死に戻り女騎士、断罪を回避するために王子の専属護衛を辞退したらなぜか求婚されている

藤 ゆみ子

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第1話 辞退します

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 手足を縛られたまま、断頭台に頭を押し付けられる。
 日頃訓練を積んでいるとはいえ、抵抗する術はない。

 せめてもの抵抗で顔を上げると、少し離れたところでこちらを見ているジェイド王子と目が合った。

「王子、私は謀反をはたらいてなどいません。あなたの命を奪おうなどと思ったことは一度もありません!」

 どれだけ必死に訴えかけても、美しい金髪を揺らす王子はただじっと鈍色の瞳で私を見つめるだけだ。

 そして彼が手を上げると、大きな刃が勢いよく落ちてくる。

「カリーナ、僕はきみを許さない」

 ジェイド王子の最後の言葉を聞き、私は命を失った――。


 ◇ ◇ ◇


 ――ドンドンドン

 部屋のドアを強くノックする音で目を開ける。
 見慣れた天井、馴染みのあるベッド、騎士団の寮の中で唯一の一人部屋。
 私の部屋……。
 
 どうして。私、死んだはずじゃ。

 ジェイド王子の専属護衛になって二年が経った頃、突然王子の命を狙った反逆者の汚名を着せられ断頭台で断罪された。
 どれだけ違うと訴えても聞き入れてもらえず、弁明の余地もなく私は死んだ。

 ――はずなのに。
 なんで自分の部屋で寝ているのだろう。
 とりあえず起き上がり、首元を撫でる。
 なんともないようだ。

 ホッとしていると、勢いよく部屋のドアが開いた。

「カリーナ! 今日は任命式だというのに寝坊だなんていい度胸だな!」

 入ってきたのは頬に十字の傷跡がある、白い制服を着た屈強な男性。

「ギル団長?! どうして……」
「どうしてって、お前が大事な日に寝坊なんてするから起こしにきてやったんだろう」

 ギル団長は半年前の魔物討伐で団員を庇って死んだのに。
 もう会えないと思っていた。
 ここってもしかしてあの世なの?
 こんなに現実みたいな世界だなんて知らなかった。

「ギル団長~あの世もけっこういい所なんですね!」

 思わず団長に抱きついていた。

「なに寝ぼけたことを言っているんだ。さっさと仕度しろよ。大事な任命式だろう」
「え? 任命式?」
「それに配属任命式は国王から直々に任命される。粗相をするなよ」
 
 団長は「早くしろよ」と言って部屋を出ていった。

 ちょっと待って。
 任命式ってどういうこと?
 掛けてある制服に目を向けると、襟についたバッチは見習い騎士のものだった。

 私は三年間の見習い期間を経て近衛騎士団に入団し、そしてジェイド王子の専属護衛に任命された。
 そして二年後あらぬ罪を着せられて断罪されるのだけど……。
 今日は二年前の任命式ということ?
 私、過去に戻ってきたんだ。

 どうしよう。

 ――ドンドンドン!

「カリーナ! 早くしろ! これ以上は待てんぞ!」
「は、はい!」

 ギル団長の怒号に体が勝手に動き出す。
 私は騎士団の制服に着替え、任命式へと向かった。

 今回見習いから正式に騎士になる者たちが前列に並び、国王や他の王族に見守られながら各団に振り分けられていく。
 訓練を共にした仲間たちが隣に並ぶ。
 これだけの屈強な男たちが揃っていて、成績は常に私がトップだった。
 はじめはやっかみもあったけれど、それをも跳ね返す力をつけていった。
 そして過去と同じならば、今からジェイド王子の専属護衛に任命される。
 
「カリーナ・ウルス、近衛騎士団所属、第一王子の専属護衛に任命する」

 国王が低い声で私の名前を呼ぶ。
 やっぱり、同じだ。

「い、嫌です……」

「おい、カリーナ!」

 ギル団長が後ろから焦ったように私の名前を呼ぶけれど、私の破滅はジェイド王子の護衛につことで始まる。
 だから、断るしかない。

「第一王子の専属護衛は辞退いたします」
「それはどういうことかわかっているのか?」

 そう、これは王命に背くということ。
 もう騎士団にはいられないだろう。
 
 私は代々騎士家系のウルス家に生まれた。
 父は第二騎士団の団長にまでなった人だけれど、討伐現場で大きな怪我を負い、私が十三歳の時に騎士を引退した。
 三姉妹の長女だった私は父の背を追うべく騎士になることを決意した。
 父指導のもと訓練を積み、騎士養成学校にトップで合格、そしてその成績を維持したまま無事卒業した。

 これで私が家族を養っていけると思っていたけど、致し方ない。
 死んでしまっては意味がないのだから。
 家族には申し訳ないけど、地方の自警団にでも入って地道に働こう。

「はい。騎士団を辞める覚悟で申しております」
「そうか。では代わりの者を任命する」

 周りがさらにざわつきはじめる。
 人一倍志の高かった私がまさか辞退するとは思っていなかったのだろう。

 けれど国王からすればただのいち騎士。
 代わりなんていくらでもいると思っている。
 それに元々国王はいくら成績がよくても女の私が王子の護衛につくことをよく思ってはいなかった。

 もうここにはいられない。
 私は深く頭を下げ、その場を去ろうとした。
 けれどその時、国王の隣で静観していたジェイド王子が立ち上がる。

「護衛につかないんだったら、僕の婚約者になってよ」
「はい……? 婚約者?!」

 真っ直ぐ私を見て告げる。
 ちょっと、意味がわかりません。
 
 立ちすくんでいると、すかさず国王が割って入る。
 
「ジェイド何を言っているんだ」
「僕ももう十八になったからいい加減婚約者くらい決めろと言ったのは父上ではありませんか。彼女は強い。いつ命を狙われるかわからない婚約者に適任ではありませんか? それに元気な子を産んでくれそうですよ」

 ジェイド王子はどんな令嬢をあてがわれてもなかなか婚約を了承しないと噂になっていた。
 国王が無理やり婚約を結んだこともあるが、その冷徹な態度にご令嬢から逃げられたこともあるとか。
 そんな人がなぜ私を婚約者に?
 たしかにどんなご令嬢より強い自覚はあるけれどそんな理由で?
 てか元気な子って……。

「それは一理あるが、身分がつりあわないだろう」

 そうだそうだ。
 私と王子が婚約だなんて無理に決まっている。

 けれど王子は食い下がってくる。

「そんなの、どこぞの貴族の養子にでもすればいいのですよ。王子の婚約者だと言えば貰い手は引く手あまたでしょう」
「まあ、それもそうだな。こちらで養子先を決めれば内政にも有利に運べる。カリーナ・ウルス、第一王子の婚約者に任命する」

 いやいや婚約者に任命するって。
 国王まで何を言っているんですか……。
 絶対に嫌だ。

「じ、辞退いたします!」

 勢いよく頭を下げ拒否するけれど、ジェイド王子はこちらに向かって歩いてくる。

「きみの父上はたしか元第二騎士団長だよね。五年前に怪我をして引退、それから元同僚のツテで郊外の農園で働いて一家を養っている」
「そう、ですけど」

 なんでそんなこと知っているんだ。

「その農園、閉鎖して鉄工場を作る話が出てるんだよね。」
「それってどういう……」
「きみの父上は仕事を失うってことだよ。まあ僕なら違う土地に工場を作らせることだってできるんだけど」
 
 これって脅し?!
 婚約者任命を受けないと父は仕事を失って一家は路頭に迷うぞってこと?!
 どうしよう。

 どうしようギル団長~。

 振り返ってギル団長に目線を送ると、めちゃくちゃ頷いている。
 婚約を受けろと訴えている。
 ギル団長も父をとても慕っていたとよく話を聞いていた。
 父を悲しませるようなことになって欲しくないのだろう。

 父は仕事を失い、私も働き口が見つからないとなると本当にうちは路頭に迷ってしまうかもしれない。
 
 もう、腹をくくるしかないのか。

「わかりました。婚約をお受けいたします」
「察しがよくて助かるよ」

 ジェイド王子は不敵に笑った。
 
 
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