勘違い令嬢の離縁大作戦!~旦那様、愛する人(♂)とどうかお幸せに~

藤 ゆみ子

文字の大きさ
20 / 28

第20話 モヤモヤ

しおりを挟む
 シオン様はクラウド様を見下ろし、鋭い視線を向けている。
 なんか怒ってる? ずっとつけていたこと、気づいていたのだろうか。

「あの、お話するなら、座りませんか?」
 
 おそるおそる声をかけると、シオン様は私の隣に座った。
 私の顔を見ると困ったように眉を下げ、ごめんねと呟いた。
 なんの謝罪なんだろう。

「で、シオンはあの令嬢と何してたんだ?」
「クラウドの父上に頼まれたんだよ。彼女に協力してくれって」

 今朝、クラウド様のお家へ行くと言っていたのは、お父様に呼ばれたからだったんだ。
 だから、クラウド様自身も知らなかったということか。

「それで、協力してたってわけか? また余計なことを」
「できることはしますって言っただけだよ。彼女、本当にクラウドのことが好きみたいだよ」

 クラウド様は盛大にため息を吐いた。

「見合いのことはシオンには関係ないだろ」
「関係なくはないよ。僕だって気にかけてるんだ。現にクラウドの父上からも頼まれたわけだし」
「決めるのは俺だ」
「じゃあさっさと決めなよ、結婚。そしたら僕だってこんなことしなくてすんだんだ」

 なんか、すごく険悪じゃない?
 これって、喧嘩ってこと?
 たしかにクラウド様からすれば余計なお世話なのかもしれないし、でもシオン様は頼まれたことをしているのであって、どっちが悪いというわけでもない。
 でも、どうしてシオン様はこんなに苛立っているのだろう。
 やっぱり、尾行がよくなかった? それとも私がクラウド様と二人でいたから?
 だったら私が悪い。
 そもそも、あの女性との関係が気になってついてきてしまったけど、このお見合いの話に私は何も関係ない。

 シオン様とクラウド様の問題だ。私、ここにいていいのだろうか。

 席を外した方がいいのかなと思っていたら、クラウド様が口を開いた。

「俺のことは置いといてさ、ティア嬢を不安にさせるのはよくねえだろ」

 呆れたような口調で吐き捨てる。
 シオン様はハッとしたように私を見た。

「それは……そうだね。頼まれたからといって、女性と二人ででかけるべきじゃなかった。ティア、ごめんね」

 シオン様は申し訳なさそうに頭を下げる。
 そうか。普通に考えたら、妻の私に後ろめたいことをしたと思われるんだ。そこは気にしていなかった。

「いえ……大丈夫です。私も、後をつけたりしてすみませんでした」

「じゃ、俺は行くわ。あとは二人で話せ」

 クラウド様は帰っていってしまった。
 
 なんか、気まずい……。

「あの、隣に座っているのもおかしいので、向かいに移動しますね」

 私は先ほどまでクラウド様が座っていた席に移動しようとしたけれど、立ち上がった瞬間、腕を掴まれた。

「ここに、いて」
「は、い……」

 そのままストンっと腰を下ろし、また隣に座ることになってしまった。

「ティア、本当にごめん。協力するのも、もうこれきっりだから」
「そんなに謝らないでください」
「怒ってない?」
「怒ってはいません。ただ、少し気になっただけで」
「気になったの?」
「はい。気になりましたよ」

 なぜかシオン様は頬を緩ませる。

「ティアは、あまり僕に興味ないのかと思ってたよ」

 興味ない、なんてことはない。
 だって毎日毎朝観察するくらいシオン様とクラウド様のことを考えている。
 お二人が幸せになってくれたらいいと思っている。
 だから、すごく気になった。私以外の女性といることが不安になった。
 あれ? なんでこんなに女性に対してモヤモヤするんだろう。
 私はお二人の関係を応援しているから、クラウド様のお見合いが上手くいかなければいいなとは思っていた。
 
 でも、それとは別に……

「シオン様が他の女性と二人でいるところを見て、なんだか嫌だと思いました」

 その言葉にシオン様は目を見開く。
 いくら妻とはいえ、図々しい発言だっただろうか。

 けれど、シオン様は私の手を握り嬉しそうに微笑んだ。

「この先は絶対に他の女性と二人で会ったりしないよ。嫌な思いさせてごめんね」
「いえ、頼まれたのなら仕方ないことですので。私たちも帰りましょうか」

 シオン様はカフェを出たあとも何度も謝っていた。

 後日、クラウド様はやはりお見合いを断ったとシオン様が教えてくれた。
 あの女性はクラウド様の好きなタイプや好きな物を知りたいとお父様に聞いたところ、それならシオン様に聞くのがいいと、協力を求めてきた。
 クラウド様へのプレゼントを選び、カフェではどうしたら結婚を受けてもらえるのかと涙を浮かべて話していたそうだ。

 朝、いつも通りお二人が稽古をしている姿を見てホッとしている反面、あの女性が気の毒だなとも思ってしまう私がいる。

 涙を流すほど誰かを好きになったことは、私にはない。


 ◇ ◇ ◇

「で、ティア嬢は許してくれたのかよ」
「許すもなにも、ティアは僕に対して怒ったりしない」
「内心はわかんないぜ」
「そんなことよりクラウド、早く結婚しなよ」
「面倒くせえ」

 元はと言えば僕が変な頼みを聞いて女性と二人ででかけたことが悪いのに、僕の方が感情的になってしまった。ティアとクラウドが一緒にいるところを見て。
 きっとティアはこんなふうに心を乱すことはないんだろうな。
 むしろ、クラウドと一緒にいられて嬉しかったのかもしれない。
 そう考えるだけでまた心が歪んでいく。

「まあ、お前は俺のことはほっといてティア嬢のことだけ考えとけよ」
「言われなくてもそうするよ」

 剣を握る手に力が入る。
 クラウドはいつも余裕がある。強いし、見た目だってそれなりにいい。
 でも、ティアのことは僕が幸せにするんだ。

『シオン様が他の女性と二人でいるところを見て、なんだか嫌だと思いました』

 ティアの言葉を思い出し、思わず口元が緩む。
 少しは僕にも妬いてくれたということだろう。
 不謹慎だけど、協力して良かったと思ってしまう。

 もっと、妬かせてみたいなんて悪い考えが頭をよぎった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

愛する女性を側室に望むのなら、いっそ私との婚約は解消してほしいのですが?

四折 柊
恋愛
公爵令嬢ジョゼフィーヌには好きな人がいた。その人は隣国の王子様リック。ジョゼフィーヌはリックと結婚したくて努力をしてきた。そして十六歳になり立派な淑女になれたと自信を得たジョゼフィーヌは、リックにプロポーズをしようとした。ところが彼に婚約者がいたことが発覚し悲しみに暮れる。今まで確認しなかった自分も悪いが、なぜかリックも家族もそのことを教えてくれなかった。そんなときジョゼフィーヌに婚約の打診が来た。その相手は自国のアルバン王太子殿下。断りたいが王命が下り仕方なく受け入れた。それなのに、ある日夜会でアルバンが可憐な令嬢に一目惚れをした。その後、アルバンはその令嬢を側室にしたいと望んだので、お互いのために婚約を解消したいと申し出たが拒絶されて……。ジョゼフィーヌの未来はどうなるのか?!

婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。 彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。 ――その役割が、突然奪われるまでは。 公の場で告げられた一方的な婚約破棄。 理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。 ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。 だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。 些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。 それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。 一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。 求められたのは、身分でも立場でもない。 彼女自身の能力だった。 婚約破棄から始まる、 静かで冷静な逆転劇。 王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、 やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。 -

偽王を演じた侯爵令嬢は、名もなき人生を選ぶ」

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王太子オレンに婚約破棄された侯爵令嬢ライアー・ユースティティア。 だが、それは彼女にとって「不幸の始まり」ではなかった。 国政を放棄し、重税と私欲に溺れる暴君ロネ国王。 その無責任さを補っていた宰相リシュリュー公爵が投獄されたことで、 国は静かに、しかし確実に崩壊へ向かい始める。 そんな中、変身魔法を使えるライアーは、 国王の身代わり――偽王として玉座に座ることを強要されてしまう。 「王太子妃には向いていなかったけれど……  どうやら、国王にも向いていなかったみたいですわね」 有能な宰相とともに国を立て直し、 理不尽な税を廃し、民の暮らしを取り戻した彼女は、 やがて本物の国王と王太子を“偽者”として流刑に処す。 そして最後に選んだのは、 王として君臨し続けることではなく―― 偽王のまま退位し、名もなき人生を生きることだった。 これは、 婚約破棄から始まり、 偽王としてざまぁを成し遂げ、 それでも「王にならなかった」令嬢の物語。 玉座よりも遠く、 裁きよりも静かな場所で、 彼女はようやく“自分の人生”を歩き始める。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!

三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

処理中です...