少年が気持ちよくなる方法

三木

文字の大きさ
76 / 97

76

しおりを挟む
 しばらく唇を合わせるだけの柔らかなキスをして、良の吐息と体温が近いことに浸っていたが、不意に良はふと気付いたように顔を離した。
「ねえ、俺一人で風呂入ったら星空見えちゃうじゃん」
 さも一大事に気が付いたとばかりの声で言われたが、裕司はその意味をつかめずに、ただ良を見返した。
「夕日綺麗でご飯美味しかったから忘れてたけどもう夜だよ」
「……そうだな?」
 そうだなじゃないよ、と叱るような口調で良は言った。
「やだ、俺一人で見たくない」
「……星空を?」
「他に何があるのさ!」
 まるで裕司の飲み込みが悪いかのようにぴしゃりと言われて、腑に落ちないながら裕司は考える。今の良は感動をすべて分かち合おうとする、いや、分かち合うことを強要してくる幼児のような心理状態なのではないだろうか。
「……俺も風呂に付き合えばいいのか?」
 裕司の提案に、良は何とも言えない顔をした。形容し難い味のものを口に含んだような顔だった。
「…………今ゆっくり浸かる気分じゃないんだけど」
「何なんだよ」
「……色々準備、したいし」
 裕司は額を押さえる。誤解と早とちりはすまい、と思って、息をついてから口を開いた。
「……何の準備だ」
「あんたとセックスする心と身体の準備?」
 躊躇いもなく言われて、裕司は布団に倒れ込みたくなる。
「…………お前に今さら心の準備がいるのか……」
 それは多少なり皮肉のつもりだったが、良はけろりとしたものだった。
「一応しといた方がいいかなって……大丈夫?」
 眉間に皺を寄せる裕司を心配するような声だったが、元凶が何を言っているんだという気にしかならなかった。
「……すげえ素朴な疑問なんだがいいか」
「何?」
「初めて男にどうこうされようってことについて、恥ずかしいって感情はないのか?」
 良はきょとんとした目で裕司を見て、それからゆっくりと首を傾けた。
「……あんたそういうのが好みなの?」
 裕司は顔を背ける。著しく会話が噛み合っていない気がした。
 しばしば良からは、男同士で何を遠慮したり恥ずかしがったりする必要があるのか、と言わんばかりの大胆さを感じることがあった。同性だということに抵抗を示さない代わりに、同性を特別視するという感覚が欠如しているような、そんなふうに感じられた。
 何も責められるようなことではないが、同性だからこそ意識してしまう裕司にとっては、何とも歯痒いものがあった。
「……ねえ」
 うなだれた裕司に、良の呼び掛けが降ってくる。その声で呼ばれたら決して無視できないことを知っているのだろうか、と思いながら裕司は顔を上げた。
「……俺だって怖いとか恥ずかしいとか思わないわけじゃないよ。でも、そんなの気にしてもしょうがないじゃん」
 良は少しばかり拗ねたような、あるいは照れ隠しに強がってみせるような声音で言った。
「そんなのより、俺、あんたが俺に興味なくす方がやだ」
 裕司はまじまじと良を見返す。その耳や目許が少しばかり赤かった。
「……それはないから安心しろよ」
 手を伸ばして頭を撫でてやると、むう、と良は唸るような声を出した。
「……ほんとに?」
「お前ほど可愛くて飽きないやつはいないと思ってるよ」
 その言葉で、良は機嫌を直したようだった。綺麗な黒い瞳が正直に輝きを増す。
 それを見て、裕司も顔を綻ばせた。
「……風呂な、浸からねえんだったら、洗い場には屋根あったし、空なんか見えねえと思うぞ」
「ほんと?」
「身体洗うだけならな」
「嘘だったらあんたのこと大声で呼ぶかもしれないけどいい?」
 裕司は声を立てて笑った。その呼び声を聞いてみたいとすら思った。
「でも、浸からないと寒いんじゃないか?」
 大丈夫、と言って、良は裕司の唇にキスをする。もう挨拶のような気軽さだと思いながら、それでも裕司の胸にはかすかに火の灯る感覚があった。
「じゃあ、俺、風呂入ってくるから待ってて。寝ちゃわないでよ」
 寝ねえよ、と笑って、裕司は布団の上から良を見送った。
 部屋に一人になると、とても奇妙な時間だと感じられて、裕司は立ち上がって広縁に向かう。ガラス戸を開けてみると、外の空気はやはり冷たかった。
 庭の灯籠に光が入って、幻想的な夜の庭景色になっていた。これも良に見せたら喜ぶのだろう、と思われて、裕司は一人で微笑んだ。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...