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第11話 誘拐
ローガンが屋敷に来てから数日が経っていた。
この数日、特に変わったこともなくただ静かに屋敷でカーテンに刺繍をするだけの日々が続いている。
ライアン様は怪我が良くなったため、仕事に行っているようだ。
朝方帰って来ては朝食を食べた後、リビングで作業する私の足元で眠っている。
時折しっぽを乗せてくるので撫でてあげると満足そうにまた眠る。
「セレーナ」
「はい」
「僕もここで休んでいいかな」
「はい、もちろんですよ」
オオカミ姿のウィリアム様がソファーの横に控えめに寝転ぶ。
最近、ウィリアム様もお疲れ様のようでよくオオカミの姿になってはリビングで休んでいる。
やはりオオカミの姿の方が疲れがとれやすいらしい。
ちょうど肘掛けから手を伸ばすともふもふの背中に触れるので撫でてみると気持ちよさそうにあくびをする。
先日の出来事が嘘のように穏やかだった。
そんな日がしばらく続いたある日の夜、ウィリアム様とライアン様が仕事へ行った後も私はリビングで一人作業をしていた。
もう少しで全てのカーテンの刺繍を入れ終える。
そうすればここを出ることになると思うと寂しさが込み上げる。
ちゃんと次の仕事を探さなければいけない。
外出するなという言葉にかまけて何も行動していないが、仕事と住む場所が見つかるまでここに置いてくれるだろうか。
そんなことを考えていると、最後のカーテンが出来上がった。
――パチンッ
カーテンを裏返しギリギリのところをハサミで切る。
完成した時のこの瞬間が好きだったのに、今は完成してしまったことに名残惜しさを感じる。
だが、完成させることが私の仕事だ。
「よしっ」
完成したカーテンを持ち立ち上がると片手で椅子を持って廊下へ行く。
最後に残った廊下の窓にカーテンを吊るし、しばらく眺めていた。
「うん。我ながら良くできてる」
すると玄関のドアをコンコンコン、と叩く音が聞こえる。
この屋敷にお客さんが来ることはほとんどなく、こんな時間に誰だろうと思いながらもドアを開けた。
次の瞬間、厳つい男二人が私の体を抑えつけ、嗅いだことのない甘い匂いのするハンカチで顔を覆われる。
抵抗する間もなく意識が遠のいて行くのを感じた。
――――――――――
目が覚めるとそこはひどく懐かしい場所だった。
まだ母が生きていた頃はよく訪れていた場所だ。
手足を縛られ上手く動かない体を必死にひねりなんとか体を起こす。
「ここは豚小屋だった場所だ……」
何もいない、藁だけが散乱し荒れ果てた小屋を眺める。
カーソン領の山小屋であるこの場所は豚がいなくなりもう使われていないのだろう。
知らない男たちに拐われここに連れて来られたということは、ローガンの差し金だろうか。
「なんでこんなことを」
あれから数日、穏やかな日が続いていたため気が緩んでいたのかもしれない。
どうして何も考えずドアを開けてしまったのだろう。
後悔してもどうにもならない。
私は体を引きずるように小屋の出口の方へ向かう。
その時、勢い良く小屋の扉が開く。
月明かりに照され扉の向こうに見えたのは、初めて見る真っ白い毛並みの可愛らしいオオカミだった。
「セレーナさんごめんっ、地下にいて気付くのが遅くなって」
「アレン様……」
その言葉でアレン様だということに気付いた。
「知らない人間と薬品の匂いがしたからまずいと思ったんだけど屋敷に上がった時には手遅れだった。本当にごめんね」
アレン様は申し訳なさそうにしながら牙で手足を縛っていたロープを噛み切る。
「ありがとうございます」
「大丈夫?」
「はい、なんとか」
「とりあえず、ここから出よう。すぐ兄さんたちも来るはずだから」
所々痛む体を起こし立ち上がりアレン様について外に出ようとしたが、扉の前には先ほど私を拐った二人の男がナイフを片手に立っている。
「なんだこの獣は!」
「どこからきたんだ」
オオカミに少し怯んでいる様子だが男たちはナイフをこちらに向け襲いかかってくる。
「もう、ボク戦闘は専門外なのに」
そう言いながらアレン様はしっぽで私を後ろへ押すと自分は男たちへと向かって行く。
ナイフで切りつけようとする男たちをさらりとかわし、その腕と足に噛みついていく。
「うわぁ」
「あ、足がぁ」
あの鋭い牙に噛みつかれたら人間はひとたまりもないだろうが、手加減しているのか男たちはナイフを落とし腕と足を抱えて唸っているだけだ。
アレン様は戦闘は専門外だと言っていたが、とても洗練された動きだと思う。
男が唸っている間に行こうと言うようにアレン様が私に目配せする。
だが、その少し後ろで銃を構えたローガンが目に入った。
「アレン様っ」
私は咄嗟にアレン様の前に出る。
――バンッ
大きな銃声とともに弾が私の肩を掠めた。
「セレーナさんっ!!」
「っ、大丈夫です。掠めただけですので」
強がってはいるが、かなり痛い。血もそれなりに流れてきている。
「セレーナ様、大人しくしていれば悪いようにはしなかったのに」
近づいてくるローガンにアレン様は私の前で庇うように身を寄せるが、いくらオオカミと言えど銃で撃たれれば致命傷になるだろう。
「ローガン、私が大人しくついていけばこの子は見逃してくれる?」
「セレーナさんダメだよ」
「そうだ、ダメだ!」
「遅くなってごめん」
その言葉と共に二匹のオオカミが後ろから飛びかかるようにローガンを取り押さえ、続くように騎士団員たちがぞろぞろと入ってくる。
その様子に安心したのか緊張の糸がプツリと切れ、私はまた意識を失った。
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