10 / 36
第10話 兄弟の仕事
書斎にある本棚を引くと地下へと繋がる階段がある。
なんだかありがちだな、と思ったが口には出さない。
薄暗い階段を下りドアを開けると、地下とは思えないほど生活感のある散らかった部屋があった。
部屋全体も薄暗くてよくは見えないが、以前屋敷のリビングにあったであろう傷だらけのソファーの上に脱ぎ散らかした服、置きっぱなしのたくさんの紙などが散乱している。
「ここはちょっと散らかってて……」
ウィリアム様は、片付けるのを忘れていたと小恥ずかしそうにし、ライアン様は何かを蹴飛ばしながら歩いている。
屋敷は物もほとんどなく、傷があること以外は凄く綺麗で物悲しい部屋ばかりだ。
そこで生活をしていないので当たり前だが、謎の多い兄弟の生活感を垣間見れてなんだか嬉しい。
散らかった地下のリビングであろう部屋を抜け、仕事部屋だというドアを開ける。
そこは壁一面に本棚がずらりと並び、様々な本や文献、歴史書、帳簿のような物まである。
そして中央に置かれたダイニングテーブルほどの大きなデスクには白くサラサラした髪の可愛らしい少年が何かの書類を一生懸命読んでいた。
「アレン」
ウィリアム様に名前を呼ばれた少年は顔を上げこちらを見るとにこりと微笑む。
「はじめまして、セレーナさん。アレンです」
「はじめまして。セレーナです。あの、いつも美味しいお食事を用意していただいてありがとうございます」
「うん。いつもたくさん食べてくれてボクも嬉しい」
その天使のような笑顔に一瞬で虜になった。
アレン様は手に持っていた書類をウィリアム様に渡す。
「これ、追加資料」
それを見たウィリアム様は難しそうな顔をするとため息を吐いて椅子に座った。
「セレーナも座って」
「はい」
ちなみにライアン様は既に座っている。
「カーソン家は血眼になってセレーナさんを探してたみたいだね」
「セレーナをあてにした商売をしてたんだからそうだよね」
カーソン家は私が刺繍を始めた頃から畜産を全て羊毛産業に切り替え、毛織物や私が刺繍したハンカチなどをカーソン領の特産品として売り出すようになった。
特に刺繍のハンカチは貴族の間でも人気で、高値で取り引きされていたそうだ。
「いつ、何ができるかもわからなかったのに……」
「だからこそ、希少価値があったんだよ」
アリスもそのことについては何も知らなかったらしい。
私が作ったものをローガンに渡すとお小遣いをくれていたため、何から何まで私のものを奪っていたのだ。
「でも、父はなぜあの時何も言わずに家から出したのでしょうか……」
「カーソン男爵は実のところ何もしていなくて、執事のローガンに全てを任せているんだ。たぶん、判断しかねてたんじゃないかな。セレーナさんを引き留めるために本当のことを言うべきかどうか。セレーナさんが出ていった後、あの執事と随分揉めたらしいからね」
「アレン、よく調べたね」
「これくらいはすぐだよ」
「やっぱりあの執事がくせ者だな」
「あの、皆さん私の家のことを詳しく調べられていますが、一体どうやってそんなことを」
本当に詳し過ぎる。カーソン家の商売のことは貴族商会を調べればすぐにわかるかもしれない。
けれど、父やローガンの関係など私も知らなかったカーソン家の内情まで知りつくしている。
「情報収集がボクの仕事だからね」
「セレーナ、僕たちは国王からの勅命で動く特別諜報防諜員なんだ」
「特別諜報防諜員……」
国内外問わず常に様々な情報を集め、時には大きな変事になる前に未然に防ぐことも役割としている。
アレン様は主に情報収集、その情報を元にウィリアム様とライアン様は現場での状況確認、場合によっては悪事を働こうとするものをその場で取り押さえることもあるらしい。
「まあ今回は個人的な理由で動いたけどな」
「皆さん、私のために……?」
「セレーナにはもう辛い思いをして欲しくないから、何かできないかと思って」
「でも、あながち個人的ってわけでもないんだよ。カーソン家はボクたちがずっと目を光らせていた悪質な金融業者からお金を借りていることもわかったんだ」
確かに父はいつも資金繰りに苦労していた。
いくら高級服飾雑貨として売り出していてもカレンとアリスのあの散財ぶりではお金が貯まることはないなだろう。
まさかそんな金融業者にお金を借りているとは思っていなかったが。
「兄さん、資料の一番下」
アレン様に言われ資料に目を向けたウィリアム様は一段と顔を険しくする。
資料を持つ手に力が入るが何も言わない。
その様子にライアン様が横から資料を覗くとみるみる怒りに満ちた表情になる。
そしてウィリアム様から資料を奪い取ると立ち上がりビリビリに破く。
「ちょっと、せっかくまとめた資料破かないでよ」
アレン様は呆れながらライアンが破り捨てた資料を拾っている。
「セレーナ!」
「はい」
「お前はしばらく外出禁止だ!」
「え? どうして……」
まだ糸もたくさんあるし、特に出掛ける予定もないのだが改めて言われると理由が気になる。
「僕もそうした方がいいと思うな。ほら、この前の街でのこともあるし」
「それは、そうですね」
きっと二人は心配してくれているのだろう。
私は今まで通りこの屋敷でカーテンの刺繍に勤しむことにした。
あなたにおすすめの小説
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
【完結】ねぇ、それ、誰の話?
春風由実
恋愛
子爵家の三男であるアシェル・イーガンは幼い頃から美しい子どもとして有名だった。
その美貌により周囲の大人たちからは、誰からも愛されて育つ幸福な子どもとして見られてきたが、その実態は真逆。
美しいが故に父親に利用され。
美しいが故に母親から厭われて。
美しいが故に二人の兄から虐げられた。
誰も知らない苦悩を抱えるアシェルは、家族への期待をやめて、早く家を出たいと望んでいたが。
それが叶う日は、突然にやって来た。
ウォーラー侯爵とその令嬢ソフィアが、アシェルを迎えに現れたのだ。
それは家に居場所のないアシェルの、ちょっとした思い付きから始まった行いが結んだ縁だった。
こうして王都を離れ侯爵領でのびのびと健やかに成長していったアシェルは、自分が美しいことも忘れていたくらいだったから、自身の美貌の余韻が王都の社交界にて壮大な物語を創生していたことに気付けなかった。
仕方なく嫌々ながら戻ってきた王都にて、大事な人を傷付けられて。
アシェルは物語を終わらせるとともに、すっかり忘れ去っていた家族たちとも向き合うことにした。
そして王都に新しい物語が創生する。それは真実に則った愛の物語──。
※2026.1.19 おかげさまで本編完結いたしました。ありがとうございます♡
【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
ヴォレッカ・サミレットは、領地の危機をどうにかするために、三年ぶりに社交界へと婚姻相手を探しにやってきた。
第一にお金、次に人柄、後妻ではなく、できれば清潔感のある人と出会いたい。 そう思っていたのだが──。
「これは、運命だろうか……」 誰もが振り返るほどの美丈夫に、囁かれるという事態に。
「気のせいですね」 自身が平凡だと自覚があり、からかって遊ばれていると思って、そう答えたヴォレッカ。
だが、これがすべての始まりであった。 超絶平凡令嬢と、女性が苦手な美丈夫の織りなす、どこかかみ合わない婚姻ラブストーリー。
全43話+番外編です。
【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
次こそあなたと幸せになると決めたのに…中々うまくいきません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のシャレルは、第二王子のジョーンによって無実の罪で投獄されてしまう。絶望の中彼女を救ってくれたのは、ずっと嫌われていると思っていた相手、婚約者で王太子のダーウィンだった。
逃亡生活を送る中、お互い思い合っていたのにすれ違っていた事に気が付く2人。すれ違った時間を取り戻すかのように、一気に距離を縮めていく。
全てを失い絶望の淵にいたシャレルだったが、ダーウィンとの逃避行の時間は、今まで感じた事のないほど、幸せな時間だった。
新天地マーラル王国で、ダーウィンとの幸せな未来を思い描きながら、逃避行は続く。
そしていよいよ、あと少しでマーラル国というところまで来たある日、彼らの前にジョーンが現れたのだ。
天国から地獄に叩き落されたシャレルは、絶望の中生涯の幕を下ろしたはずだったが…
ひょんなことから、ダーウィンと婚約を結んだ8歳の時に、戻っていた。
2度目の人生は、絶対にダーウィンと幸せになってみせる、そう決意したシャレルだったが、そううまくはいかず、次第に追い詰められていくのだった。
※シャレルとダーウィンが幸せを掴むかでのお話しです。
ご都合主義全開ですが、どうぞよろしくお願いします。
カクヨムでも同時投稿しています。
緑の指を持つ娘
Moonshine
恋愛
べスは、田舎で粉ひきをして暮らしている地味な女の子、唯一の趣味は魔法使いの活躍する冒険の本を読むことくらいで、魔力もなければ学もない。ただ、ものすごく、植物を育てるのが得意な特技があった。
ある日幼馴染がべスの畑から勝手に薬草をもっていった事で、べスの静かな生活は大きくかわる・・
俺様魔術師と、純朴な田舎の娘の異世界恋愛物語。
第1章は完結いたしました!第2章の温泉湯けむり編スタートです。
ちょっと投稿は不定期になりますが、頑張りますね。
疲れた人、癒されたい人、みんなべスの温室に遊びにきてください。温室で癒されたら、今度はベスの温泉に遊びにきてくださいね!作者と一緒に、みんなでいい温泉に入って癒されませんか?
姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚
mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。
王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。
数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ!
自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。
追放聖女35歳、拾われ王妃になりました
真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。
自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。
ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。
とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。
彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。
聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて??
大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。
●他作品とは特に世界観のつながりはありません。
●『小説家になろう』に先行して掲載しております。