先ほどのスープに入れ、また煮込む。

「いい匂いだな」

 待ち遠しそうに鍋を覗き込む魔王様は、なんだか子どもみたい。

「もうすぐ出来上がりますので少しお待ちくださいね」

 出来上がったお鍋をワゴンに乗せて広間に戻り、スープをよそう。
 そして、そっとお皿を差し出した。

「お口に合うかはわかりませんが……」

 私の心配をよそに、魔王様はすぐに食べ始める。

「美味い……これが、さっきのスープなのか」
「少し手を加えるだけで随分と変わるんですよ」

 さっきよりも格段に美味しくなっているし、味覚が似ているようで安心した。
 あっという間に平らげてしまい、けっこう食欲があるんだなと思った。

 すると魔王様がじっと空になったお皿を見つめている。

「……おかわりはないのか」
「まだお鍋に残ってますけど」

 無言でお皿を差し出してくる。注げってことだよね?
 私はお皿にスープを入れるとまた黙々と食べ始めた。
 そしてあっという間に全部を平らげてしまった。
 食欲旺盛なんだな。

「美味かった……」

 しみじみと言われ、なんだか嬉しくて、むずがゆい。
 やっぱりご飯は美味しくないとね。

「お前の料理には、魔力が満ち溢れている」
「魔力ですか? それって、魔物の肉が入っているからですかね?」
「魔物は死んだら魔力を失うから他の食物とあまり変わらない」

 魔物を食べれば魔力がすぐに戻りそうだと思ったけど、そう簡単にはいかないということか。
 でも私の料理が魔力に満ち溢れてるってどういうことなんだろう。
 何か違うのかな。

「お前の料理は本当に美味い。それに温かい……」
「気に入っていただけたようで良かったです」

 私の料理を美味しいと言って平らげてしまった魔王様は、なんだか人間味があって可愛らしい。
 嬉しくて、自然と笑みが浮かんでいた。

 すると魔王様はじっと私を見つめてくる。

「お前は何者なんだ。どうしてこの世界にきた」
「私にもわからないんです。目を開けたら突然教会にいて、神官たちに森に捨てられて。本当に大変だったんです」
「そうか、その言葉信じよう」
「ありがとうございます! だったら私帰ってもいいですか?」
「ここを出ていくなら好きにすればいい」
「良かった……じゃあ――」
「だが、この森には魔物がうようよいる。生きて出られるかは保証しないぞ。生きて出られたとしてお前をここに捨てた神官たちが放っておくとも思えんがな」

 た、たしかに……。
 あの時魔王様が来なければ今ごろ私は魔物にやられていた。
 神官たちなんて勝手に召喚しておいて死ねだなんて最低過ぎだし。
 
 私、帰るところなんてないじゃん。

「あの……やっぱり、私ここにいてもいいでしょうか」
「フッ、好きにすればいい。その代わり、明日からも飯を作ってもらうぞ」

 魔王様は意地悪気に微笑んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

『ゴミ掃除』が役立たずと追放されたが、実は『存在抹消』級のチートだった。勇者一行がゴミで溺れているが、俺は辺境で美少女と温泉宿を経営中なので

eringi
ファンタジー
「悪いが、お前のスキル『ゴミ掃除』は魔王討伐の役には立たない。クビだ」 勇者パーティの雑用係だったアレクは、戦闘の役に立たないという理由で、ダンジョンの最深部手前で追放されてしまう。 しかし、勇者たちは気づいていなかった。 彼らの装備が常に新品同様だったのも、野営地が快適だったのも、襲い来る高レベルモンスターの死体が跡形もなく消えていたのも、すべてアレクが『掃除』していたからだということに。 アレクのスキルは単なる掃除ではない。対象を空間ごと削り取る『存在抹消』レベルの規格外チートだったのだ。 一人になったアレクは、気ままに生こうと辺境の廃村にたどり着く。 そこでボロボロになっていた伝説のフェンリル(美少女化)を『洗浄』して懐かれたり、呪われたエルフの姫君を『シミ抜き』して救ったりしているうちに、いつの間にかそこは世界最高峰の温泉宿になっていて……? 一方、アレクを失った勇者パーティは、武器は錆びつき、悪臭にまみれ、雑魚モンスターの処理すら追いつかず破滅の一途をたどっていた。 「今さら戻ってきてくれと言われても、俺はお客さん(美少女)の背中を流すのに忙しいんで」 これは、掃除屋の少年が無自覚に最強の座に君臨し、幸せなスローライフを送る物語。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

転生?憑依?したおっさんの俺は【この子】を幸せにしたい

くらげ
ファンタジー
鷹中 結糸(たかなか ゆいと) は、四十目前の独り身の普通という名のブラック会社に務めるサラリーマンだった。だが、目が覚めたら細く小さい少年に転生?憑依?していた。しかも【この子】は、どうやら家族からも、国からも、嫌われているようで……!? 「誰も【この子】を幸せにしないなら俺が幸せにしてもいいよな?」

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

役立たず聖女見習い、追放されたので森でマイホームとスローライフします ~召喚できるのは非生物だけ?いいえ、全部最強でした~

しおしお
ファンタジー
聖女見習いとして教会に仕えていた少女は、 「役立たず」と嘲笑され、ある日突然、追放された。 理由は単純。 彼女が召喚できるのは――タンスやぬいぐるみなどの非生物だけだったから。 森へ放り出され、夜を前に途方に暮れる中、 彼女は必死に召喚を行う。 呼び出されたのは、一体の熊のぬいぐるみ。 だがその瞬間、彼女のスキルは覚醒する。 【付喪神】――非生物に魂を宿らせる能力。 喋らないが最強の熊、 空を飛び無限引き出し爆撃を行うタンス、 敬語で語る伝説級聖剣、 そして四本足で歩き、すべてを自動化する“マイホーム”。 彼女自身は戦わない。 努力もしない。 頑張らない。 ただ「止まる場所が欲しかった」だけなのに、 気づけば魔物の軍勢は消え、 王城と大聖堂は跡形もなく吹き飛び、 ――しかし人々は、なぜか生きていた。 英雄になることを拒み、 責任を背負うこともせず、 彼女は再び森へ帰る。 自動調理、自動防衛、完璧な保存環境。 便利すぎる家と、喋らない仲間たちに囲まれた、 頑張らないスローライフが、今日も続いていく。 これは、 「世界を救ってしまったのに、何もしない」 追放聖女の物語。 -

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...