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始めての共同作業
しおりを挟むアチラの背中一面に躍動していた赤い鳥が……二次元の境界を破るようにせり出して来たのだ。
今、目撃した事が正しいとすれば、その赤い鳥のタトゥー(?)自体もアチラの背中にはなかった筈だ。
それが急速に背中に浮かび上がったかと思うと……鳥の身体が立体になって行くのにあわせて、タトゥーは吸い取られるように消えていき……最後には背中から踊り出てきてしまったのだ!
「ふむ……無事顕現出来たな……大丈夫かね?アチラよ」
しかも当然の如く喋った!?
「…………ッグ、大丈夫かだと?てめぇどっから出てきたと思ってんだよ!痛えに決まってんだろ!」
「ふむ……それだけ声が出せるなら問題なかろう。おっと……久しいですなミネルヴァ女史、相変わらず理知的な瞳をしておられる」
『ふふ、あなたは変わらないわね』
アチラの背中から現れた鳥……鷹……いや鷹にしては首や尾翼が長い。全身が紅い羽毛に包まれているのを見ても、葵の知っているどんな鳥とも違う種なのは間違いなかった。
ましてや彼は立体映像とは違い、生物として確実に存在している様に見える。
「さあ!アチラよ…既に私とのネットワークは繋がり、君は本能的に私の力の使い方が分かる筈だ」
「……ああ、しかし…じーちゃんが助かるってこういう事か?」
「ふん!贅沢を言うなよ?ミネルヴァ女史、この空間の維持限界までは?」
『……あと372秒というところかしら』
「ふん!アチラよ…分かってるな?」
「ああ……くそ! 葵さん!そのナイフの小さい方をくれ!」
呆気に取られているところへの突然の言葉に一瞬何を言われているのか分からなかったが……指示にあったのが社にあったあの二振りの刃物であると気づく。
意味は分からないが、すぐに刃物を手渡すと、受け取ったアチラはすぐさま両手で鞘と柄を握り、一瞬目を閉じたと思うと小さく呟いた。
「……錬結!」
呟きと同時に振り抜かれた刀身には錆一つ無い。黒い刀身以外は見た目はただのナイフだっ………
「えっ?!」
既に、この空間に飛ばされてから何度目の驚きだろうか……抜き取られたナイフの刀身が縦に割れたかと思うと……有り得ない形に展開していく!そして展開して現れた各種の器具……葵が知る限りそれは……
「それ、手術の道具よね?」
「ああ、今からジッちゃんを手術する!ミネルヴァさん!もし残り時間60秒を切ったらカウントを頼みたい!」
『畏まりました』
「カグツチ!やるぞ!!」
「うむ、心得た」
「これより右大腿動脈縫合及び裂傷再建手術を始める!!」
「了解。身体記憶補助と特定記録保存倉庫を開放する」
ーーーーーーーー
……開始宣言からほんの僅か……梟のミネルヴァがカウントを始める前に手術は終わった。私には外科手術の知識はほぼ無いが……素人目に見てもアチラ君の手技は異様だった。
「ふう……術式終了だ。ミネルヴァさん。あんたの残存機能で人工血液の輸血と状態管理頼めるか?」
『畏まりました。見事な手技でした。奏多様も安心なさっていることでしょう』
「よしてくれよ。本当に手術をしたのはカグツチみたいなもんなんだから。それに……ご先祖様がミネルヴァさんを残してくれてなきゃ、とっくに手遅れだったんだろ?そのくらいは分かるぜ」
何らかの技術の影響で……藤原殿の身体が、ほとんど状態を変えない様に保たれている事を差し引いても、血管の縫合から始まる一連の修復手術がこの短時間で終わるはずがない。
ましてや15歳の彼が、外科手術の訓練を受けていたとは到底思えない。
「ふむ、後は暫く安静に……麻酔も局所のみであるから暫時目を覚ますだろう」
彼の背中から抜け出た、カグツチと呼ばれる紅い鳥が呟いた。なんというか…本当の鳥ではない(本物はアニメみたいに二次元から抜け出さない)としても、そもそも鳥の身体でどうやって発声してるのだろう?
「ありがとう。とりあえず助かったよ」
「謝意は不要だ。私と君は命同じくする者。そして私の産まれた意義と君の求める物は恐らく違……」
『迦具土、その話はそこまでです。阿知羅様、葵様、そろそろ“提供される狭間の助け”の維持限界が来ます』
「……分かったよ。元の場所に戻るんだね?」
『左様でございます。現在社には藤原老人を襲った正体不明のアバターが侵入、私が管理する社のマスターシステムに侵入を試みています。葵様いわく彼は5つの量子AIのうちの一つ“シヴァ”との事ですので……仮称シヴァとしましょう』
「ふむ……ミネルヴァ女史よ、帰還地点の変更は可能かな?」
『否、私のスキルは全て故香坂奏多博士が生前シミュレータ上で行使した物を圧縮保存したものですので設定の変更は不可能です』
「ならば仕方ない。軽くあやしてやるとしようか、なあアチラよ」
「俺は、もうお前が“どういう存在”かは分かってっけどさ……あんなナリでも、あいつは世界を牛耳ってる5体のAIの内の一人で……ジーチャンをボコボコにしたヤツだぞ?油断してねーだろーな?」
「ふふふ、その“油断”というやつが可能なのが、まさに私や君が優位な部分なんだが……まぁいいさそろそろだぞ!」
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