少年が気持ちよくなる方法

三木

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 良はじっと裕司を見つめて、そっと髪に触れてきた。まだ遠慮がちに、ゆっくりと頭を撫でて、耳から首に指が流れていく。
 ──子どものくせに、やらしい触り方しやがって。
 内心で呟きながら、もう拒まなくてもよいのだと思うと、良のしたいようにさせてやりたい気持ちが勝った。
 好意があって、安心できる相手の肌に触れたい気持ちはよくわかったし、その対象が自分だというのは不思議な気持ちだったが、嬉しくこそあれ不快に思う理由はなかった。
 良はひとしきり裕司に触れて、おもむろに腕を回してくると、呟くように言った。
「……あんたに触ってると……安心して眠くなるんだけど……」
 その声がどこか申し訳なさそうな、言い訳じみた響きを持っていて、裕司は笑う。
「ほんと警戒心がないな、お前」
「……今さらどう警戒したらいいの」
 そう言われて、裕司は反論できなかった。彼の警戒を解くことに腐心していたのは自分だし、今でも己の欲望より、彼を守ることの方がずっと大切なことだった。
「……眠くなったら、ちゃんと寝ろよ。寝足りないとお前、本当危なっかしいからな」
 良はやけに幼い目で裕司を見る。その顔は確かに眠たそうに見えた。
「あんたって……なんでそんなに俺に優しくできるの……?」
「え……?」
「俺にいらついたり、腹が立つこと、ないの……」
 純粋に疑問だ、と言わんばかりの声で、裕司はそこにまた良のいびつさを見る。彼の人生で、誰も彼に無償の愛を注がなかったのだろうか、と、うがったことを考えた。
「……お前が俺を怒らせるようなことしないだけだろ」
 良は納得がいかないようだった。裕司も何をどう言葉にすればよいのかわからなくて、手の平で良の目を覆って額に口づけてやる。
「眠たいときはおとなしく寝とけ。……俺はちゃんとここにいるから」
 ややあって、囁きほどの声で、キスしてくれたら寝る、と言われた。
 わがままなやつだな、と思うと同時に、彼がそんなわがままを言ってくれるのが無性に嬉しい自分がいて、裕司は黙って唇を重ねた。
 おやすみのキスというには幾分熱っぽい、求め合うような口づけをして、強がっておやすみと囁くと、良は何も言わずに穏やかに目を閉じた。
 自分の中に溜まった熱のやり場がないことに嘆息しつつも、裕司は良の安らかな表情に笑ってしまう。彼は明らかに裕司を信頼しすぎていたし、あまりにも無防備だった。
 これほど信頼されたらとても裏切れないと、すっかり負けた気持ちでその寝顔をしばらく眺めて、起こさないようにそっと灯りを消す。そして睡魔の訪れを待つために、温かい身体を抱いて目を閉じた。

 翌朝アラームに起こされて、ベッドの上に良の姿がないことに気付いて裕司は飛び起きた。
 慌てて寝室を飛び出して、そしてすぐに立ち尽くす。
 いつも裕司が起きた後、午前中の間の仮の寝床であるリビングのソファで、良は穏やかに寝息を立てていた。
 何故そんなところで寝ているんだ、と思ったし、何故自分はこんなに慌てたんだ、とも思って、裕司はその場にしゃがみこむ。起き抜けにバタバタと慌てていた良をおかしなやつだと思っていたはずなのに、とても笑えなくなってしまった。
 落ち着いて考えてみれば、良が先に起きることがあっても何もおかしなことではなかったし、喉が渇いたりトイレに起き出すことだってあるはずだ。家の中にいなくて慌てるのならまだしも、隣に寝ていないというだけで血相を変えるのは明らかに尋常ではなかった。
 幸いなことに、裕司の立てた音で良が目を覚ました様子はなかった。裕司は深くため息をついて、ソファの脇まで行って良の寝顔を眺めた。
「……なんでここで寝てんだよ……」
 呟いて頬をつまんでも、良はむずがって顔を背けただけで起きなかった。規則正しい寝息が聞こえて、気持ちよさそうに寝やがって、と心の中で毒づいてみる。
 起き抜けからひどく疲労した気分だったが、二度寝する気にもなれなかった。良の毛布を掛け直してやって、またため息をつきながら台所に向かう。コーヒーが飲みたくて湯を沸かした。
 ──入れ込むにも程があるだろう。
 良が可愛いし大事だと思う。それは何も悪いことではないはずだが、裕司の中で良の存在が予想をはるかに超えて大きくなっていた。

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