マシニングオラクル “AIが神を『学習』した世界”

ajakaty

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黄昏の賢者

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 祠の中には二振りの鞘に収められたら刃物と一本の徳利があるだけだった...二振りの刃物と思しき物は鞘の形からして御神刀によくある日本刀の類とは思えない形状をしており、徳利には何か油紙のような物と麻紐らしき物で封印が施されていた。

「これ…どうしたらいいと思う?」

「えっと…どうしよう?」

 二人で顔を見合わせるがとりあえず葵が大きな方の刃物を手にとる。

「なにこれ…この大きさの刃物にしては軽い…いえ軽過ぎるわ」

 そう言って柄に手をかけると鞘から抜取ろうとするが…

「ん…かたい! どうなってんの? 錆びてんのかしら?」

 その様子を見ながら小さな方の刃物を手に取ったアチラも同様に抜取ろうと手をかけるが、

「………ん!! こりゃあ無理だな。ビクともしねぇや」

 葵はともかく身長180cmを超えるアチラの腕力でも二振りの刃物はビクともしなかった。

「不思議だけど仕方ないわ!今は時間がないしその徳利は?」

 葵に促されてアチラが祠におさめられていた徳利を手にとると……その瞬間、

『…×÷%$~¶®……Pi!! “神酒ソーマ”の座標変動を確認。侵入者の生体波動スキャンを開始します』

 祠の奥から奇妙な声音の言葉が響いた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「今の何? どこから聞こえたの?」

 葵の疑問を受けたアチラは徳利を持ったまま改めて祠の奥に視線を向けたが…

 そこには祠の壁があるだけで、改めるまでもなく何もなかった。だが確かにその壁の前のあたりから奇妙な音声が確かに聞こえてくる。

「わかんねぇ……俺は物心ついた時から毎日の様にこの社に通ってるけど中を見たのは始めてだし……」

 そう答えた時、先程響いたおかしな電子音が再度響き、何もなかった空間に半透明のが浮かびあがった。

『生体波動を認証しました。ようこそ香坂阿智羅様。私はこの社に保管された遺産を管理している“異次元生存サポートガジェット”です。阿智羅様の五代前の祖先である“香坂奏多”様からは“ミネルヴァ”と呼ばれておりました。お会い出来て光栄です』

「………は?」

 急に現れた…おそらく立体映像(どうやって投影してるのかは皆目分からない)が、挨拶をしてきた。正直まったく意味が分からないが、とにかく今は時間がない……

「すまねぇ…正直なんの事だか分からねぇけど、外にとんでもねぇヤツが来てて…多分あんたの事を頼れって意味でうちのジッチャンがここに行けって俺に言ったんだ。急に言われてそっちもなんの事か分からねぇかもしんねぇけど……」

『なるほど、確かに現在、阿智羅様の扶養者である藤原玄信もとのぶ様が所属不明のアバターと交戦されております。戦況は思わしくないようですが……介入致しますか?』

「!!!出来るなら助けてくれ!!今すぐ!!!」

『かしこまりました…対象の座標を確認しました。コレクトスキル“ムーブ”を発動します…』

「えっ?」

 ミネルヴァを名乗る奇妙な映像が、意味の分からない言葉を発した瞬間……

 背後が淡く発光する。そちらに振り替えった二人の目の前で、ドサッという音と共に…。先程別れたばかりなのに、その姿はホコリにまみれ、その両手には半ばで折れた剣を握りしめて全身を朱に染めている。

「ジッチャン!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「なんだ? いったい何が起こった?」

 今しがたまで眼前にいた筈の老人…“剣神”藤原玄信が突然消えた。いくら剣の神とまで崇められている達人でも所詮は人間、自分のアバターのスペックを考えれば負けることはありえない…そしてその考証通り老人は追い詰められていたのだが……突如その姿が消えてしまったのだ。

『…………ちっ!』

 舌打ちを吐き捨て…自らの独り言めいた自問に改めて苛立ちを覚えた……

 巨大なネットワークに知識の源泉を置く“機械仕掛の神デウスエクスマキナ”の一柱である自分が、“理解不能”な現象を目の当たりにする……それはとりもなおさず“全能全知の神”を自称する自分達にとって屈辱を自覚させる結果となった。

『まぁいい。これで“”ってのは確定した。そいつが我らのだってんなら“兄”の偉大さを分からせてやんなきゃな…』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ジッチャン……しっかりしろ!大丈夫かよ!ジッチャン!」

「藤原殿!気を確かに!!」

 老人は大声で駆け寄る二人に、もたれかかる様に…その場にくず折れた。息も絶え絶えにアチラと葵を見据え……

「何故ここに…いや…そうか、社の封印は無事開封でき……」

 “コフッ……”

 瞬間、小さく吐血して意識を失う老人を見て振り替えったアチラはフクロウに大声で問いただす。

「すまねぇ、あんたミネルヴァって言ったかい?なんでもいいから医療設備はねぇか?このままじゃジッチャンが死んじまう!」

「アチラ君!藤原殿が!」

 葵に呼ばれ、改めて見ると右脚のふくらはぎから大腿にかけての裂傷が特に酷い。

 葵は自分の袖を引きちぎって太腿の根本に巻きつけた。そこには祠の小さい方の刃物も鞘ごと巻きつけられており、鞘を巻いて袖を引絞る事で止血を試みている。

「多分だけど大腿動脈を傷つけてる!このままじゃ……」

 葵がそこまで言ったとき……ミネルヴァと名乗った立体映像が

『なるほど…阿智羅様。急を要する案件ですので一つだけ確認を取ります。私はこの藤原老人の命を助ける手段を提供出来ますが……その為にはあなた様に重大な決断……端的に言えば“命”を賭けていただく必要がございます。外敵も迫っているこの際…問答は不要かと思います。疾くお答え下さい…命をかけるか否か?』

「そんなもん考える必要ねぇ!!

『かしこまりました。ですが……その手段は既にあなた様の元にございます。この際、説明は後ほどで構わないでしょう。さあ、その徳利の中身をすぐに飲み干して下さい』

 
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