マシニングオラクル “AIが神を『学習』した世界”

ajakaty

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絶海の少年

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「かーっ...まったく! なんでがそんなに大事かね? 言ってみりゃあ、、えーと...何代か前のご先祖様、確か“カナタ”さんだっけか。その人がこさえた“リョーシリロン”とか言うのを、その次の代のご先祖様が実用に成功したから、その功績に対する褒美でこの島を貰ったつーんだろ? もう耳にタコが巣を作って産卵してるっつーの!!」 
 

 軽口を叩きながら腰の魚籠びくほどいて渡す。


 (まあ確かに俺がさばくよりはよっぽどうめーけどさ...こっちが心配してやってんのに頑固シジイめ!)

 
 魚籠びくを受け取った老人は、それをそのまま肩に担ぎ...改めてじろっと少年に視線を向けると...


「下らん事を考えてないでさっさと行かんか!!」


 !! (何で分かるんだよ!)


「分かったよ!! そうカリカリすんなっての。只でさえ台風の後で海が荒れてんのに、じーちゃんまで荒れてどうすんだよ」


「ふん! 全く...“映像記録”で常識を学ばせたのは失敗じゃったか。やはり今からでも禁止に...」


「!!急いで行ってきま~す!!!」

 
 少年が走りだす。ボロボロの桟橋はギシギシと音をたてつつもかろうじて崩壊はまぬがれたようだ。


「まったく...教育方法を間違えたかのう...あやつがこんな調子のままでは、...」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 アチラ少年と老人が言い争いをした朝から更に7日程前...九州の南端、カゴシマと呼ばれる地で...


 夜の闇に沈む寂れた漁港...そこに佇む二つの人影があった。一人は浅黒い肌の中背の男性、一人は色白で長い黒髪をポニーテールに結った少女...暫くの間、二人は視線を海に向けたまま沈黙を保っていた。


 二人の視線の先には、数多の星が闇の中に在る筈の水平線を浮かび上がらせている。『こんな世界でなければ...』そう思わずには居られない風景に心を奪われていると...


「どうしても行くのか?」


 不意の問い掛け...男の視線は南東の水平線へ向けられたままだ。


「はい...父上。我々にはもう刹那の猶予もありません。兄上が中央に徴兵されてより3年余り...草薙の家督を正式に兄より移譲された時に知らされた、。それを黙殺する事は...私には出来そうにありません」


 男は視線を少女...娘に向ける。そのぎこちない動きが、父の右足が義足である事を改めて娘に思い出させた...


 そして...父の視線には、“本来なら自分が成さねばならない役目”を、娘に負わせた事を悔いているのがありあり浮かんでいた。


「...すまん。お前たちには何も残してやれなんだ...父として、また大人として誠に情けない限りだ」


「違います。父上は...私達にこの上ない物を残して下さいました!」


 そう言って少女は、船着き場に停泊されたヨットに飛び乗った。小型のキャビンを備え、縦帆セールまで濃紺の船体には船名すら刻まれていない。


「心配無用です父上! 操船も天測も抜かり無く訓練しました! 必ず

 
 そう言うと同時に、少女がもやいを解き、セイルを広げる。風をはらんだ帆は船体を僅かに傾けつつ、少しずつ速度を上げてヨットを離岸させていった...


「今や...死ぬなよ葵...」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「まったく...じーちゃんもいい歳だってのに...何でああ頭が固いかね。テレビに出てくる爺様はもう少し丸くなってるってのに...」


 ぼやきながら島の道路をMTBで走るアチラ少年。彼が向かったのは、この島にまだ住民が住んでいた時に作られたという小さな神社だった。

 
 打ち捨てられてから100年以上になるというのに未だその社はしっかりと姿を保っている。小高い丘の社へ登る石段の麓には、石で作られた鳥居があり、アチラ少年は、いつもの様にMTBをそこに立てかけた。


「さっさと済まそうか...」


 軽快なステップで石段を駆け上がると、正面にある本殿の前へ進み出る。最後の数歩を少しだけ静かに進みでると、そこで二度の礼の後、二拍を行ってそのまま手を合わせる...


 (今日もお詣りさせてもらいます。正直なとこ、じーちゃんの言ってる事はさっぱり分かんないけど、出来ればじーちゃんを長生きさせてやって下さい)


 心の中で適当な祈りを捧げる。物心ついた時から、毎日の参拝は欠かした事が無いが、それは祖父の言い付けの為ばかりではない。その理由の一つは、この神社の裏手にある両親の墓だ。毎日の参拝の後に、両親の墓に参るのがアチラ少年の日課となっていた。

 
 本殿での祈りを終えて一礼する。さて今日は少し墓を掃除でもして帰ろうかと思って振り返ると...


「...ん?」

 何かおかしい...本殿は小高い丘の上にあり、そこからは外輪のカルデラを見越して海が見える。いつも見ている筈の風景に僅かな違和感を感じたアチラ少年は、もう一度視界に入った風景を観察し直す...そして、島内を経て外海を見直した時、その違和感の元をする...


「...マジかよ。大変だ!」


 一目散に石段を降りてMTBに飛び乗る。猛烈な勢いでペダルをこぎながら祖父の居るはずの自宅へ...


「じーちゃん!!  船が来たぞ!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 カゴシマから出航して7日目...衛星の熱源サーチを逃れる為のヨットは、遭遇した低気圧に揉まれて大破していた...辛うじて沈没はまぬがれたがマストは折れ、船体はあらゆる所から軋みを上げている。


 低気圧が去った後も天候はなかなか回復せず、天測をしようにも分厚い雲に阻まれ、自らの位置を知ることすらままならない。だが...


「...まだよ。まだなにもお終わっちゃいないわ。食料も水も暫くは保つ。天測で位置さえ分かれば最後の手段を...」


 葵はの熱源サーチと音源サーチを逃れる為に、ヨットに付いていた推進装置は使わずにここまで来ていた。


「幸い雲は晴れたし、このまま漂流する位なら...今夜の天測結果を見て、一か八かエンジンで...」


 電波吸収塗料で塗装された船体はまだ見つかってはいない。だが少ない液体燃料で航行出来る距離は、恐らくごく僅かだ。サーチに補足される前に目的地にたどり着けるかは...


「賭けになるわね...」


 一人キャビンで呟く。本当は船外に出て四方を確認したいが日中にデッキに出るのは色々とリスクが伴う。夜が来るまでは船内で待機するしかない。


「仕方ない...取りあえず朝御飯でも...」


 携帯食料のパックを取り出そうと船倉に向かおうとしたその時...


「よう!! これから朝飯か?」


「えっ??」



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