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第33話 まだまだ婚約は続いていくみたいだ
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食堂での仕事を辞めて、まだそんなに経っていないはずなのに、この場所がひどく懐かしく感じる。
クラージュ様と初めて話をしたのも、初めて一緒にサンドイッチを食べたのも、婚約してくれと告げられたのも、このベンチだった。
「こうやって、並んで座るのが久しぶりに感じるな……」
「そう、ですね」
クラージュ様は真っ直ぐ前を向き、花壇を眺めながら呟く。
大事な話とはなんだろう。私は少し緊張していた。
「騎士団に入ってから、ここが俺にとってこんなに特別な場所になるとは思っていなかった。アネシスが隣にいてくれたらどんな場所でも特別になるんだ」
私も同じことを思っている。クラージュ様といるだけでいつもの食事が一段と美味く感じて、見慣れた景色がきらきらして見える。
クラージュ様のことが好きだと気づいてからは特に。
「私はクラージュ様に助けていただき、とても楽しい時間を過ごせて、感謝してもしきれません」
「俺もだよ。アネシスには本当に感謝している。……だが今回、俺のせいで危険な目に合わせてしまった」
「クラージュ様のせいではありません! 私が、私の存在が、ロジーナ様をあのようにさせてしまったのです」
ロジーナ様は『あんたさえ現れなければもっと上手くやれたのに』と言っていた。
もっと上手く、というのは王太子の命を狙うことではなかったかもしれない。
私という目障りな存在を排除したいという気持ちと、クラージュ様のために、という想いが重なりこんな結果をまねいてしまったのではないか。そう思わずにはいられなかった。
「私がいなければ、ロジーナ様はあのようなことをしなかったかもしれません。クラージュ様にご迷惑をおかけすることも……」
「それは違う! アネシスがいなくても、ロジーナはきっとなにかしら行動を起こしていただろう。俺がもっと気を付けていればよかったんだ」
「そんな……気を付けていたって、どうにもならないこともあります」
「でも、俺の立場がそうさせてしまっているのは確かなんだ。俺と婚約していなければ、アネシスがあんな目に合うことはなかった」
クラージュ様は悲しい表情をする。拳を震わせ、そしてぎゅっと目を瞑った。
「もう、アネシスを危険な目に合わせることはしたくない。だから……、」
だから……。その言葉の続きに詰まるクラージュ様。
その苦しそうな表情に、これから言われるであろう言葉を想像する。
とてもお優しい方だ。きっと、私のために婚約を破棄しようと言うつもりなのだろう。
その方がいいのかもしれない。私という存在がこれから先もクラージュ様に迷惑をかけることがあるかもしれないから。
クラージュ様はゆっくりと目を開き、私の方を向く。
これでもう、婚約者ではなくなるんだ。楽しかった。幸せだった。本当の婚約者になりたいと思っていた――
「アネシス、婚約……してくれないか」
……え?
婚約……して? 破棄、ではなくて?
どういうことだろう。
「えっと……私たち、まだ……婚約してますよね?」
「あ、ああ、そうなんだが。いや違う。そういう意味ではなくて」
「違う……?」
「いや、違わない。これからも、アネシスに婚約者としてそばにいて欲しいと思っている」
本当にいいの? こんな私がまだそばにいても。婚約者としてクラージュ様の隣にいても。
どうしてか、目頭が熱くなってくる。
泣きたいわけではない。そばにいて欲しいと言われたことがすごく嬉しいのに、ちゃんと返事をしないといけないのに、上手く言葉がでてこない。
「ひっく……うっ、ひくっ……」
溢れてしまった涙に、嗚咽だけが漏れる。
「す、すまないっ! 嫌だったら、その……もう」
「嫌じゃありませんっ」
涙を拭いながら言葉を遮った。
嫌なわけない。そんなことあるわけない。
だって、私はこんなにもクラージュ様のことが好きなのだから。
「これからも、俺の婚約者でいてくれるのか?」
「もちろんです」
「ありがとうっ」
クラージュ様の表情はパッと明るくなり、私をぎゅっと抱きしめた。
「これから先、何があっても俺がアネシスを守っていく。大切にする」
抱きしめられたまま、そっと頭を撫でられる。
大げさだな、なんて思ったけれどすごく嬉しかった。
温かな腕に包まれ、幸せをかみしめた。
ずっと、ここにいたい。ずっとクラージュ様のそばに。
クラージュ様は、私のことをどう思っていますか?
私はクラージュ様のことが大好きです。
知りたい、伝えたいけれど、今はまだこの関係の心地良さに浸っていたい。
「アネシス、これからもよろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
クラージュ様の腕に包まれたまま顔をあげる。
私を優しい表情で見下ろす瞳に、自然と笑顔になった。
クラージュ様と婚約してから色々なことがあった。
楽しいことばかりではなかったかもしれない。
けれど、クラージュ様のことを好きになって知った感情が、出来事が、私にとって全て大切だと思える。
そして、まだまだクラージュ様との婚約は続いていくみたいだ。
◇ ◇ ◇
「もう、アネシスを危険な目に合わせることはしたくない。だから……、」
だから、もう婚約は破棄しよう。そう言わなければ。
今回の件で、どれだけアネシスに怖い思いをさせただろう。
それは全て俺の責任だ。俺の婚約者でなければアネシスはあんな目には合わなかったのだから。
アネシスにはもっと相応しい相手がいるはずだ。お互いを想い合い、穏やかに愛を育んでいけるような、そんな相手が――
嫌だ! 考えるだけで叫びだしそうになる。
でも、言わなければ。この婚約を終わりにしようと。
婚約は破棄しようと。それが彼女のためなんだ。
俺は、俺は――
「アネシス、婚約……してくれないか」
ああ。俺はまた、アネシスのことよりも自分の感情を優先してしまった。
でも、彼女はそんな俺とまだ一緒にいると言ってくれる。
だったら、俺が彼女を守ればいいんだ。彼女の笑顔が絶えないように、安心して過ごせるように。
もっとそばにいて、大切にして、支えていこう。
自分の相手は俺しかいないと思ってもらえるように。
好きだと言ってもらえるように。
彼女はまだ、俺の婚約者なのだから。
クラージュ様と初めて話をしたのも、初めて一緒にサンドイッチを食べたのも、婚約してくれと告げられたのも、このベンチだった。
「こうやって、並んで座るのが久しぶりに感じるな……」
「そう、ですね」
クラージュ様は真っ直ぐ前を向き、花壇を眺めながら呟く。
大事な話とはなんだろう。私は少し緊張していた。
「騎士団に入ってから、ここが俺にとってこんなに特別な場所になるとは思っていなかった。アネシスが隣にいてくれたらどんな場所でも特別になるんだ」
私も同じことを思っている。クラージュ様といるだけでいつもの食事が一段と美味く感じて、見慣れた景色がきらきらして見える。
クラージュ様のことが好きだと気づいてからは特に。
「私はクラージュ様に助けていただき、とても楽しい時間を過ごせて、感謝してもしきれません」
「俺もだよ。アネシスには本当に感謝している。……だが今回、俺のせいで危険な目に合わせてしまった」
「クラージュ様のせいではありません! 私が、私の存在が、ロジーナ様をあのようにさせてしまったのです」
ロジーナ様は『あんたさえ現れなければもっと上手くやれたのに』と言っていた。
もっと上手く、というのは王太子の命を狙うことではなかったかもしれない。
私という目障りな存在を排除したいという気持ちと、クラージュ様のために、という想いが重なりこんな結果をまねいてしまったのではないか。そう思わずにはいられなかった。
「私がいなければ、ロジーナ様はあのようなことをしなかったかもしれません。クラージュ様にご迷惑をおかけすることも……」
「それは違う! アネシスがいなくても、ロジーナはきっとなにかしら行動を起こしていただろう。俺がもっと気を付けていればよかったんだ」
「そんな……気を付けていたって、どうにもならないこともあります」
「でも、俺の立場がそうさせてしまっているのは確かなんだ。俺と婚約していなければ、アネシスがあんな目に合うことはなかった」
クラージュ様は悲しい表情をする。拳を震わせ、そしてぎゅっと目を瞑った。
「もう、アネシスを危険な目に合わせることはしたくない。だから……、」
だから……。その言葉の続きに詰まるクラージュ様。
その苦しそうな表情に、これから言われるであろう言葉を想像する。
とてもお優しい方だ。きっと、私のために婚約を破棄しようと言うつもりなのだろう。
その方がいいのかもしれない。私という存在がこれから先もクラージュ様に迷惑をかけることがあるかもしれないから。
クラージュ様はゆっくりと目を開き、私の方を向く。
これでもう、婚約者ではなくなるんだ。楽しかった。幸せだった。本当の婚約者になりたいと思っていた――
「アネシス、婚約……してくれないか」
……え?
婚約……して? 破棄、ではなくて?
どういうことだろう。
「えっと……私たち、まだ……婚約してますよね?」
「あ、ああ、そうなんだが。いや違う。そういう意味ではなくて」
「違う……?」
「いや、違わない。これからも、アネシスに婚約者としてそばにいて欲しいと思っている」
本当にいいの? こんな私がまだそばにいても。婚約者としてクラージュ様の隣にいても。
どうしてか、目頭が熱くなってくる。
泣きたいわけではない。そばにいて欲しいと言われたことがすごく嬉しいのに、ちゃんと返事をしないといけないのに、上手く言葉がでてこない。
「ひっく……うっ、ひくっ……」
溢れてしまった涙に、嗚咽だけが漏れる。
「す、すまないっ! 嫌だったら、その……もう」
「嫌じゃありませんっ」
涙を拭いながら言葉を遮った。
嫌なわけない。そんなことあるわけない。
だって、私はこんなにもクラージュ様のことが好きなのだから。
「これからも、俺の婚約者でいてくれるのか?」
「もちろんです」
「ありがとうっ」
クラージュ様の表情はパッと明るくなり、私をぎゅっと抱きしめた。
「これから先、何があっても俺がアネシスを守っていく。大切にする」
抱きしめられたまま、そっと頭を撫でられる。
大げさだな、なんて思ったけれどすごく嬉しかった。
温かな腕に包まれ、幸せをかみしめた。
ずっと、ここにいたい。ずっとクラージュ様のそばに。
クラージュ様は、私のことをどう思っていますか?
私はクラージュ様のことが大好きです。
知りたい、伝えたいけれど、今はまだこの関係の心地良さに浸っていたい。
「アネシス、これからもよろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
クラージュ様の腕に包まれたまま顔をあげる。
私を優しい表情で見下ろす瞳に、自然と笑顔になった。
クラージュ様と婚約してから色々なことがあった。
楽しいことばかりではなかったかもしれない。
けれど、クラージュ様のことを好きになって知った感情が、出来事が、私にとって全て大切だと思える。
そして、まだまだクラージュ様との婚約は続いていくみたいだ。
◇ ◇ ◇
「もう、アネシスを危険な目に合わせることはしたくない。だから……、」
だから、もう婚約は破棄しよう。そう言わなければ。
今回の件で、どれだけアネシスに怖い思いをさせただろう。
それは全て俺の責任だ。俺の婚約者でなければアネシスはあんな目には合わなかったのだから。
アネシスにはもっと相応しい相手がいるはずだ。お互いを想い合い、穏やかに愛を育んでいけるような、そんな相手が――
嫌だ! 考えるだけで叫びだしそうになる。
でも、言わなければ。この婚約を終わりにしようと。
婚約は破棄しようと。それが彼女のためなんだ。
俺は、俺は――
「アネシス、婚約……してくれないか」
ああ。俺はまた、アネシスのことよりも自分の感情を優先してしまった。
でも、彼女はそんな俺とまだ一緒にいると言ってくれる。
だったら、俺が彼女を守ればいいんだ。彼女の笑顔が絶えないように、安心して過ごせるように。
もっとそばにいて、大切にして、支えていこう。
自分の相手は俺しかいないと思ってもらえるように。
好きだと言ってもらえるように。
彼女はまだ、俺の婚約者なのだから。
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