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第28話 アネシスしか考えられない
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『クラージュ、お前には結婚してもらう』
昨日、父に言われた言葉が何度も頭の中で繰り返される。
今日はアネシスがずっと準備を頑張ってきたお茶会の日だった。
帰ってくるアネシスに労いの言葉をかけたかったのに、珍しく家に帰ってくるように言われたかと思えばそんな話をされるなんて。
何故だ? どうして急にロジーナとの結婚が決まったんだ。
俺にはアネシスという婚約者がいる。
それをわかった上で、結婚は決定事項だと告げられた。
何度もロジーナと結婚するつもりはないと言っても、父はそれ以上俺の話を聞くことはなかった。
元々、無理を言って取り付けた婚約ではある。
父に頭を下げ、誓約書にサインをもらった。
身分差を咎められはしたが、彼女のことを愛していると言うと、険しい顔をしながらも頷いてくれたのに。
翌日俺は非番だったが王宮に向かった。ロジーナとの結婚を取り下げてもらうために。
ロジーナの父であり、俺の伯父である国王陛下のところへと向かう。
「陛下! どうして急にロジーナとの結婚が決まったのですか?!」
「クラージュ、いつも冷静なお前が珍しいじゃないか」
陛下は自室でワインを飲みながらくつろいでいた。
特に驚いた様子もなく俺を見て微笑んでいる。
「はぐらかさないでください」
「そんなつもりはないさ。王家とヴェルディ家の婚姻は珍しいことじゃない。お前だって、家の繁栄を望んでいるだろう」
もちろん、時期ヴェルディ公爵家当主としての自覚はあるつもりだ。
けれど、それは愛する者と築いていく家を守りたいと思うからのではないのか。
愛する者一人幸せにできなくて家を守っていくことなどできるものか。
俺にはアネシスしか考えられない。
「陛下も俺に婚約者がいることを知っているではありませんか」
「あの男爵家の令嬢だろう? そんなに彼女をそばにおきたいなら妾にでもすればいい」
「なんてことを!」
アネシスを妾にだと?! 冗談じゃない。
俺は彼女以外と結婚するつもりはない。彼女以外を妻に迎えるなんて考えてもいない。
やっと距離も縮まり、彼女にとって俺が特別な存在になれているような気がしていたのに。
「妾がいることなど珍しい話ではない。それにマドリーノ男爵も喜んでいたそうだよ」
「それはいったいどういうことですか?!」
アネシスの父がお金のための結婚をさせようとしていたのはわかっている。
そんな人が俺との結婚がなくなりそうになって喜ぶはずがない。
「結婚がなくなっても十分な援助をすると言ったら両手を広げて喜んでたと、お前の父が言っていたよ」
父がもうそんなところまで手を回していたなんて。
昨日話した時は何も言っていなかったのに。
これではアネシスとの婚約は破棄してロジーナと結婚するか、ロジーナを正妻にしてアネシスを妾として迎えるかしか選択肢がないじゃないか。
「とにかく、俺はロジーナと結婚するつもりはありません」
「それはお前が決めることではないよ」
余裕な笑みを浮かべる国王陛下を尻目に部屋を出た。
いくら血の繋がりがあるとはいえ、今まで国王陛下にこんな態度をとったことはなかったが、言われるがまま結婚するつもりはない。
どうにかしなければ。アネシスの耳に入る前に。
彼女が、この話を聞いたらどう思うのだろうか。
「クラージュお兄様っ! いらしてたのですね」
長い廊下を気色ばみながら歩いているとロジーナが現れた。
ちゃんと顔を合わせるのは久しぶりだ。
それよりも――
「ロジーナ、結婚の話は聞いているのか?」
「もちろんですわ。だって、私からお父様にお願いしたんですもの」
「お願いした? どうしてだ!?」
「そんなの、クラージュお兄様が好きだからに決まってるじゃない」
ロジーナが、俺を好き? そんなそぶり感じたこともなかった。
いまさらなぜだ。それに国王は実利主義な人だ。いくら娘にお願いされたからと言って結婚を決めるようなことはしないはずだが。
「悪いがロジーナと結婚はできない」
「私がお願いしたけど決めたのはお父様よ。王家とヴェルディ家の婚姻はこの国にとっても重要なことでしょ?」
確かに俺たちが結婚することは家柄的にあり得ることだ。けれど、俺はアネシスでないとだめなんだ。
まだ、本当の婚約者ではないけれどこんな形で別れるなんてできない。
俺はまだ彼女に自分の気持ちを伝えてすらいないのに。
「俺には心に決めた人がいるんだ」
「あの男爵家の令嬢のこと? 彼女ならすぐにいなくなるわよ」
「それはどういうことだ」
「そのうちわかるわ。クラージュお兄様にとってもいいことがあるから楽しみにしていてね」
ロジーナは不敵な笑みを浮かべるとそのまま去っていく。
その笑いに異様な不気味さを感じた。
俺にとっていいことなんてアネシスと結婚する以外ない。
この話、どうにかしなければ。
頭を悩ませながら宿舎へと戻った。
灯りの消えた食堂を通り過ぎた時、薄暗い寒空の下に見慣れた姿が目に入った。
「アネシスっ」
すぐに駆け寄りその冷えた体を抱きしめる。
「こんな時間までどうしたんだ。もう暗いしこんなに冷えてるじゃないか」
「クラージュ様と、お話したくて待っていたのです」
アネシスは少し不安そうな、悲しそうな表情をしている。
俺は彼女の手を握り、食堂へ入った。
かじかんだ指先に申し訳なさが込み上げる。
どうしてこんな時間まで待っていたのかと思ったが、ロジーナとの結婚の話を知っているようだった。
アネシスの耳に入る前になんとかしようと思っていたのに。
知っているなら、誤魔化すわけにはいかない。
そう思い、本当のことを告げたがアネシスの表情はどんどん険しくなる。
まるで、何か良くないことを考えているときのような――。
「そうだったのですね。でしたら、私はもう――」
「結婚はしないっ!」
「え……」
とっさに彼女の言葉を遮った。
その後に続く言葉が安易に想像できたから。
きっと彼女は自分はもう必要ない、そう言うつもりだったのだろう。
そんな言葉、言わせてはいけない。
「俺は、アネシスとずっと一緒にいたいと言っただろう」
「それは、どういう……」
何かを言いかけてやめたアネシスは俺の顔をじっと見る。
彼女は今、何を思っているのだろう。
聞きたいけれど、聞けない。
こんな状況になったのは俺のせいでもある。
この結婚のことを解決してから、ちゃんと話をしなければ。
「時間はかかるかもしれないが、この話は絶対に取り消す。だから、勝手なお願いかもしれないが、アネシスはこのままでいてくれないだろうか」
俺の言葉に頷いてくれるアネシス。
彼女も気になることはたくさんあるだろう。それでもいつも笑顔でそばにいてくれる。
そんな彼女とずっと一緒にいたい。そのためにはなんだってする。
「もちろんです。それで……クラージュ様。私、王宮で働こうと思っています」
「ここでの仕事は辞めるのか……」
そうすれば食堂で顔を合わせることがなくなる。
毎日アネシスの笑顔をみて、アネシスの作るご飯を食べることが当たり前に思っていた。
それがなくなると思うと凄く寂しい。けれど、王宮で働くということは彼女にとっては腕を上げるいい機会になる。
頑張りたいと言う彼女の妨げになることはしたくない。
「アネシスが決めたことなら応援するよ」
ちゃんと、彼女を応援して俺は自分のやるべきことをしよう。
そしてすべて解決したらこの想いを伝えよう。
でも、少し気になることがある。
ロジーナが言った『彼女ならすぐにいなくなるわよ』という言葉。いったいどういう意味なんだ。
食堂を辞めて王宮で働くことに関係しているのか?
アネシスになにか起こる前にどうにかしなければ――。
昨日、父に言われた言葉が何度も頭の中で繰り返される。
今日はアネシスがずっと準備を頑張ってきたお茶会の日だった。
帰ってくるアネシスに労いの言葉をかけたかったのに、珍しく家に帰ってくるように言われたかと思えばそんな話をされるなんて。
何故だ? どうして急にロジーナとの結婚が決まったんだ。
俺にはアネシスという婚約者がいる。
それをわかった上で、結婚は決定事項だと告げられた。
何度もロジーナと結婚するつもりはないと言っても、父はそれ以上俺の話を聞くことはなかった。
元々、無理を言って取り付けた婚約ではある。
父に頭を下げ、誓約書にサインをもらった。
身分差を咎められはしたが、彼女のことを愛していると言うと、険しい顔をしながらも頷いてくれたのに。
翌日俺は非番だったが王宮に向かった。ロジーナとの結婚を取り下げてもらうために。
ロジーナの父であり、俺の伯父である国王陛下のところへと向かう。
「陛下! どうして急にロジーナとの結婚が決まったのですか?!」
「クラージュ、いつも冷静なお前が珍しいじゃないか」
陛下は自室でワインを飲みながらくつろいでいた。
特に驚いた様子もなく俺を見て微笑んでいる。
「はぐらかさないでください」
「そんなつもりはないさ。王家とヴェルディ家の婚姻は珍しいことじゃない。お前だって、家の繁栄を望んでいるだろう」
もちろん、時期ヴェルディ公爵家当主としての自覚はあるつもりだ。
けれど、それは愛する者と築いていく家を守りたいと思うからのではないのか。
愛する者一人幸せにできなくて家を守っていくことなどできるものか。
俺にはアネシスしか考えられない。
「陛下も俺に婚約者がいることを知っているではありませんか」
「あの男爵家の令嬢だろう? そんなに彼女をそばにおきたいなら妾にでもすればいい」
「なんてことを!」
アネシスを妾にだと?! 冗談じゃない。
俺は彼女以外と結婚するつもりはない。彼女以外を妻に迎えるなんて考えてもいない。
やっと距離も縮まり、彼女にとって俺が特別な存在になれているような気がしていたのに。
「妾がいることなど珍しい話ではない。それにマドリーノ男爵も喜んでいたそうだよ」
「それはいったいどういうことですか?!」
アネシスの父がお金のための結婚をさせようとしていたのはわかっている。
そんな人が俺との結婚がなくなりそうになって喜ぶはずがない。
「結婚がなくなっても十分な援助をすると言ったら両手を広げて喜んでたと、お前の父が言っていたよ」
父がもうそんなところまで手を回していたなんて。
昨日話した時は何も言っていなかったのに。
これではアネシスとの婚約は破棄してロジーナと結婚するか、ロジーナを正妻にしてアネシスを妾として迎えるかしか選択肢がないじゃないか。
「とにかく、俺はロジーナと結婚するつもりはありません」
「それはお前が決めることではないよ」
余裕な笑みを浮かべる国王陛下を尻目に部屋を出た。
いくら血の繋がりがあるとはいえ、今まで国王陛下にこんな態度をとったことはなかったが、言われるがまま結婚するつもりはない。
どうにかしなければ。アネシスの耳に入る前に。
彼女が、この話を聞いたらどう思うのだろうか。
「クラージュお兄様っ! いらしてたのですね」
長い廊下を気色ばみながら歩いているとロジーナが現れた。
ちゃんと顔を合わせるのは久しぶりだ。
それよりも――
「ロジーナ、結婚の話は聞いているのか?」
「もちろんですわ。だって、私からお父様にお願いしたんですもの」
「お願いした? どうしてだ!?」
「そんなの、クラージュお兄様が好きだからに決まってるじゃない」
ロジーナが、俺を好き? そんなそぶり感じたこともなかった。
いまさらなぜだ。それに国王は実利主義な人だ。いくら娘にお願いされたからと言って結婚を決めるようなことはしないはずだが。
「悪いがロジーナと結婚はできない」
「私がお願いしたけど決めたのはお父様よ。王家とヴェルディ家の婚姻はこの国にとっても重要なことでしょ?」
確かに俺たちが結婚することは家柄的にあり得ることだ。けれど、俺はアネシスでないとだめなんだ。
まだ、本当の婚約者ではないけれどこんな形で別れるなんてできない。
俺はまだ彼女に自分の気持ちを伝えてすらいないのに。
「俺には心に決めた人がいるんだ」
「あの男爵家の令嬢のこと? 彼女ならすぐにいなくなるわよ」
「それはどういうことだ」
「そのうちわかるわ。クラージュお兄様にとってもいいことがあるから楽しみにしていてね」
ロジーナは不敵な笑みを浮かべるとそのまま去っていく。
その笑いに異様な不気味さを感じた。
俺にとっていいことなんてアネシスと結婚する以外ない。
この話、どうにかしなければ。
頭を悩ませながら宿舎へと戻った。
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「アネシスっ」
すぐに駆け寄りその冷えた体を抱きしめる。
「こんな時間までどうしたんだ。もう暗いしこんなに冷えてるじゃないか」
「クラージュ様と、お話したくて待っていたのです」
アネシスは少し不安そうな、悲しそうな表情をしている。
俺は彼女の手を握り、食堂へ入った。
かじかんだ指先に申し訳なさが込み上げる。
どうしてこんな時間まで待っていたのかと思ったが、ロジーナとの結婚の話を知っているようだった。
アネシスの耳に入る前になんとかしようと思っていたのに。
知っているなら、誤魔化すわけにはいかない。
そう思い、本当のことを告げたがアネシスの表情はどんどん険しくなる。
まるで、何か良くないことを考えているときのような――。
「そうだったのですね。でしたら、私はもう――」
「結婚はしないっ!」
「え……」
とっさに彼女の言葉を遮った。
その後に続く言葉が安易に想像できたから。
きっと彼女は自分はもう必要ない、そう言うつもりだったのだろう。
そんな言葉、言わせてはいけない。
「俺は、アネシスとずっと一緒にいたいと言っただろう」
「それは、どういう……」
何かを言いかけてやめたアネシスは俺の顔をじっと見る。
彼女は今、何を思っているのだろう。
聞きたいけれど、聞けない。
こんな状況になったのは俺のせいでもある。
この結婚のことを解決してから、ちゃんと話をしなければ。
「時間はかかるかもしれないが、この話は絶対に取り消す。だから、勝手なお願いかもしれないが、アネシスはこのままでいてくれないだろうか」
俺の言葉に頷いてくれるアネシス。
彼女も気になることはたくさんあるだろう。それでもいつも笑顔でそばにいてくれる。
そんな彼女とずっと一緒にいたい。そのためにはなんだってする。
「もちろんです。それで……クラージュ様。私、王宮で働こうと思っています」
「ここでの仕事は辞めるのか……」
そうすれば食堂で顔を合わせることがなくなる。
毎日アネシスの笑顔をみて、アネシスの作るご飯を食べることが当たり前に思っていた。
それがなくなると思うと凄く寂しい。けれど、王宮で働くということは彼女にとっては腕を上げるいい機会になる。
頑張りたいと言う彼女の妨げになることはしたくない。
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